31、熱くなる兄妹
第二王子ウィルラークが出ていくと、王女の部屋は、すぐに賑やかになった。
(わかりやすいわね)
カシスは、ミニキッチンで紅茶を淹れながら、ふと第二王子のことを考えていた。顔の上半分を覆う銀色のハーフマスクのためか、冷たい印象を受けるが、噂話をしているのは使用人達だ。
第二王子の前では、王女はかわいい妹だし、悪戯っ子のスグリット王子はビクビクしているが、嫌っているようには見えない。
ただ、カシスは、仲良し兄妹が、第二王子の前だと、良い子を演じていると感じていた。
「チーズの焼き菓子と紅茶をお持ちしました」
カシスが声をかけると、二人はすぐに、まるいテーブル席に座った。その素早さが、カシスには可愛く見えている様子。
「俺、チーズの焼き菓子が好きなんだ」
そう言ってすぐに手を伸ばすスグリット王子に、王女ファファリアは、まるでお姉さんのような笑みを浮かべている。
「カシスっ! 元気がないのは、王命ミッションを受けたせいなの?」
「それもありますが……ファファリア様は、なぜご存知なのですか」
カシスがそう尋ねると、口いっぱいに焼き菓子を頬張ったスグリット王子が、何かモゴモゴと言ったが、全く伝わらない。
「お兄様、焼き菓子を頬張ってお話されても、カシスはわからないですわよ?」
ゴクッと紅茶を飲み、スグリット王子は再び口を開く。
「ファファリアには伝わるのにな。カシス、さっき、兄上が教えてくれたんだよ」
「第二王子がなぜ?」
「兄上は、いつも王命ミッションに参加するからな。現地の近くに作戦会議の拠点ができるから、指揮官だと思うけどな」
「あっ、明日の準備とおっしゃっていたのは、その件なんですね。参加者の把握もされているのですか」
「カシスは、王宮の使用人としてパーティ参加登録をしたんだろ? 兄上は、それを知らせに来てくれたんだ」
(登録したばかりなのに?)
「そうなんですね。私は人数合わせみたいですが、成り行きで、そうなってしまいました」
スグリット王子と話していると、王女はトコトコと寝室へと移動してしまった。そして何やら、ゴトゴトと探し物をしているような音が聞こえる。
「カシスっ、これを持って行きなさい」
戻ってきた王女は、パンパンに膨らんだ土色の巾着袋を、カシスに差し出した。
「ファファリア様、これは?」
「枕よっ」
「まくら?」
「ええ、新規転生者は魔法が使えない人が多いから、ギルドからリュックや非常食が支給されるわ。リュックに、これも入れておきなさい」
「枕が必要なんですか?」
「何事もなければ使う必要はないわ。だけど、王命ミッションは、何が起こるかわからない。冒険者なら、当然の備えをしているのよ。仲間とはぐれてしまうこともある。袋の中には、タオルと雨避けの防寒着が入っているわ。山の中で遭難したときに、最も必要な物よ」
(あっ、そういうことか!)
「ファファリア様、ありがとうございます。私は何を用意すべきか、服装もわからなくて」
「服は、いつもの軽装でいいわ。リュックは新規転生者の目印なの。高位ランク冒険者なら、必ず守ろうとするはずよ。臨時パーティを組むのは、セイラなのよね?」
「はい、セイラさんとラークさん、そして魔導士っぽい二人の男性です」
カシスがそこまで話すと、王女の表情は、キラキラと輝き始めた。
「そのラークって、Aランクの彼なのね?」
「あ、はい……」
「彼と一緒なら、ウキウキするはずじゃないの? どうしたのよ。あっ、不安なのかしら。でも、セイラのパーティなら、危険はないわ。彼女以上の魔導士は、この国には居ないもの」
「セイラさんがすごい魔導士なのは、聞いたのですが……」
カシスはどう話そうかと考えていたが、王女だけでなくスグリット王子まで、キラッキラな目をしているため、言葉が上手く出てこない。
「もしかして、カシスは告白して振られたの?」
「いえ、告白なんてしてないです。なんだか、セイラさんとラークさんが、親しく見えて……」
「まさか、恋人?」
「そんな感じに見えました」
キラッキラな目をしていた兄妹は、コソコソと相談を始めた様子。小声でも、カシスには聞こえてしまう。
セイラという魔導士は、非常にモテるらしく、何人もの恋人がいるという噂があるようだ。また彼女自身が、大商人の家に生まれたことから、夫が複数いるという噂もあるらしい。
(お嬢様か)
セイラが大商人の家の娘だと知ったカシスは、妙に納得していた。
「えっと、カシス。恋人に見えても、カシスにチャンスがないわけではないわ。カシスの方が圧倒的に若いのよ! あと10年もすれば……その前に終焉だったわね」
王女は、ガクリとうな垂れる。
「カシス、そのラークという冒険者は、いくつなんだ? セイラは、確か、俺より20歳上だから、31歳だぞ」
(あっ、11歳?)
「スグリット王子は、11歳になられたのですね。おめでとうございます」
「あぁ、まぁな。それで、ラークは何歳なんだ?」
「年齢は聞いてないのですが、20歳前後に見えます。でも、落ち着いているから、もう少し上かな」
「大抵の人は、前世の記憶があるから、落ち着いているかは、判断材料にはならないぞ」
(あっ、そっか)
「カシスっ! セイラには勝てないと思うけど、臨時パーティに誘ってくれるんだから、可能性はゼロではないわ。彼に、ちゃんと女性だと言ったわよね?」
「えっ、あっ……」
王女から何度も言われていたことだが、カシスは、すっかり忘れていた。
「もうっ! カシス、次に彼に会ったら、女性だと明かすのよ? いいわね?」
「次に会うのは、王命ミッションですから……」
「ミッションなんて、どうでもいいわ。カシスの恋の方が大切よっ!」




