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108、二人への相談

「第一夫人の件は、カシスには、例の墓石の前で話すことにする。その前に、二人に相談したいことがあるのだ」


(例の墓石? お墓?)


「ウィルラークお兄様が、私達に相談ですの? カシスと結婚する日のことかしら」


 王女ファファリアは、キラッキラな目をして、兄に尋ねた。


「それは、もう決めてある。カシスにも話してなかったな。これは、私に決めさせて欲しい。終焉が予定されていた日の次の日だ。終焉の先に進むまでは、魔物も多いだろう。終焉は訪れないが、これから魔物が増えることには、変わりはないはずだ」


(終焉の先の初日?)


「そうですわね。私もそれがいいと思いますわ。あと、2年と少しかしら?」


「正確な日は未確定だが、2年後の春か夏だ。カシスが18歳になる年だな。私は20歳か」


「あっ、もうすぐカシスは、16歳ね。お祝いをしなくちゃ。私達への相談は、カシスのお誕生日祝いかしら?」


「いや、その話とは別のことだ」


 王子ウィルラークは、カシスの方をチラッと見て、王女に視線を戻す。




「爺が、カシスをクビにしたらしい」


「ええっ? 執事長が? 理由は何ですの!?」


 王女の形相が変わった。


「おそらく、私との婚約が成立したからだろう。明日、王宮として、正式な発表があるからな」


「でもカシスは、私の専属執事として、王立大学校にも通っていますわ。勝手にクビにされては困りますわ!」


「私もその件は、爺から直接は聞いていない。私としても、今のままの方が楽しいのだがな」


 王女は、ぶすっと不機嫌な顔をして、考え事を始めた。第二王子は、妹がカシスに懐いていることがわかっているため、まだ4歳の妹の気持ちを優先したいと考えていた。


「俺も、カシスの卒業までは、ファファリアの執事でいる方がいいと思うぞ。ファファリアはしっかりしているが、カシスがいなくなると、絶対に他の使用人が来るじゃないか」


 スグリット王子も、王女がカシスに懐いていることがわかっている。また、スグリット王子自身も、カシスがいる時間が好きだった。



「どうすれば良いかな。私から言っても、爺は頑固だ。それに執事長の立場からすれば、私の婚約者を男装させ、執事の仕事をさせるわけにはいかないのだろう」


「常識的に考えれば、おっしゃる通りですわ。でも私は、他の使用人は嫌ですわっ!」


「じゃあ、ファファリアが嫌だって、執事長に言えばいいんじゃないか? 前世の記憶があるとは、知られてないだろ。俺は、11歳だから使えない作戦だが、ファファリアは4歳だから、泣きわめき作戦が使えるぞ」


(いやいや、まさかね)


 前世が悪役令嬢だったプライドの高い王女が、泣きわめくことは絶対にありえないと、カシスは考えた。



「お兄様、それ、使えますわね。執事長には、私に不完全な前世の記憶があることは、バレている気はしますけど、他の使用人は何も知りませんわ」


「だろ? ファファリアにしか使えない作戦だぜ。兄上も、そう思いますよね?」


「ふっ、ファファリアが泣きわめくのか? ちょっと想像できないが……」


「私だって、幼女を武器にすることくらいできますわよ」


 ドヤ顔をする王女に、ウィルラーク王子は柔らかな笑みを向けた。


「じゃあ、ファファリアに任せたぞ。スグリットは、ファファリアを援護してやってくれ」


「ええ、お任せください。あっ、ウィルラークお兄様、例の墓石に行かれるなら、早い方がいいですわ」


 王女にそう指摘され、ウィルラーク王子は軽く頷いた。


「ファファリア、今日の夕食までにはカシスは戻れないが、構わないか? あぁ、クビだから戻るのもおかしいか」


「構いませんわ。あの島は遠いですからね。夜間の移動は危険ですから、今夜は、あの島に泊まられる方が良いですわ」


「わかった。まぁ、例の墓石のご機嫌次第だな。では、行ってくる。ケイン、後は頼むぞ」


(墓石のご機嫌?)


 ウィルラーク王子が、首を傾げるカシスの腕を掴むと、二人は転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇



 ウィルラーク王子の転移魔法によって移動した場所は、小高い丘の上だった。


「あの、ここって……」


 振り返ったカシスの目には、リゾート地のような場所に建てられた大きな屋敷が見える。大商人サンサンの部屋にあった絵は、この場所から描かれたものだと察した。


「前世で俺が手に入れた島だ。セイラ達を運び込んだときは、屋敷内の転移部屋に到着したが、今回は、屋敷に立ち寄るのが目的ではないからね」


 左目に眼帯をしているが、彼の髪色は金髪だった。冒険者のラークは茶髪だから、明るい場所では、別人のように見えるカシス。


 まだ第二王子とラークが同一人物だということが、頭では理解しているが、たまに感覚が追いつかない。



「あぁ、髪色が違うから違和感があるよな」


「えっ? あ、ラークさんは茶髪だったから……」


「少しずつ慣れて欲しい。まだ、婚姻は2年先のことだ。スグリットやファファリアには、私の……いや、俺への拒絶反応を改善してもらえるように、努力するつもりだ」


 カシスは、彼が不安そうにしていることに気づいた。しかも、いつものラークらしくない。


「ラークさん、でいいのかしら?」


「あぁ、ラークでいい。銀色の仮面を付けてないときは、ラークでいいぜ」


「わかりました。ラークさん、何か不安なことがあるのですか?」


 カシスがそう尋ねると、彼は目を見開いた。


「ふっ、まいったな。カシスには、お見通しか。まぁ、うん。墓石のご機嫌が、わからないからね」


「墓石って何なのですか? 誰のお墓なのでしょう?」


「あっちだ。行こう」



 彼は、カシスと手を繋ぎ、屋敷とは反対側へと歩いていく。カシスの目には、透明なガラスのような素材で出来た大きな何かが、見えてきた。


(あれが、墓石?)


 カシスの目に、細長い石の柱が見えた瞬間、緑色の草原に、強い風が吹き抜けた。すると辺り一面は、香水のような強い香りのする紫色の花畑へと変わった。


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