27、王女の第3の眼と前世のこと
「カシス、花瓶の配置が上手くできないの」
翌朝、王女ファファリアの朝食の後、部屋に送り届けると、王女は妙な理由をつけて、カシスを部屋に招き入れた。
「高い場所でしょうか。お手伝いしますね」
カシスがこの時間に、王女の部屋に入ることは珍しいため、扉の前に立つ護衛に、適当な理由を聞かせたのだろう。
扉を閉めて、まるいテーブルの方へついていくと、王女は、派手な音を立て始めた。
「カシス、もう少し左側よ」
大きな声で、王女はしゃべっているが、カシスに何かを指示しているわけではない。
(今朝は、反王女派の護衛かな)
しばらくすると、王女はニヤッと笑った。扉の外で声が聞こえる。
「カシス、もう大丈夫よ。お兄様が居ないときは、警戒しないといけないの」
「はい、見慣れない護衛だと思いました」
「わたし、危機感知能力があるの。第3の眼よ」
「あっ、お腹の……見えるようになったんですか?」
「視覚とは違って、目では見えないものが視えるわ」
「へぇ、すごいですね。超能力みたいです」
カシスが、この世界では使わない表現で褒めると、王女は、ドヤ顔をして喜ぶ。
「カシスの朝食前に悪かったわね。だけど、カシスが冒険者ギルドに行く前に、話しておくべきことがあるのよ」
「はい、昨夜のことでしょうか」
「ええ、そうよ。カシス、誰も信用してはいけないわ。貴女の味方は、貴女のロザリーだけだと思っておきなさい」
「ファファリア様のことも信用していますよ?」
「そう? でも、わたしは、この世界の強制力に抗うことはできないわ。だから、信用しすぎないでちょうだい」
「はい、いつもとは違うと感じたら、気をつけます」
カシスがそう返すと、王女は満足げに頷いた。
「わたしは、お兄様を守りたいのよ」
「スグリット王子ですか? あっ、ラークさんが何だか妙ですもんね。嘘つきというか、矛盾することを話されるのを、何度か聞いたことがあります」
「ええ、わたしは、あの男を信用していないわ。だけど、お兄様は、誰でもすぐに信じてしまうの」
「スグリット王子は、人が良いんでしょうね」
「そうなの! お兄様は、誰にでも慈悲深いわ。だから心配なのよ」
前世の記憶があることで、兄妹の立場が逆転することもあるのかと、カシスは微笑ましく思っていた。
「今の話は、スグリット王子には内緒にしておきますね」
「ハッ! 誰にも言ってはいけないわよ! お兄様には、私の前世が何者だったか話してないんだから」
「かしこまりました。私には、たまに、悪役令嬢ファルメリア・サフスに見えていますが」
「なっ!? 絶対に言わないでよ!?」
「もちろん、内緒にしておきます。ご安心ください」
(やはり、ファルメリアだったのね)
必死な顔をする王女の気持ちが、カシスにはわかっていた。兄に恋心を抱くかわいい妹は、悪役令嬢ファルメリア・サフスだったなんてことは、知られたくないだろう。
だが、王女が兄に話さない理由は、カシスの予想とは全く違っていた。
悪役令嬢ファルメリアは、幼い王子スグリットの家庭教師をしていた過去がある。そして、無実の罪で投獄されたファルメリアの心を支えたのは、幼い王子スグリットだった。彼女は、悲惨な最期を遂げる前、そんな幼い王子に恋心を抱いていたのだった。
「カシス、道化師ボックスには注意が必要よ。おそらく彼は、新規転生者の前に一度は現れるはずよ」
「えっ、あの……」
「よく聞きなさい。守らなければならない3箇条があるの。名前を尋ねてはいけない。二つの最高ランクパーティとの関係を尋ねてはいけない。彼と会っても、そのことを他言してはいけない。どれかを破ると、道化師ボックスは主人公の敵になる。これは、課金者が知る知識よ」
「そう、なんですね」
「わたしは、この世界に来たとき、ゲームと現実は別物だと思っていた。だけど、3箇条を守っていたフレンドは、この世界に囚われずに去ることができたの。わかったわね?」
「は、はい。でも、ファファリア様……」
「反論は聞かないわ。この世界は異常なのよ。わたしは、やっと消えることができるわ」
(えっ……)
幼い王女の弱々しい笑みに、カシスは涙が込み上げてきた。カシスは、王女がこれまで、この世界で苦しんできたのだと気づいた。だから、あと3年しかないのに笑顔でいられるのだと、カシスは、やりきれない気持ちになっていた。
◇◇◇
カシスは、男物の軽装に着替え、冒険者のラークにもらった長剣を装備して、冒険者ギルドへ向かった。
(あっ、朝ごはん……)
王女と話していたため、朝食を食べ忘れてしまったことに気づいたカシス。
冒険者ギルドの中をチラッと覗き、受付カウンターがいつも以上に混んでいると感じた彼女は、地下の食堂へと降りて行った。
(居ない、な)
カシスは、Aランク冒険者のラークがいるかもしれないと、微かな期待を抱いていたが、茶髪の青年は見当たらない。彼女は、以前、彼と並んで激マズな昼食を食べた、カウンター席に座った。
(げっ! 居た!)
カウンター内に視線を移したカシスの視界に、商人ギルド長の姿が飛び込んできた。
「朝食セットね〜。どうぞ〜」
商人ギルド長は、カシスの顔を覚えてないらしい。
「ありがとうございます。あの、強烈なスパイスは使ってませんよね?」
カシスがそう尋ねると、商人ギルド長は怪訝な表情を浮かべた。
「変なもんは入れてないぜ。タダなんだから、何でもいいだろ」
(怒らせたか……)
「すみません。いただきます」
カシスは、スープのカップを手に持った。
「ちょっと待った! スープは、一番やばい可能性大だぜ、カシス」
(ひゃっ!)
カップを持つ手を彼に押さえられ、カシスの心臓は口から飛び出しそうになっていた。
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王女ファファリアの前世の物語は、10日ほど前に短編として投稿しました。よかったら覗いてみてください。




