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28、冒険者ラークと商人ギルド長

「はぁ? タダなんだから……うげっ、ラークさんか」


(どちらも、ラークさんよね)


「ラーク、俺も朝メシ。普通に食えるものをくれ」


 そう話しながら、ラークは、この前と同じくカシスの右側のカウンター席に座った。彼は、左目には土色の眼帯を付けている。


 カシスは、ラークが右目を間近で見られることを避けていると感じていた。ラークの右目は、近くで見ると深い藍色で、他の人とは異なっている。だが、カシスの目には、宝石のように輝いて見えていた。



「そっちの兄さんと同じ物になりますが?」


「それでいい。今朝は二日酔いで食欲がないからな。ヤバそうな物には手を付けない」


(二日酔い?)


 ラークの前にも、カシスと同じ朝食セットが置かれた。だがスープの色は、明らかに違う。



「ラークさんは、二日酔いなんですか?」


「あぁ、昨夜、ベリーのカクテルが美味い店を見つけて、飲み過ぎたんだよ」


「あの、二日酔いの薬とか……」


「いや、耐性がつくかもしれないから、我慢する。あっ! スープの色が違うよな。おい! ラーク!」


 私のスープは赤っぽくて、彼のスープはポタージュスープに見える。



「ラークさんに出した分は、塩味の強いスープですよ。二日酔いだと言われたからです。貴重なスパイスは入れていません。ここで吐かれたら困りますからな」


「カシスのスープは、激マズじゃないだろうな?」


「それは、好みによりますな」


「カシス、やめておけ。また気分が悪くなるぞ。あっ!」


 ラークが忠告したのは、カシスがちょうどスープに口をつけたタイミングだった。


「あっ! 美味しいです。少し酸味があるのは、赤い野菜ですか?」


「兄さんは美味いと言うか。ありがとよ。酸っぱいのは後乗せ野菜だ。ん〜、半々だな。もっとハーブを入れるべきか」


「冒険者で実験するなよ」


 文句を言いながらも、ラークは普通に朝食を食べている。そんな彼の様子を、チラチラと見てしまうカシス。



「しかし、ラークさんが朝食に来るなんて、珍しいですな。あぁ、昨日、ブルーボックスが動いてましたね」


 商人ギルド長の話が唐突すぎると感じたカシスは、ラークがブルーボックスと何か関係あるのかと、首を傾げる。


「は? 俺はAランクだぜ? ブルーボックスに捕まるわけないだろ」


(あっ、そういうことか)


 カシスは、二人が何か目配せをしたことには、気づいていなかった。



「レッドボックスは、レザーニア王国の交易都市の冒険者ギルドで、抜き打ち調査をしたらしいね。このフルールニア王国も、調べるなら交易都市だと思っていたから、まさか王都に来るとは驚きましたよ」


(昨日、聞いた話だわ)


 カシスは、商人ギルド長が自分を試しているような気がした。今朝、王女から聞いた3箇条が頭に浮かんだが、ここには、道化師ボックスは居ない。あまり黙っているのも不自然かと、カシスは落ち着かない様子。



「カシスは、レッドボックスを知ってるのか?」


「えーっと、最高ランクパーティだという噂は聞きました。昨日、扉番の依頼を受けたので、青い髪の人達がギルドに入っていくのを見ましたが」


「兄さんが、昨日の扉番か。じゃあ、ブルーボックスの団長と会ったんじゃないか?」


(これは、ダメな質問!)


「どの方が団長さんか、わからなかったです。周りにいた人達は、ブルーボックスだとしか言ってなかったですし」


「ふぅん、じゃあ、気づいてないのか。私は何度か見てるんだよ。初めて見たときは、全然強そうには見えないから、驚いたね。あぁ、団長を見たことを誰かに言うと、幸運が訪れるという噂があるよ」


「へぇ、そうなんですかー」


(これが、強制力なのかな?)


 道化師に会ったことを言いそうになったカシスだったが、必死に耐えた。カシスは、この世界を異常だと言っていた王女の言葉を信じようと思っていた。




「カシス、まだ、ここにいる方がいいよ」


 食後の紅茶を飲み終え、カシスが立ち上がろうとすると、ラークが引き止めた。


「私、まだ依頼を見てなくて……」


「混んでただろ? 今朝、緊急ミッションが出たんだよ。ルペ村の北の山に、魔物が大発生したらしい」


「大変じゃないですか。ルペ村って、王都に近いですよね?」


「北門を出て、しばらく歩いたら、左側に広がる小さな宿場町だ。馬車に乗るほどの距離ではない」


「その北の山って……風の強い丘のことですか?」


「いや、さらにその北だよ。だから、もうしばらく待つ方がいい。緊急ミッションの初動は、本業の冒険者に任せるべきだ。俺達のような兼業の冒険者は、状況が明らかになってから動く方がいいからな」


(ラークさんが兼業?)


 カシスは、彼は冒険者が本業だと思っていた。普段は何をしているのかを尋ねたくなったが、この関係が崩れるのではないかと思うと、怖くて聞けない。



「ラークさんは、それで、ここに来たんですね。普段は見ない人がチラホラ居ますけど」


 商人ギルド長にそう言われて、カウンター席に座っていたラークは店内を見回した。


「あー、有名どころが来たみたいだね。ということは、これは、魔物大発生どころじゃないか」


(終焉のシナリオがおかしい?)


 カシスは、3年あるはずの『終焉の書』の期間が、もう後半なのではないかと、不安を感じ始めていた。昨日、王宮の雑用係をしているラークが、中盤だと言っていたことも頭に浮かぶ。



「あら〜、ラークじゃない。かわいい男の子を連れているのね。ん? 女の子かしら?」


(何? この人)


 艶っぽい声の女性が、ラークの肩に手を置いたのを見たカシスは、少し苛立ちを感じた。


「王宮務めの執事さんだよ、セイラ」


 ラークはそう言うと、優しい笑顔を彼女に向けた。


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