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109、女神の神殿

「この花畑って、もしかして……」


「あぁ、墓石の結界の中に入ったようだな」


(墓石って……)


 ウィルラーク王子は、カシスの手を引き、紫色の花畑を大きな何かに向かって歩いていく。


 近寄っていくと、細長い石の柱のような物に文字が書かれていることに、カシスは気づいた。



「ラークさん、この石の柱に書かれているのは、誰かの名前ですか? 私には読めない文字です」


「俺にも読めない文字だが、これが墓石だ。そして、あの建物が、神殿だな」


「えっ? 神殿? 神様をまつっているのですか。透明な不思議な素材で出来ていますね」


(ん? 何?)


 墓石の先に足を踏み入れると、彼は、口の前に人差し指を立てた。話してはいけない場所なのだと気づいたカシス。



 透明な不思議な建物の扉が開いた。


『何を驚いているの? 早くおいでよ』


(やはり、精霊アーシェル様だわ)


 ウィルラーク王子は緊張した表情で、歩くスピードを速めた。この世界の新規転生者であるカシスよりも、彼の方が緊張していた。



 ここは、王子ウィルラークが願いを叶えてもらうために、精霊アーシェルに捧げた場所だ。すなわち、墓石の先は、嫉妬の女神と呼ばれる女神フルンチェアの私有地である。


 女神フルンチェアは、このループ世界が生まれる前は、恋を成就させる女神と呼ばれ、多くの恋人達に祝福を与えていた。しかし、本の神ボックスがループ世界を築いたことで、前世の記憶を持つ人間が溢れることになった。


 その変化に対応しようとした女神フルンチェアが、このループ世界の特性に合わせて、恋を成就させるために取った行動が、人間達に誤解されて広まった。その結果、嫉妬の女神と呼ばれ、恐れられるようになったのだった。




「あっ! 近寄っていくと、透明じゃなくなってきましたね。不思議な建物……あ、騒がしかったかな」


 カシスは、目に映る建物が変化したことを、思わずウィルラーク王子に話してしまった。


『騒がしくてもいいよ〜。彼は緊張してるだけだよ。キミは、神の庭園を知らないから、わかんないのかも』


「えっ? あ、あの、紫の小径こみちにおられた精霊様ですよね? 神の庭園って、転生するときに招かれる場所なんでしたっけ」


『そうだよ〜。地上では、精霊アーシェルだよ。神の庭園は、転生先を選択する場所なの。生きてきた歴史を見て、次の行き先を決めるから、ごちゃごちゃと騒がれると迷惑だから、話せないようにしてあるの。でも、ここは地上だから、気にしなくていいよ〜』



 カシスが精霊アーシェルと話している間に、二人は扉が開かれた建物の中へと足を踏み入れた。


 パタン!


 大きな音を立てて扉が閉じると、そこは、広い部屋にたくさんの長椅子が並んでいた。100人いや500人分はありそうだと、カシスは驚いていた。外から見た印象とは明らかに、サイズ感が違う。その奥には祭壇のような物があるが、遠いからか光の加減のためか、よく見えない。



 ギィイ


 左側の扉が開いた。


『こっちだよ〜』


 カシスは、彼がここまで緊張した表情を見たのは初めてだった。だがすぐに、彼が転生のときの何かを思い出しているのだと察した。


「ラークさん、行きましょう」


「あ、あぁ、そうだな。この場所は、審判の場にそっくりだから、血の気が引いた」


「審判の場?」


「前世の生き方を裁かれる場だ。形はそっくりだが、亡霊は居ないから、やはり別の場所なんだよな」


(亡霊? 幽霊?)


 カシスは、ヒヤッとしたが、広い部屋には幽霊らしきモノは居ないことを確認し、彼と一緒に左側の扉の先へと進んだ。




『遅かったじゃない。紅茶が冷めちゃったよ』


 その扉の先には、何人かの女性の姿があった。


(魔女だわ!)


 彼女達は、乙女ゲームの衣装を身につけているため、ウィルラーク王子にはわからなかったが、カシスには、女性の素性がわかった。今度は、カシスが緊張している。



『キミ達、私がどこにいるか、わかる?』


「精霊様の姿は……」


 ウィルラーク王子は、白いテーブルクロスの長いテーブルの奥に座る女性に視線を向けた。常識で考えれば、ティーカップを持つその女性が、この場所の主人だろう。


「ラークさん、あの女性は、氷の魔女です。この部屋には魔女しかいません」


「えっ? 魔女? 全く魔力を感じないが」


『ふふっ、キミは、よく覚えてるね。道化師の世界を知る異世界から来た子は、道化師の本のことを忘れないようになっているのかな。だけど私は、それが嫌なのよ』



 目の前に、黄色っぽい光が現れた。


「乙女ゲームに描かれていた女神フルンちゃんは、『終焉の書』では、怒り狂っていますもんね。私から見た精霊様のイメージとは、ちょっと違います」


(あれ? また……)


 カシスは、強制的に喋らされていることに気づいた。それと同時に、ウィルラーク王子が、さらに緊張した気配も感じる。


『本物の私は、どういう子かなぁ?』


「この世界の精霊様は、嫉妬の女神と呼ばれているんですよね? でも、私が直接見た限りでは、そんな印象はありません」


(ヤバイ……勝手に喋ってる)


『じゃあ、どういう印象?』


「紫の小径こみちでは、紫色の石を渡してくれたし、交易都市から消えていた紫色の花も、あの場所で摘んだ花があったから、感謝祭の日には販売できたそうです。また、虹の塔では、仲間を回復してくれたし、感謝祭では、偽の功労者を裁いてくれました。だから、正義感が強くて凛とした印象です」


『えー? 私、可愛くないの?』


(ま、まずい……)


「私には、可愛い精霊様というより、私達を正しい方向へと導いてくださる強い女神という印象です。もちろん、少女の姿に実体化されたときは、かわいいと思いますが、あ、あの……言葉を飾れず、申し訳ありません」


『ふぅん、そう思ってるのね』


 黄色っぽい光は、パッと弾けて、紫の小径こみちで見たときと同じく、紫色の髪の少女の姿に変わった。



皆様、いつもありがとうございます。

次話で本編完結です。

明日は、本編最終話を、そして明後日は、エピローグを投稿予定です。

残り2話となりましたが、よろしくお願いします。

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