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106/111

106、ウィルラーク王子の部屋へ

「私と踊ってくださいますか?」


 ダンスホールの中央に突然現れた第二王子とカシスの姿に気づくと、王女は、まぁっ! と小さな叫び声をあげた。


「えっと、踊れる自信がないのですが……」


「心配ない。私がリードする」


 ウィルラーク王子は、カシスの手を取り、腰に手を回す。そして、戸惑うカシスをリードして、流れる音楽に合わせて、踊り始めた。


(あっ、できるかも)


 目の前の彼が銀色のハーフマスクをつけていることで、カシスの頭の中は混乱していた。第二王子に苦手意識があるためだろう。


 だが、曲に合わせて踊っていると、気持ちもだんだん上がってくる。そして、第二王子がラークなんだという実感が湧いてきた。


(私は、ラークさんと踊ってる)


 酒場ベリーズでは驚きの連続で、何だか現実ではないことのような気もしていたカシス。今、彼と手を取り、彼の背に触れていることで、いろいろな感情が湧き上がってくる。


(ラークさんと婚約したんだわ)


 第二王子が、銀色のハーフマスクを付けている理由は何だろう? 架空の第一夫人がいる理由も知りたい。なぜ、隠して婚約を進めたのか、何か大きな障害があるのか。


 踊ることに慣れてきたカシスの頭には、いくつも疑問が湧いてきた。カシスは、ふわふわとした気分を感じつつも、まだ知らないことへの不安も感じていた。



 曲が終わった。


 第二王子は、カシスからスッと離れる。温もりが離れたことで、考え事をし始めていたカシスは我に返った。慌てて、彼の顔を見上げたが、銀色の仮面によって、その表情はわからない。


 背の高いカシスが見上げると、ウィルラーク王子の顔はとても近くにあった。ラークとの身長差を気にしたことがなかったカシスだが、彼はこんなに背が高かったのだと、今更ながら、気づいた様子。



 パチパチと拍手が聞こえる。


「お兄様、カシス! とても素晴らしいダンスでしたわ」


 王女がそう言ったことで、ダンスホールにいた先生らしき人達も、口々に感想を口にする。だが、その言葉には、親しみはない。むしろ、恐れを感じているのか、第二王子の顔色をうかがっているようだ。また、カシスのことを知らないため、戸惑いもあるらしい。



「兄上、ご婚約おめでとうございます。カシスは、いや、カシスさんは承諾したのでしょうか」


 スグリット王子は、周りの人達に、カシスが第二王子の婚約者であることを説明しようとしたが、変な言い方になり、焦っていた。スグリット王子の素直な性格によるものだろう。



「スグリットとファファリアに話がある。ここでは話しにくいな。ついて来てくれ」


 第二王子はそう言うと、ダンスホールの出口へと向かって、一人で歩き始める。カシスは一瞬迷ったが、第二王子がカシスの方を振り返ったため、自分も呼ばれているのだと察した。


「お兄様のダンス練習は、今日はおしまいねっ」


 王女はそう言うと、カシスと手を繋いだ。何か複雑な表情をしているが、この場では話せないと判断したらしい。


「おうっ! 早く行かないと、兄上に叱られそうだな」


 スグリット王子は、第二王子の後を追った。カシスと手を繋いだ王女も、トコトコと歩き始めた。




 ◇◇◇



 第二王子が向かったのは、王女の私室がある建物の最上階だった。扉が開かれた先に見えたのは、大きな窓のある明るい部屋だ。


「うおっ! カーテンが開いてるぞ」


 その部屋に入ると、スグリット王子が驚いた顔をしていた。カシスは、入ったことのない部屋だが、最上階はすべて第二王子の部屋だという知識はある。


 カシスの目には、最上階の長い廊下に、扉番は10人以上いるように見えた。鎧を身につけた者や魔導ローブを身につけた者、また黒服の者もいる。


「ケインも入ってくれ。防音結界を頼む」


(ケイン?)


 第二王子がそう叫ぶと、離れた場所にいた鎧を身につけた兵が、駆け寄ってきた。


 そして、皆が部屋に入ると、扉が閉じられ、鎧を身につけた兵が、部屋の中に魔力を放った。


(もしかして、双子のケインさん?)


 顔はかぶとで覆われているから見えないが、魔導士らしき人は他にもいたのに、鎧を身につけた兵が呼ばれたことに、カシスは不自然さを感じた。


 だが、敏感な王女が何も言わないことから、カシスも疑問は口にしなかった。




「適当に座ってくれ」


 第二王子は、大きなソファに座った。その向かいのソファに王女がちょこんと座り、スグリット王子はその横に座った。


(私は、どこに?)


 カシスが迷っていると、王女は、第二王子の隣を指差している。婚約者だから隣に座るべきなのだが、カシスは身分差を考えすぎる性格だ。


「カシスも、座ってくれ」


「は、はい」


 第二王子が、自分の横の席をポンポンと叩いていたことで、カシスはようやく座ることができた。


 正面には、複雑な表情をしたスグリット王子、そして、第二王子の前には王女ファファリアが座っている。



「スグリットとファファリアに、改めて紹介する。彼女が、私の婚約者となったカシス・ガッシュだ。二人はよく知っているだろう」


「お兄様、以前もお話しましたが、カシスには紫の小径こみちで気持ちを確かめ合った想い人がいますわ。終焉の先へ進むことができるのは、カシスとその想い人のおかげなのです。まさか、その相手を亡き者にしようとは、お考えにならないでしょうね?」


 王女は、ビシッと、第二王子に意見をぶつけている。ダンスホールでは、二人のダンスに拍手をしていたが、内心は複雑だったらしい。


「私は、随分と強欲な人間だと思われているのだな。まぁ、それは仕方ない。私のこれまでの行動の結果だ。おまえ達には謝らねばならない。もちろんカシスにもな。カシスには、先程伝えたばかりだ。彼女も驚いていたよ」


 そう言うと、第二王子は銀色の仮面に手をかけた。


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