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104、ウィルラークの求婚

 ウィルラーク王子は、カウンター内で、得意げな表情でバーテンダーの真似事をしている。緊張してガチガチなカシスを、笑わせようとしているらしい。


「できたぜ。飲んでみてくれ」


「は、はい。ありがとうございます」


 カシスは、ロンググラスに注がれたカクテルらしき物に、口をつけた。


(あれ? ジュース?)


「ラークさん、じゃなくてラーク様……」


「二人のときは、いつも通りでいいよ。ラーク様と呼ばれると、誰のことかと思ってしまう」


「ふふっ、はい。では、ラークさん、これはジュースですか? カクテルに見えますけど」


 やっとカシスが笑ったことで、ホッとしたウィルラーク王子は、カウンターから出て、カシスの隣に座る。



「シェーカーに柑橘系のジュースとベリー系のジュースを入れて、シャカシャカしたから、カクテルだろ」


「カクテルの定義がわからないですけど」


「シャカシャカしたから、カクテルだぜ。味はどうだ?」


「はい、柑橘系のジュースとベリー系のジュースを混ぜたような味です。あっ」


 ウィルラーク王子は、カシスが飲んだグラスに口をつけた。そして、カクテルらしき物を一口飲むと、眉をひそめる。


(間接キスだよ)


「俺がイメージしていた味とは、全然違うぞ。もっと美味いと思ったんだが、ただの泡立ったミックスジュースだ」


「ふふっ、やはり、バーテンダーさんは偉大だってことかもしれませんね」


「まぁ、そうだな。シェーカーの振り方は、ジッと見てたんだけど、上手くいかないものだ。カッコいいと思ったんだけどな」


 ウィルラーク王子は、カシスの方にグラスを返した。


「でも、ミックスジュースも美味しいですよ」


 カシスは、少しドキドキしながら、再び、ロンググラスに口をつけ、泡立ったジュースを飲んだ。


「そ、そうか?」


 今度は、ウィルラーク王子の方が、間接キスだと考えている様子。二人とも、初心うぶである。




「ちゃんと話をしないとな。ファファリアが怒っていたからな。秋の感謝祭の少し前のお茶会は、本当に居心地が悪かった」


「プリンケーキのときですか? まさか、第二王子がラークさんだなんて思ってもなかったから……」


「俺は動揺して、プリンケーキを落としたんだ。あの日、俺は、自分がAランク冒険者のラークだと、打ち明ける覚悟をした。だが、ファファリアとスグリットがカシスを応援していることを知っていたし、二人がラークに怒っていたから、言い出せなくなった」


 カシスは、そのときの様子を思い返していた。そして、大きく頷く。


「確かに、あの状況では言えないですよね。あっ、もう、ファファリア様は、ご存知なのでしょうか。さっき、外出するなら可愛い服をと言われて、ワンピースにしましたが」


「よく似合っているよ。ファファリアは、ウィルラークがカシスと婚約したことを知っている。数日前に婚約が整ったときに、父上から話があったはずだ」


「じゃあ、今日、ラークさんと会うことは……」


「この店の定休日に合わせて、ウィルラークがカシスを呼び出すことも知っているはずだ。俺から直接話すからと、口止めをしてある」


(定休日?)


 カシスは店に来たとき、扉が閉まっていたことを思い出した。そして、何か貼ってあったことも記憶にある。定休日のお知らせだったのかと考えていると、ウィルラーク王子が、椅子から立ち上がった。


(えっ? 何?)


 そして、カウンターの椅子に座るカシスの前に、片膝を立てて、ひざまずいた。



「カシス・ガッシュさん、私と結婚していただけませんか」


「えっ? あ、あの頭をあげてください」


「嫌だね」


「へ? 嫌?」


 カシスの間の抜けた返事に、ウィルラーク王子は、満足げな笑みを浮かべて、顔をあげた。だが、まだ跪いている。


「カシス、返事は?」


「はい? あの……」


 婚約が整ったと言われていたため、カシスはまた大混乱していた。


「今、はい、と言ったな? もう取り消せないぜ」


 カシスは、目をパチクリしていた。そんなカシスを、ウィルラークは、やわらかな笑みを浮かべて見上げている。


「あの、跪かれているのは……」


 身分差を気にするカシスは、第二王子が自分の足元で跪いていることで、頭が真っ白になっている。



「あちゃ、失敗か。ファファリアが、俺にいい加減なことを教えたんだよ。カシスの前世の習慣に合わせたつもりだった。ファファリアも同じ異世界から来たからな。王子様はひざまずいて求婚するものだ、と言っていたぜ」


 ウィルラーク王子は立ち上がると、カシスの隣の席に座った。


「確かに、乙女ゲームでは、他国の王子ですが、跪いて主人公に求婚するシーンがありますが……」


「俺、カッコ悪いよな。カシスには、カッコいいと思ってもらいたいのに、カッコ悪いことばかりしている」


「ラークさんは、カッコいいですよ?」


「そうか!? カシスに幻滅されてないなら、いいんだ。はぁ、本当に長かったな。やっとカシスに触れられる」


 ウィルラークは、カシスの肩を抱き寄せた。

 そして、ジッと見つめ合う二人。

 どちらからともなく、そっと唇が重なる。


(顔が熱いわ)



「俺は、ずっと前から、カシスのことを愛している。初めて交易都市で会ったときは、まさかこんな気持ちになるとは予想もしなかった」


「交易都市って、まさか、プラチナカードのラークさん?」


「あぁ、俺は、身分証は複数持ちだからな。スグリットがすぐに交易都市に行くから、冒険者として関わっていたんだ。仮面を外した姿は、王宮では、カシスと執事長しか知らない」


「オッドアイで綺麗なのに、魔力のある人には左目は赤く見えるんでしたっけ」


「あぁ、そうだ。カシスが、俺の左目は黄緑色に見えると言ってくれたとき、俺は本当に救われた。自分が終焉の魔物になると恐れ、他人と深く関わらないように生きてきたからな。カシスは俺を、暗闇から救ってくれたんだ」


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