表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/111

23、道化師ボックス

 その翌日も、カシスは、冒険者ギルドへ行った。だが、男装したミランダには会わなかった。


 カシスは、冒険者ギルドの扉番のミッションを受けることになった。案内係のようなものらしい。


「お兄さん、扉の外に立ってくれるか?」


 扉番は、扉の外側と内側に立つようだ。外側の方が、面倒事が多いため、新人を外側に立たせたいらしい。


「わかりました。ギルドの入り口がここだと案内をすれば良いのですよね?」


「それもあるが、ギルドから出て行く冒険者を見張ってくれ。扉の前で、報酬の分配をめぐって揉めることがある」


(なるほどね)


「はい、わかりました」


 カシスが普通に承諾したことから、内側に立つ冒険者は怪訝な表情を浮かべていた。大抵の新人冒険者は、外側は怖いと言って、内側を希望する。交換してやる代わりに、報酬の一部を要求するのが、姑息な扉番冒険者の手口だ。


「兄さん、サボるなよ? 扉の外側に立ってろよ?」


「はい。1時間だけなので、大丈夫だと思います」


「何も知らない坊やか。まぁ、いい。よろしくな」


 そう言ってカシスを外へ追い立てるように出すと、扉が閉められた。



 カシスは、扉番の腕章をつけ直すと、門の開閉の邪魔にならない場所に立つ。


(ん? 何?)


 カシスが立つ場所から少し離れた所に、同じ腕章をつけた男が、隠れるようにしゃがんでいる姿が見えた。


「どうされました?」


 カシスが声をかけると、その男は、ビクッと方を震わせ、ゆっくりと振り返った。そして、カシスの顔を見ると、ホッと安堵の息をもらす。


(あれ? この人……)


 カシスの頭の中には、乙女ゲーム『創世のループ』に登場するキャラの顔が浮かんでいた。『転換の書』ではモブキャラだが、『終焉の書』では、道化師と呼ばれていた敵キャラ。丸い黒縁眼鏡が特徴的な、ボックスという名の正体不明な男だ。


 前世でゲームをしていたとき、彼女は、道化師ボックスが終焉を引き起こす元凶だと考えていた。道化師ボックスと関わらないことでバッドエンドを回避できる、という攻略情報を読んだこともある。



「お兄ちゃんも外側の扉番なんですね。よかった。僕ちゃん、一人でどうしようかと悩んでいました」


(僕ちゃんって言ったわ!)


 前世の彼女は、道化師ボックスが強い魔導士だと思っていた。それなのに臆病なフリをして、多くの人の同情を集める。自分のことを僕ちゃんと言い、人の名前も、ちゃん呼びする。


「私も、扉番です。1時間だけですが」


「ええっ! 僕ちゃんは、あと2時間ですよ。どうしよう、困ったな」


「1時間のミッションですよね?」


「僕ちゃんは、扉番だけでランクを上げているので、今日は、あと2時間なんです。困ったな、どうしよう」


(困ったを連呼してるわ!)


 カシスは、彼が道化師ボックスだと確信した。だが、それを口に出すことはマズイと考え、素知らぬフリをしている。



「何か困ることがあるのですか?」


 カシスがそう尋ねると、その男の目が怪しげに輝いた。


「さっき、あのパーティが戻って来たんですよ。絶対に、ここでケンカになります」


「あのパーティというのは?」


「Cランクだらけのグラスラムですよ。低ランク冒険者をいじめるのが生き甲斐のような奴らです」


「グラスラム? 私は、冒険者パーティを全然知らなくて……」


「何日か前に、酒に酔って暴れて、メンバーの何人かがDランクに落とされたらしいが、そいつらが特にひどいんだ。僕ちゃんは、何もしてないのに殴られた」


(泣いてる?)


 狡猾な道化師ボックスだとは思えなくなってきたカシス。ゲームの中で、彼が泣くシーンなんて見たことがない。



 ドガッ!


 突然、扉が、蹴破られそうな勢いで、開いた。


(あっ……)


 不機嫌そうな男が、別の冒険者を、扉の外へ蹴り飛ばしたのが見えた。


「おまえがグズだから、スピード報酬を逃したじゃないか! それでCランクだと? ふざけんなよ!」


「俺のせいじゃないだろ。俺は回復役で入ってやっただけだ。おまえら、こんなことばかりしているから、Dランクに落ちるんだよ!」


(本当にケンカしてる)


 道化師ボックスらしき男は、頭を抱えて、しゃがみ込んでいる。扉で頭を打った……フリをしているらしい。


「俺様に、よくそんな口が……」


 回復役を蹴り飛ばした男は、扉番の男がしゃがみ込んでいることに気づくと、ニヤッと口元を歪める。


「扉番は、仲裁するのが仕事じゃないのか! おいコラ、聞いてんのか? 腑抜けた野郎だぜ。仕事をサボった罪は重いぜ、ボックス」


(ボックスって言った!)


「ヒィ、僕ちゃんだけじゃない。もう一人いる。僕ちゃんは、頭が痛い」


「ああ? もう一人って誰だ?」


 その男は、そう尋ねつつ、周りを見ない。彼を恐れている者だけをターゲットにしているらしい。



「もう一人は、私です。ギルド前でのケンカは迷惑です。立ち去ってもらえますか」


「何だと? 俺は、シルバーカードだったんだぞ!」


(気づかないのね)


 その男はカシスを睨みつけると、またボックスらしき男に視線を戻した。


「今は、ブロンズカードですか。それなら、回復役の人の方が格上ですよね。この場所でのケンカは迷惑です。立ち去ってください」


「何だと? 案内しかできないカスが、舐めたことを言ってんじゃねぇぞ!」


(どうしようかな)


 ここを通りたい人がいれば、カシスは強制的にその男を扉の前から排除できる。だが、こんな様子を見て、突っ込んでくる勇者はいない。



「扉番の兄さん、適当につまみ出せばいい。俺も、こんな奴らと組んで失敗だったよ」


「お仲間じゃないのですか」


「まさか! たまたま、俺が受注したフリーミッションに、コイツらが参加しただけだ。フリーミッションは、知らない冒険者でも、臨時パーティを組むことになるからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ