107、ラーク、いろいろと明かす
銀色の仮面に手をかけた第二王子ウィルラークは、一旦手を止め、弟と妹の様子を確認した。
第三王子スグリットは、ソファの背にもたれ、少し逃げ腰のようだった。一方で、目の前に座る王女ファファリアは、身を乗り出している。
ウィルラーク王子は、カシスの方をチラッと見た後、意を決したように、顔の上半分を覆っていた銀色のハーフマスクを外した。
「おわっ!? ラークじゃないか! おまえ、いや、あれ? 兄上? わっ!」
(ありゃ……)
スグリット王子は、ソファから、ずり落ちた。
一方で、王女は両手で口を塞いで、目を見開いた状態で固まっている。
ソファに座り直したスグリット王子は、バタバタと手足を動かして、大混乱中だ。
「おまえ、じゃなくて、ラーク! じゃなくて、ええっ!? 兄上と入れ替わったのか?」
「私が、誰と入れ替わるんだ? スグリットが頻繁に王宮を抜け出すから、私は、冒険者として監視していただけだ。幼い頃から、脱走癖は直らないな」
「ひぇぇえっ! 俺は、ラークには無茶苦茶なことを言っていたかもしれないぞ。どうしよう、ファファリア……。ん? どうしたんだ?」
騒がしいスグリット王子とは真逆で、王女ファファリアは、驚きのあまり、思考停止しているようだ。
「ラークさんだわ……」
「あぁ、俺がそう言っただろ? プラチナカードになってからは、やたらと俺に……ん? どのラークだ?」
「ラークさんよ! 私、ウィルラークお兄様の前で、ラークさんの悪口を言ったわ」
「ちょっと待て、ファファリア。そのラークは、Aランク冒険者なんだろ?」
カシスは、第二王子が二人の反応を楽しんでいると思ったが、予想とは違っていた。彼は、カシスが驚いたときとは全く別の顔をしている。
彼は、ガラステーブルの上に、2枚のカードを置いた。金色のカードと白銀色のカードだ。
「おまえ達を騙すつもりはなかった。だが、素性を明かさない方が動きやすかったんだよ。私は、ブルーボックスのメンバーでもあるからな。それに、現実逃避をしたかったのかもしれない」
第二王子は、左目の眼帯を外した。
「うおっ! 赤い……悪魔の目じゃないか」
「ウィルラークお兄様は、終焉の魔物になるところだったのですか」
「私は、5歳のときに前世の記憶が戻った。そのときに、両目に異変が現れたんだ。青かった目は、一方は沈んだ深い青に変わり、もう一方は、真っ赤に変わった。だから、それ以降は、他人との関わりを避けてきた。私が終焉の魔物に変わったときに、巻き込みたくなかったからな」
「兄上は、5歳のときから……あっ、ファファリアは3歳からだよな。俺は9歳からだけど」
スグリット王子は、兄の赤い目に怯えながらも、ソファに座っている。もう終焉は訪れないためだろう。
「だが、私のこの左目は、魔力のないカシスから見ると、黄緑色に見えるらしい。私は終焉の魔物にはならないことを、カシスから教えられたのだ」
「あっ! 終焉の魔物になる人間には、ダミーも多く含まれているからですわ。その見極めは、新規転生者にしかできないのですね。新規転生者殺しが終焉で頻発していたのは、それが理由だったのかしら」
「ファファリアは、やはり聡明だな。それも、理由の一つだったのだろう。だが、もう終焉は訪れない。あぁ、赤い目は、やはり不気味だな」
第二王子は、右目に眼帯をした。弟や妹が知るラークの姿になる。
「カシスが恋をしていたラークさんは、お兄様だったということなのね!」
王女ファファリアがそう言うと、スグリット王子がハッとした顔をした。赤い目に怯え、すっかり話を忘れていたらしい。
そして、ガラステーブルの上の2枚のカードを睨みつけている。
「くっそぉ〜、見抜けなかったぞ。どっちもラークじゃないか。俺が知っていたプラチナカードのラークと、ファファリアが会ったゴールドカードのラークが、ここに2つあるじゃないかぁ〜」
「ウィルラークお兄様は、なぜ2枚のカードを使い分けておられたのかしら。プラチナカードには、ゴールドカードの経験値を移す必要性はありませんが」
王女の鋭い指摘に、第二王子はカシスに助けを求めるように、視線を向けた。ただ、カシスとしても、その理由は知らない。
「もしかして、現実逃避ですか? プラチナカードは、魂のループ終了者じゃないとたどり着けないと聞きました」
カシスの指摘に、第二王子は、自分の胸の中のモヤモヤが、晴れるのを感じた。
「そうだな。無意識だったが、カシスの前では、ゴールドカードの冒険者でいたかったのかもしれない」
「まぁっ!」
王女がいち早く反応した。スグリット王子は、意味がわからず、ポカンとしている。
「カシスには、終焉で消えることを伝えていたのに、心はそうじゃなかったのですね! お兄様の方が先に、カシスに惹かれたのかしら? 王都で会ってすぐに、Aランク冒険者として、カシスに関わっておられましたわね」
「さぁ、どうだろうな?」
「あー! 兄上は、カシスの幼馴染のことを知って、こんな強引な行動に出たんだな? カシスと婚約するために、第一夫人をでっち上げたのは……おっと、これは言ってはいけなかった」
(第一夫人をでっち上げた?)
スグリット王子は、扉番をする鎧を身につけた兵をチラッと見て、慌てている。
「その話はカシスには、まだしていない。爺が何か話したかもしれないがな。その扉番のことなら気にしなくていい」
カシスは、疑問を黙っていられなくなった。
「扉番の彼は、双子のケインさんですよね?」
「ふっ、バレたか」
第二王子がそう言うと、兵は兜を外した。ニヤニヤと笑う魔導士ケインの顔を見て、王女も、指を差して、あーっ! とかわいい叫び声をあげた。




