26、語り人だったラークへの違和感
「ラーク、終焉の魔物が現れたという話は、事実なの?」
王女ファファリアは、カシスの方をチラッと見た後、王宮の雑用係のラークにそう尋ねた。
「俺は、終焉を直接知らないのですが、今、語り人をしている人達からの情報です。このフルールニア王国は、『終焉の書』には、後半にしか登場しません。レッドボックスが今いるのは、『終焉の書』で、一番最初に被害を受けるレザーニア王国の宿場町です」
(レザーニア王国? 何それ?)
カシスが首を傾げたことに気づいた王女は、ふふっと安堵の笑みを漏らした。
「ラーク、わたしは、レザーニア王国のことは当然知っているけど、カシスは知らないみたいね。カシス、終焉の魔物がいつどこから湧いてくるか、覚えているかしら?」
「ファファリア様、私の前世の記憶には、レザーニア王国という地名はありません。それに、終焉の魔物が何を指すのかもわかりません」
「は? 新規転生者のくせに、覚えてないのですか」
ラークは、カシスをキッと睨んだ。
「ラーク、黙りなさい! カシス、終焉の魔物がわからないということね?」
「はい。私が知る『終焉の書』では、初めから世界には魔物が存在します。これは『転換の書』も同じです。『終焉の書』では、魔物が増え、中盤からは二つの箱団が中心となって討伐を開始します。魔物が爆発的に増える事件が起こり、最終的にはバッドエンドを迎えます」
「そうね。やはり、それが本当の歴史だわ。わたしは、他の知識が混ざって、正規ルートがわからなくなっているのよ」
王女は、ふむふむと頷き、頭の中の整理をしている様子。
「カシスが知っている書では、初めから魔物がいるのか? どんな魔物だ?」
スグリット王子は、何かの資料を広げながら、カシスにそう尋ねた。
「魔物の種類はたくさんありましたし、場所によっても異なるので、その説明は難しいです。ただ、爆発的に増える原因はわかっています」
「レッドボックスかブルーボックスの裏切りよね? あぁ、赤の箱団、青の箱団だったかしら」
「いえ、魔物を操る能力のある魔女が原因です。私は、『終焉の書』は全ルートの攻略はしていませんが、魔女が何かに怒って、魔物を呼び寄せていました。バッドエンド近くになると、魔物があらゆる場所に溢れます」
「そういえば、1つのルート以外は、すべて魔女の高笑いでエンディングだったわね」
(えっ? 知ってるの?)
「ファファリア様、私は、バッドエンド回避ルートを知らないんです。道化師と関わらなければいいという情報を、見たことがあるんですが」
「道化師? 誰のこと?」
「道化師ボックスです。前世の私は、道化師ボックスが終焉を引き起こす元凶だと考えていました」
(あれ?)
スグリット王子とラークの表情がおかしいことに、カシスは気づいた。彼らは互いに顔を見合わせ、王女に何かを言おうとしている。
「お兄様、何ですの?」
「ファファリア、道化師って何だ? ボックスという名前は二人いるのか?」
「道化師は道化師ですわ。ボックスは主要キャラですから、同じ名前の人は、他にはいないはずですわよ」
王女がそう答えると、スグリット王子がカシスを真っ直ぐに見て、口を開く。
「カシス、その道化師ボックスという者は、終焉を引き起こす元凶ではないと思うぞ。俺は会ったことはないし、いや、記憶を消す能力があるらしいから、会ったことがあるかもしれないが、ボックスは、二つの最高ランクパーティを創設した長だからな」
「えっ? 最高ランクパーティって……」
「レッドボックスとブルーボックスだ。ボックスは、この世界を自由に行き来する不死者なんだよ。たぶん、世界の創造神だ」
(ええっ!? 神様?)
想像もしなかったことを聞き、カシスの頭は、一瞬、固まってしまった様子。
だが確かに、青の箱団をブルーボックスというのだと知り、そのとき、目の前にいたボックスという人の名前が付くことにも気づいていたカシス。
「箱団という呼び方は、ボックスさんが関連していることを隠すためだったのかな」
カシスがポツリと呟くと、彼らだけでなく、王女も首を傾げた。
「カシス、何を言っているの? 箱団という呼び方とボックスに、何か関係があるの?」
「あ、はい。英語で箱のことをボックスと言うので、ゲームでは、いくつものルートを選ばせるために、隠していたのかと思いました」
「ふぅん。わたしは、もう、言語のことは何も覚えていないわ。でも確かに隠すことで課金に誘導できるわね。カシスが知らないルートは、課金していないと選択できないのよ」
「バッドエンド回避ルートですか?」
「ええ、そうよ。とは言っても、次回作への誘導エンドだったかもしれないわね。その新ルートの配信直後に、『創世の書』が出たもの」
(課金してなかったからなぁ)
カシスと王女がゲームの話をしていると、彼らはポカンとしていた。それに気づいた王女は、咳払いをして、口を開く。
「ラーク、終焉の魔物なんて、特別なモノはいないのよ。アナタの勘違いよ」
「いえ、確かに、王都の冒険者ギルドから、ブルーボックスが来たと連絡が入りました」
ラークがそう言うと、王女は、スッと目を細めた。3歳の女の子がやると眠そうな顔に見えるが、悪役令嬢ファルメリア・サフスが、何かに疑いを持ったときの特徴的な表情だと、カシスは感じた。
「カシス、今日、冒険者ギルドに行っていたでしょ? ブルーボックスが来た理由はわかる?」
(ん? 目配せ?)
「はい、王都の冒険者ギルドの質が下がっているからと、抜き打ち検査に来られたようです」
カシスは、尋ねられたことだけに答えた。
「なんだ、そういうことかぁ」
スグリット王子は、気が抜けたのか、ペチャっとテーブルに突っ伏した。




