表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/84

33、ルペ村

「完全に火の海だな」


 カシス達は、セイラの転移魔法で、ルペ村の街道に移動した。しかも、空中に浮かんでいる。


 オレンジ色に染まった景色と、足が地につかないことで、カシスは冷静ではいられなかった。時折、熱風が吹き抜け、その風にあおられてグラグラと揺れる。



「そうね。とりあえず、消火するよ。みんな、そのまま浮かんでいてね〜」


(ひぇっ!)


 セイラが魔法の詠唱を始めると、カシスへの重力魔法が不安定になったのか、カシスは、吹き下ろす風で落下するのを感じた。


「おっと、カシス、大丈夫か?」


(ひゃぁ〜)


 カシスの腕を掴んで引き上げたラーク。


「あ、ありがとうございます」


「いや、セイラが未熟なせいだ。詠唱を始めると、忘れっぽくなる。リュックをしっかりと握っていろ。わずかだが、魔力を秘めているからな」


「はい。あ、それで、リュックを背負うと回転しなくなったんですね」


「回転?」


「はい、ギルド前でのことですが。セイラさんは、剣の重さで、回ってしまうのかなって言ってました」


「魔力がないと重力魔法の操作もできないからな。しかし、カシスは回ってたのか?」


(あっ、笑った)


 ククッと楽しそうに笑ったラークの横顔を、カシスはジッと見てしまう。自分が笑われているというより、彼が楽しそうな顔をしたことを、カシスは嬉しいと感じていた。



 その直後、ラークの表情は真顔に戻り、魔法を使った。魔導士の二人も、少し遅れて魔法を発動した。カシス達は、バリアのような物に包まれた。


(えっ!? すご……)


 セイラが詠唱を終えて魔法を放つと、オレンジ色に燃えていた街道は、真っ白な雪の世界に変わった。


 炎の中にいた冒険者達は、慌てて空へ退避している。


 セイラは、冒険者達の行動を確認したあと、再び魔力を放った。まだ生きていた魔物が、一瞬で氷漬けになる。



「セイラ、全方向に魔法を放つな! 街道だけに放て」


「え〜、そんなの無理だもん〜」


 ラークの指摘に、拗ねた表情を見せるセイラ。


(絶対、恋人だわ……)


 カシスは、男装して来てよかったと、また同じことを考えていた。ラークに腕を抱えられている状況にドキドキしつつも、彼女の頭は氷のように冷えていた。




 ◇◇◇



「俺は、ケインと一緒に現状確認をしてくる。昼飯でも食べていてくれ」


「はいはーい。じゃあ、いつもの店にいるわね」


(いつもの店……)


 ルペ村に入ると、ラークは魔導士を一人連れて、カシス達から離れて行った。



「ダインさんは、発酵食が嫌いだったよね。カシスさんは、嫌いな物はあるかしら?」


 ルペ村の奥へと歩きながら、セイラは、上機嫌でカシスに話しかけた。ダインと呼ばれた魔導士が先導する形で、セイラはカシスの横に並んで歩いている。


「私は、田舎から出てきたばかりなので、王都付近の食べ物は、全然わからないです」


「どこから来たの?」


「ガッシュ領です」


「あら、遠いわね。農業が発展している領地ね。じゃあ、野菜はだいたい食べれるかしら?」


「はい、大丈夫だと思います」


 カシスは、周りの視線が気になっている様子。冒険者の間で有名なセイラは宿場町でも有名で、すれ違う人達は、彼女の美しさに見惚れていると、カシスは感じていた。


 一方でセイラは、カシスに興味を持っていた。セイラが上機嫌なのは、口うるさいラークが離れている機会に、カシスといろいろな話をしてみたいと思っているためだった。



「ここよ〜。ダインさんには悪いけど、私、チーズ料理を食べるからねー」


(あれ? この店)


 独特な看板を見て、カシスは、乙女ゲームを思い出した。まるでペコちゃんをパクったかのような、女の子がぺろっと舌を出している看板の上部には、この世界の文字で、鍋屋と書いてある。乙女ゲームでは、フォンデュ屋だったことを思い出し、この店がどの国にもあるチェーン店だと気づいたカシス。


(この店って、サンサンの……)


 乙女ゲーム『創世のループ』では、一番あとから配信された『創世の書』に登場する大商人サンサン。彼が経営するチェーンレストランのフォンデュ屋は、様々な情報入手の場になっていた。だから攻略情報では、新しいストーリーをプレイする際には、フォンデュ屋の常連客と接触することを推奨していた。




「いらっしゃいませ。あっ、お嬢様」


(お嬢様?)


 セイラの姿を見た店員達に、緊張が走った。


「今日は、冒険者のセイラよ。5人なの」


「かしこまりました! 個室しか空いていませんが、よろしいですか」


「ええ、仕方ないわね。冒険者のときは普通にしてほしいけど、王命ミッションが出てるから、この店しか入れないと思ったのよ」


 カシスは、大勢の客が待っていることに気づいた。セイラの顔を見て、皆がざわついている。


「ご案内いたします。ようこそ、鍋屋へ」


 店員に案内され、カシス達は奥の個室へと進んだ。



 ◇◇◇



「チーズ鍋と、赤辛鍋をお願いね。あとから二人来るから、取り皿は、5人分ね〜」


 個室というより貴賓室のようだと、カシスは感じた。あまりにも豪華な部屋で、落ち着かない。


 セイラは、メニューも開かずに注文すると、勝手知ったる様子で、テーブルを動かしている。二つのテーブルをくっつけて満足げに微笑むと、真ん中に座った。



「ダインさんは、赤辛鍋だから、奥のテーブルね。私は両方食べるから、真ん中だよ。カシスさんは、チーズは食べられる? 辛い料理は?」


「はい、どちらも食べられますから、余った方で……」


「何を言ってるの? 両方食べるなら真ん中でしょ。私の向かいの席ね。ラークはどちらも食べるけど、赤辛鍋の方が好きだし。ケインさんはどうだったかしら?」


「ケインは、私とは真逆です」


「じゃあ、チーズ鍋ね。双子なのに、趣味も好みも真逆なのね〜。さて、今日は、カシスさんの秘密を聞こうかな」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ