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34、セイラの自己紹介と質問の意図

「えっ? 私の秘密、ですか? えーっと……」


 カシスは、平静を装って、セイラに指定された席に座ったが、頭の中は大混乱していた。セイラが次々と話す情報を、真面目に記憶しようとしていたときに、予想もしないことを言われたためだ。


「こんなことを言っても、困らせてしまうわね。臨時パーティとはいえ、私は、こういう縁は大切にしたいの。まずは自己紹介からよね〜」


 セイラは、コホンと咳払いをして、隣に座るダインに目配せをした。



「俺からですか? あー、ダインといいます。もう一人の俺に似た奴は、双子の弟のケインです。セイラさんが冒険者の仕事をするときは、補助魔導士要員としてよく呼ばれます。えーっと、こんなもんですかね?」


 ダインは、それ以上は話す気がなさそうだ。


「はーい、じゃあ、次は私ね。店に入ったときの反応で分かったかもしれないけど、私は、セイラ・サンサンです」


「えっ? サンサンって……あ、すみません」


 カシスは、サンサンは大商人の名前だと思っていた。乙女ゲーム『創世のループ』では、中年の大商人をサンサンと呼んでいたためだ。


「冒険者としては、家名なしのセイラよ。サンサン家は商人貴族だから、領地や爵位はないわ。平民として接してくれていいわよ」


「あ、はい……」


 セイラは、カシスがサンサンに反応した理由がわかっていた。だが、もう少し確証が欲しいと考え、素知らぬフリをしている。


「私は、いろいろと噂されているけど、前世のことと、ごちゃ混ぜになってるみたい。カシスさんは、新規転生者よね? 悪役令嬢って知ってる?」


「乙女ゲームの話でしょうか」


 カシスがそう返すと、セイラは、ニッと笑みを浮かべた。そして、ダインに目配せをしている。



 悪役令嬢という言葉が出てきたせいか、カシスは、頭の中で、3人の悪役令嬢を思い浮かべていた。


(彼女も悪役令嬢だったの?)


 カシスの記憶では、『転換の書』に登場する悪役令嬢ファルメリア・サフスが、最も印象に残っていた。一番最初に配信されたストーリーだから、宣伝もよく見ていたためだろう。


 今、目の前にいるセイラが31歳だということは、その前世は、終焉を見ていなければ、『創世の書』だと、カシスは考えていた。


(名前が出てこないわ)


 一番あとに配信された『創世の書』は、あまりやり込んでいない。カシスは、悪役令嬢の顔は覚えていたけど、名前を忘れていた。



「カシスさんは、どこまで知っているのかしら。この世界が、ループ世界であることは、ご存じ?」


「はい、前世の記憶を持つ人が多いことは、知っています。悪役令嬢という言葉を使う人は、私と同じ世界から来たのだという話も、耳にしました」


「この店の看板を見て、何か感じなかった?」


(えっ? 看板?)


 カシスは、想定外の質問に戸惑った。10歳のときに『創世の書』を読んだかを尋ねられると思っていた。一方でセイラは、店の前で看板を見たカシスの反応に、気づいていた様子。


「ゲームの中でも見たと思いました」


「十数年前に、この看板に変えたの。私と同じ世界からの転生者なら、皆、反応するからね。パクリだと思ったでしょ?」


「えっ! セイラさんが変えたんですか? ゲームではずっとこれ……いや、気にしてなかったですけど、『創世の書』では、この看板はなかったですね」


 カシスの返答に、セイラは、またニッと笑みを浮かべた。セイラが欲しい確証が得られた様子。



「カシスさん、私には、前世とその一つ前の記憶があるの。その意味は、わかるかしら?」


「ループの終了でしょうか」


「それも知っているなら、話が早いわ。私達ね、諦めてないのよ。ストーリーを変えようとしているの。カシスさんには迷惑な話かもしれないけど、あと3年ですべてが終わるわ。その意味はわかる?」


「私も含めて全員が、終焉で命を落とすんですね。やはり『終焉の書』が始まっていましたか」


「ええ、私には終焉の記憶がないの。だけど、乙女ゲームのストーリーは、何度、転生しても頭から消えない。ただ、見えなくなっているものがあるの。おそらく、主人公である新規転生者にしか見えないんだと思う」


「主人公特典、ですか?」


「そういう言い方をしているけどね。たぶん、魔力のない新規転生者にしか見えないのだと思う」


(魔力が邪魔をするの?)


「それは、具体的には何のことですか? 私も、なんとかしたいと思っています」


「カシスさんの近くにも、終焉で消滅してしまう人がいるのね。そっか、王都は多いわね。終焉の炎に包まれる地だもの」


 セイラは、それが具体的に何かをカシスに話したくても話せない。彼女自身も、何が見えないか、正確にはわからないのだ。



「カシスさん、俺達も終焉で消滅するんですよ。だけど、あと3年ということを知らない人が多いので……」


「えっ!? あ、もちろん、知らない人に他言するつもりはありません。ダインさんとケインさんも、ですか……」


 簡単な自己紹介で済ませたダインだったが、カシスを信用したのか、話に加わった。


「高位の冒険者は同じだと思いますよ。事前に手続きをしておけば、冒険者ギルドは、前世の経験値の引き継ぎができるからね。プラチナカードは、ある意味、終了者の証だ。俺は、ゴールドカードですけどね」


(そうなのね……)


 カシスは、どう返せばいいか、わからなくなっていた。



 ちょうど料理が運ばれてきたことで、カシスはホッとした。沈黙していても、おかしくない。


 どちらの鍋も、すぐに食べられる状態になっていた。赤辛鍋は、唐辛子を使った鍋のように見える。チーズ鍋は、チーズフォンデュだ。



「次は、カシスさんの番よ。男の子の服を着ているけど、女の子でしょ?」



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