30、数合わせ
「カシス? 元気ないわね」
「いえ、大丈夫です、ファファリア様。私は一旦失礼しますね」
王宮に戻ってカシスは、執事の黒服に着替え、王女の夕食の付き添いをした。その間も、ずっと冒険者ギルドでのことが、頭から離れなかった。
セイラが紅茶のおかわりを飲んでいたとき、冒険者ギルドの地下にある食堂には、数人の職員が降りてきた。
そして、カシスがオロオロしている間に、ミッションの手続きが完了した。セイラの仲間らしき魔導士風の男性二人も加わり、ラークを含めた5人で、臨時パーティを組むことになった。
だが、いつ出発するかは決まっていない。王命ミッションが出されたら、すぐに冒険者ギルドの前に集まることを決められただけだった。
カシスは、不安だった。
皆は楽しそうな表情をしていたが、新人冒険者のカシスには経験のないこと。どのような準備が必要かもわからない。
セイラがラークの恋人かもしれないと考えたカシスは、いろいろと複雑な感情も湧き上がっていた。
◇◇◇
カシスが夕食を食べに使用人の食堂へ行くと、いつもとは様子が違っていた。
(なぜ、こんなに混んでるの?)
王女の夕食は、時間が早い。そのため、王女の夕食後に食事休憩をするカシスは、いつもガラガラな食堂で、夕食を食べていた。
「カシスさんは、今、冒険者ランクを上げているか?」
カシスが座った向かいの席で食事をしていた、渡り廊下の警備兵が、カシスに話しかけた。
「はい、まだDランクなので、早く上げようと……」
「Dランクか。じゃあ、難しいな。俺は動けないしなー。足りるのかな」
「食堂が混んでいることと、何か関係があるんですか?」
「明日の朝には、王命ミッションが発令されるみたいだ」
(あっ! 聞けるチャンスだわ)
「冒険者ギルドでもそんな話を聞きましたが、王命ミッションが出ると、どうなるのですか?」
「Dランクなら知らないか。王命ミッションは、滅多に発令されないからな。一定ランク以上の冒険者は、参加する義務があるんだよ。王宮からも、警備兵や近衛騎士以外の使用人には、参加義務がある」
「警備兵や近衛騎士以外の使用人って、私もですか?」
「あぁ、戦える者だけだがな。王命ミッションのときは、王宮からも人員を出す必要がある。今はタイミングが悪くて、第一王子が他国に行っているから、有能な若い使用人が少ないんだよ」
「えっと、私、冒険者ギルドで、そのミッションを受けることになってます。断って、王宮の使用人として参加する方が良いでしょうか」
(あれ?)
カシスがそう尋ねると、彼はポカンと口を開けていた。
「カシスさんは、Dランクなんだよな? 冒険者で王命ミッションを受けるのは、ゴールドカード以上だよ?」
「あっ、はい。今日知り合った人に巻き込まれたというか、私も含めて5人で、受注手続きが終わっています」
「ちょ、ちょっと待って。いや、飯を食っててくれ。確認してくる」
そう言うと、彼は席を立ち、近衛騎士が集まっているテーブルにすっ飛んで行った。
カシスが夕食を食べ終わった頃、近衛騎士を連れて、警備兵が戻ってきた。
「キミの身分証を見せてくれるか?」
「あ、はい」
カシスが赤茶色のカードを渡すと、何かの道具に乗せられた。
「ふむ、カシスか。確かに、王命ミッションへの参加手続きが完了している。リーダーは、セイラとなっているが、間違いないか?」
「はい、セイラさんがリーダーかは知らなかったですが、彼女に巻き込まれた形です」
「まぁ、数合わせかもしれんな。王命ミッションは、10人以上の臨時パーティを推奨しているが、最低人数は5人だ。その様子だと、セイラのことも知らないみたいだな」
「今日、会ったばかりなので、ほとんど知らないです。あっ、プラチナカードって言われてましたが」
「セイラは、このフルールニア王国で、最も有能な魔導士だ。足手まといにならないようにな。カシスが王宮の使用人であることを登録しても構わないか?」
「えっ? 私には判断できません。セイラさん達のご迷惑になるなら、困ります」
「冒険者には知らせない情報だ。王宮から何名が参加するかを報告する義務があるのだ。冒険者パーティ参加という形で、登録させてもらうぞ」
(いいのかな?)
カシスが返事に迷っていると、警備兵が口を開く。
「カシスさん、これは、死亡時のための情報でもあるんですよ。王宮の使用人が参加した場合は、消息不明のままにはなりません。国王は必ず捜索してくれますから」
「なるほど……あっ」
カシスに赤茶色のカードを返すと、近衛騎士は、他へと移動していった。
(登録されたみたい)
「カシスさん、助かりますよ。数が足りなければ、俺達が行かなきゃいけない可能性もあったので」
「王宮の警備兵が減るのはマズいですよね」
「戦力外の警備兵もいますけどね。でも、有力冒険者の臨時パーティに使用人が参加することで、俺達まで行かされる可能性はなくなりました。聞いておいて良かった。まぁ、単なる数合わせですけどね〜」
(また、数合わせ、か)
◇◇◇
「ファファリア様、今夜は、チーズの焼き菓子をお持ちしました」
王女の部屋へ、お菓子を持っていくと、スグリット王子も居るのに、いつものような賑やかさがなかった。
カシスは、王女の部屋の扉を閉めようとして、ギクッと、表情を引きつらせる。
(ひぇっ!)
「カシス、ちょうどお兄様が、扉を開けようとしたとこだったのよ。ふふっ、お兄様もお菓子を召し上がりますぅ?」
「いや、私には、準備があるからな」
第二王子ウィルラークは、そう告げると、カシスのことは無視するかのように、スッと出て行った。




