表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/111

105、王宮内のダンスホール

「よし! ファファリアに文句を言いに行くか」


 カシスは、ウィルラーク王子がわざと軽い雰囲気で話していることに気づいた。これは、カシスに身分差を感じさせないための配慮だ。


 また、どこから話そうかと言いつつ、彼は、ほとんど何も語っていない。カシスとしては、第一夫人のことも気になっているが、やはりカシスから尋ねることは難しい。


 一方で、王子ウィルラークは、緊張から、当初考えていた段取りが、すっかり頭から吹き飛んでいた。順を追って落ち着いて話すべきだったと、激しく後悔している。彼は、前世のサンサンのセリフになることを避けようと意識するあまり、ごちゃごちゃになった様子。



「文句、ですか?」


「あぁ、いや、それよりも良いことを思いついたぜ」


 ウィルラーク王子は、左目に土色の眼帯をした。髪色は違うが、いつものラークの顔になり、カシスは、ドキッとしている。


 彼はさらにその上から、銀色のハーフマスクをつけた。カシスは、第二王子の顔になったと感じた。



「眼帯の上から仮面をつけて、どうするのですか?」


「ふふっ、ファファリアもスグリットも、ラークが俺だとは知らないからな」


「ファファリア様は、婚約をご存知なのでは?」


「あぁ、第二王子ウィルラークとカシス・ガッシュの婚約は、知っている。ファファリアは、自分の兄がカシスと婚約したことは喜んでいたが、カシスの恋が叶わなかったことを気にしているようだ。ファファリアは、カシスに懐いているよな。カシスの恋を本気で応援していたらしい」


「ええっ? じゃあ……」


「ファファリアが俺に、カシスへの求婚方法を伝授したのは、そのためだろう。素敵な求婚をすることで、カシスの気持ちをAランク冒険者のラークから兄へ、振り向かせようと考えたようだ」


「ファファリア様は、お優しいですから」


「そうだな。俺にも、遠慮がちにではあるが、カシスには紫の小径こみちで気持ちを確かめた想い人がいる、と何度も言っていた。俺が、終焉の先へ進めることになった功労者と、強引に婚約したと考えたらしい」


「そんなことを……」


「あぁ、ファファリアの前世は、乙女ゲームでは悪役令嬢と呼ばれる公爵令嬢だったからな。思ったことをはっきりと言う性格は変わらない。幼いスグリットの家庭教師をしていたときも、そうだった。だが、あの処刑は、ストーリーの強制力だとセイラが言っていたけどな」


 カシスは、これまで予想していたことが正しかったのだと確認できて、すっきりした。だが終焉が訪れないことで、新たな問題が湧き上がっていることに気づく。



「スグリット王子の家庭教師は、やはり、ファルメリア・サフスさんだったのですね。ファファリア様は、そのことを隠されているようですが」


「そうだな。幼きスグリットがファルメリアに、彼女の処刑前に紫色の花を贈っていた。その花を探す手助けをしたのは、当時はゴールドカード冒険者だった少年のラークだ」


「ラークさんが? じゃあ……」


「俺としても、あのファルメリアが、まさか妹として生まれてくるとは予想しなかった。皮肉なものだ。スグリットの初恋の相手が、実の妹に生まれ変わるとはね。スグリットは、今でも、ファルメリアの魂を持つ者が10歳になれば、自分のことを思い出すと思っている」


「そうなのですね。6年後でしょうか。それまでは、やはり打ち明けられませんね」


「あぁ、俺は、終焉で終わると考えていたから、最後まで黙っていることにした。スグリットもファファリアも、俺と同じで、次はないからな。しかし、終焉は訪れない。今後、どうすべきかについては、カシスがファファリアの意向を探ってくれ。俺は口を出さない方が良いだろう」


「そうですね。お兄様に知られているとわかると、ファファリア様も困るでしょうね。あっ、でも私は、執事長から、ファファリア様の専属執事を解任すると言われましたよ」


「は? そうなのか? 俺としては、今のままの方が楽しいのだがな。では、そのことを、二人に相談しに行くことにするか」


 ウィルラーク王子は、ニヤッと笑うと、カシスの腕を掴んだ。そして、二人は転移魔法の光に包まれた。



 ◇◇◇



 ウィルラーク王子の転移魔法で移動した先は、カシスの知らない場所だった。体育館のような広い室内の2階席だが、闘技場ほど広くはない。どこなのかと尋ねようとしたカシスに、彼は声を出さないようにと合図をする。


 その直後、扉が開く音が聞こえた。



「お兄様、ダンスの練習は必須ですわよ」


(ダンス場?)


「俺は、そういうのは嫌いなんだよな。あー、もう、音楽を流さなくていいから」


 穏やかな音楽が流れ始めた。すると、カシスの隣に立っていたウィルラーク王子は椅子に座り、口を開く。


「ここは、王宮内のダンスホールだ。ファファリアはダンスはできるが、スグリットは、前世は貴族ではないから、基本的なステップもできない。だから、スグリットのダンス練習の日には、いつもファファリアが応援に行くらしい」


「私もできません」


「新規転生者は主人公だから、できるんじゃないか?」


「あっ、新規転生者特典?」


 先生らしき人達が踊っているが、スグリット王子は、壁沿いの置き物になっている。


「ふっ、スグリットは、ファファリアが来ているから逃げ出さない。ファファリアは、ファルメリアのような顔をしているだろ? こういうときは、姿は変わっても、スグリットの家庭教師なんだよ」


「いい関係ですね。あっ、先生が怒ってません?」


「面白いだろ? カシスが来る前から、こんな調子だぜ。俺は、たまに、ここで見ているんだ。嫌なことがあっても、穏やかな気持ちになれるからな」


「ファファリア様は、癒し系ですもんね」


「ふふっ、そうだ。見本を見せに行こうか」


 カシスが何のことかと尋ねる隙もなく、二人は、ダンスホールの中央に移動していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ