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32、王命ミッションとセイラのチカラ

 翌朝、いつものように王女の朝食に付き添うと、カシスは多くの使用人から声をかけられた。


「セイラさんの臨時パーティに参加するんだってな?」


 使用人のほとんどは、カシスが男装していることを知らない。だから、男同士の会話のつもりで、少し品のないことを言ってくる人もいる。


(やはり、彼女はモテるのね)


 昨夜、スグリット王子から、彼女が31歳だと聞いたカシスは、自分なりに情報を集めていた。大商人の家に生まれたと聞いたが、既に両親は亡く、彼女の兄が家長として、商売を継いでいることがわかった。



『王命ミッションが出ました。王宮内にいる皆さんは、近衛騎士の指示に従ってください』


(館内放送?)


 カシスは、初めて聞く奇妙な声に驚いた。何もかも中断させる強制力を伴う声だ。




「カシス、いよいよね。昨夜のことを忘れないように! いいわねっ」


 王女を部屋に送り届けると、カシスは緊張してきた様子。


「ファファリア様から頂いた布袋は、忘れずに持って行きます」


「ええ、そうしてちょうだい。王命ミッションのことは、何も気にしなくていいわ。報酬が高いから、他国からも冒険者が来るはずよ」


「足手まといにならないよう、気をつけます」


 カシスの返事が気に入らないのか、王女は、ムスッと膨れっ面をして見せた。だが、今のカシスには、心の余裕がない様子。


「早く着替えて行きなさい。彼にちゃんと言うのよ? それが最重要ミッションよ。わかった?」


「は、はい……」


 カシスがそう返事をすると、ようやく王女は笑顔を見せた。




 ◇◇◇



 カシスは、パンをかじりながら男物の軽装に着替え、長剣と短剣を装備し、待ち合わせ場所と決めていたギルド前へ急いだ。手には、王女から渡された布袋を持っている。


(すごい人……)


 ギルド前には、入り口に近寄れないほど大勢の人が集まっていた。



「受付がまだの人は、こちらですぅ〜」


 ギルドの職員が、数カ所で手を振っている。だがカシスは、大勢の人の波にのまれ、途方に暮れていた。




「カシスさん、早いわね。他のメンバーは、まだしばらくは来ないと思うわ」


(わわっ!)


 突然、話しかけられて驚くカシス。それも当然のことだろう。セイラは、ふわふわと浮かんでいたのだから。


「セイラさんは、飛べるのですか」


「これは、ただの重力魔法よ。私達が出発するのは、もう少し後になりそうね。受付は終わったかしら?」


「いえ、たどり着けなくて」


「じゃあ、行きましょう」


(ひぇぇえっ!)


 セイラがパチンと指を弾くと、カシスの身体も、ふわふわと空中を漂い始めた。全く重力が無くなったような感覚に、カシスは、バランスが取れずにクルクルと回転している。


「あら、手を繋ぎましょうか。剣の重さで回ってしまうのね。その袋は、アナタのご主人様が用意したのかしら」


「はい、そうです。ひゃー、あ、すみません」


 セイラがカシスの手を握ると、やっとカシスの回転が止まった。そのまま、ギルド職員がいる方へと、ふわふわと移動していく。



「この子の受付がまだなの〜」


「はい。降りてきてください。魔力のない方には、リュックをお渡ししないといけないので」


(めちゃくちゃ見られてる)


 王命ミッションに参加するような高位冒険者達の間では、セイラは、かなりの有名人だった。そのため、手を繋いで移動するカシスに、嫉妬の視線が突き刺さる。


 職員の元にたどり着き、地上に足がついたことで、カシスはホッと息を吐いた。


「冒険者登録証をお願いしま……あっ、アナタがカシスさんでしたか。ブロンズカードでの王命ミッションのパーティ受注は、初めてですよ」


 赤茶色のカードを出したことで、カシスは、周りの抵抗が増すと警戒したが、反応は違っていた。あちこちから、新規転生者だという囁き声が聞こえてくる。


 カシスは、布製の軽いリュックを渡された。


「魔力のない人は、魔法袋やアイテムボックスが使えないので、このリュックを常に背負っていてください。これが目印にもなります。交戦時は特に、冒険者の能力は、互いに即座に知る必要があるので」


「はい。わかりました」


 カシスは、手に持っていた布袋をリュックに入れた。まるでリュックの大きさがわかっていたかのように、ストンと収まる。


「こちらが携帯食です。これもリュックに入れておいてください。美味しくはないですが、非常食です。皆さんは、すぐに捨てますが、ミッションから戻られるまでは、魔力のない方は、必ず持っていてください」


「は、はい」


 カシスが返事をすると、身体がふわふわと浮かんだ。セイラが、また重力魔法を使ったらしい。


(あれ? 回らない)


 リュックを背負っていると、先程のようには回転しなかった。



「セイラさん、出発のご予定は?」


「まだ、カシスさんしか来てないのよ。あっ、三人がいたわ。のんびりしてるんだからー」


「じゃあ、メンバーは揃いましたね? 今、街道に魔物が溢れていて、宿場町付近が火の海なんです。そのため、転移魔法陣の発動ができなくて……」


(火を吐く魔物?)


「あら〜、張り切った冒険者の仕業ね。転移妨害をするなんて、ヤンチャすぎるわね。私達で何とかするわ」


「よろしくお願いします!」


(あっ!)


 ふわふわ浮かぶカシス達の前に、ラークが現れた。



「セイラ、おまえ、また浮かんで遊んでるのか」


(いつも一緒みたいな言い方だわ)


「混んでるんだもの。この方が見つけやすいでしょ。ラークだって浮かんでるじゃない」


「おまえが浮かんでるからだろ」


 魔導士二人が、スーッと飛んできた。


「揃ったね。ルペ村の街道が火の海らしいよ。まずは、消火だね。いくよ〜」


 セイラがパチンと指を弾くと、5人は転移魔法の光に包まれた。



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