表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/111

13、茶髪のAランク冒険者

「彼は、剣を抜いていません!」


 カシスに同行していたロザリーが、警備兵にそう反論した。だが、警備兵の表情は変わらない。


「田舎貴族に仕えるロザリーに、そんなことを言われてもな。ロザリーは平気で嘘をつく種族だからな」


(ロザリーって種族なの?)


 カシスは、どう話すべきかを必死に考えていた。起こった経緯を説明しても、警備兵は信用しないと感じた。



「それに、その使用人は、剣を持っているじゃないか」


「そうだぜ! そのガキは、警備兵が来たから、剣を鞘に収めたんだ。俺達の正当防衛だぜ」


(腐ってるわね!)


 カシスは怒りを感じたが、ここで王家の名を出すわけにはいかないと思った。また、男装していることから、自分の本来の素性を明かしても、面倒なことになりそうだ。


「私は、剣を抜いていません。街の中で剣を抜くことが禁じられていることは知っています。だから、護身用の短剣さえ、持ち歩いていません」


「は? 長剣を持っているじゃないか。何を言っている? 一緒に来てもらおうか」


(えっ? 私が捕まるの?)


 さらに応援で来た数人の警備兵が、カシスが持っていた剣を取り上げ、彼女の腕を掴んだことで、カシスの頭の中は、真っ白になっていた。



「あー、ちょっと待ってくださいよ。それは、俺が貸した模擬剣ですよ? 返してくれませんかねー」


 茶髪の男が、警備兵を止めた。そして、警備兵から剣を取り上げると、抜いて見せた。


「なっ? 何だ? おまえは……」


「ん? 身分証ですか?」


 茶髪の男は、金色のカードを警備兵に見せた。


「うぉっ! Aランク冒険者か。なぜ、こんな所に? 高位ランク冒険者は、交易都市に集まっているんじゃないのか」


「気分転換ですよ。交易都市クースは、今、混んでるからね。夏は、貴族の子息が護衛付きでウロウロしてるから、面倒なんですよ」


「もう、そんな時期か。秋からの新生活に向けた準備と、各学校を卒業した子の冒険者デビューか」


「まぁ、そういうことですよ。あぁ、それから、彼は剣を抜いてないぜ? 魔力のない者が模擬剣を使うと、何も斬れないばかりか下手すりゃ折れる。彼は、鞘を盾がわりに使っていたよ」


「じゃあ、転がっている剣は……」


「落ちている彼のジャケットを見てみればいい。王都の警備兵なら、何が起こったかわかるだろ?」


 地面に落ちていたカシスのジャケットを、警備兵が拾って広げた。背中の部分がスパッと剣で切れている。



「背中から、斬りつけたのか」


 警備兵が、冒険者達を睨みつける。


「違う! そのガキが、自分の手に巻き付けていたせいで切れただけだ! 俺達は背中から斬りつけたりしない!」


(白状したわね)


 男達は、剣を持たないカシスに、正面から斬りかかったことを認めたが、そのことに自分では気づいていない様子。


「剣を持たない相手に、斬りかかったのか? シルバーカードを持つ王都の冒険者が」


「えっ? いや、田舎貴族の使用人が、あまりにも王都のルールを知らないからさ。さすがに、王都の冒険者が舐められるわけにはいかないだろ!」


 冒険者の言い訳に、警備兵は、ため息を吐いた。



「彼は、王宮務めの執事だ。ジャケットに、身分を示す刺繍がある。おまえら、身分証を出せ。冒険者ギルドに行って……コラ! 待て!」


 冒険者達は、警備兵の隙をついて逃げ出した。だが、少し離れた場所で、金縛りにあったかのように倒れた。


(何が起こったの?)


「助かりました、ラークさん。王宮務めの兄さん、悪かったな。罪のない王家の使用人を捕まえてしまったら、俺のクビが飛ぶところだったよ」


(あっ、魔法?)


「王都の冒険者は、質が下がってるみたいですね。秋までは、王都を拠点にしようかな。俺は、あまり王都の街を知らないが、こんな真っ昼間に、冒険者が一般人に絡むなんて、さすがに酷すぎるね」


「申し訳ないです。私達も、警備体制を見直します」


 警備兵は、Aランク冒険者の茶髪の男に深々と頭を下げ、カシスに絡んだ冒険者達を、冒険者ギルドへと連行していった。




「Aランク冒険者さん、助けていただいて、ありがとうございました!」


 カシスは、茶髪の男に、ペコリと頭を下げた。そして、顔をあげたとき、その彼が、左目に土色の眼帯をつけていることに気づいた。長い前髪に隠れていて、今まで気づかなかった様子。


「ランクで呼ぶのはやめてくれ。俺の名前は、ラークだ」


「ラークさん、ですね。初めまして! 私はカシスと申します。本当にありがとうございました」


 カシスが再びペコリと頭を下げると、茶髪の男ラークは、何か、笑いをこらえるような、妙な表情をしていた。



「カシスか。冒険者ランクは?」


「えっ? あー、夏前に再発行したまま放置していたので、見てないです」


「ブロンズカードか。王宮務めなんだろ? そのままで構わないのか?」


「いえ、シルバーカードにランクアップする方が良いとは、言われています。こんなことがあるからなんですね」


「まぁね。それに良い酒場の多くは、ブロンズカードお断りだからな。入れない店がわりとある」


「えっ? なぜ、酒場が断られるんですか。あっ、騒ぎを起こす質の悪い客だと思われるのかな」


「逆だよ。ブロンズカードは弱い奴が多いからね。酒が入ってケンカが起こると、死人が出る。だから、弱い奴を守るためにも、お断りらしいぜ」


(なるほど!)



「カシスさん、お仕事が……」


 ロザリーが、声をかけたことで、カシスは手紙のことを思い出した。


「そうだったね。ラークさん、いろいろと教えていただき、ありがとうございました。また会う機会があれば、何かお礼をさせてください」


 カシスは、またペコリと頭を下げると、ロザリーと共に、茶髪の冒険者の前から離れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ