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101/111

101、精霊による公開処刑のこと

「カシスさん、やったわ! これでもう終焉に怯える必要はなくなった。寿命まで生きていられるわ」


 中継していた魔道具のスイッチを切ると、セイラは、穏やかな笑顔を見せた。


「セイラさんも、ファファリア様も、5年先でも生きていられるのですね。よかった!」


 カシスは、熱で少しボーっとしていたが、ジワジワと実感がわき始めた。もう、魔女から隠れる必要もない。


 精霊アーシェルと道化師ボックスとのやり取りから、神々が、鏡のエネルギーを解放した新規転生者を見つけることを賭けていたのだと、カシスは気づいた。


 最後の紫色の石を精霊アーシェルが人間に渡すと、道化師ボックスの本が壊される。そこには一つの条件が付けられていた。一番近い祭りまでに、道化師ボックスが、最後の石を見つけた者を捜し出したときには、本は壊されずに守ることができる。神々のそういう遊びだ。



「カシスが、最後の石を見つけた新規転生者なのね! セイラ達が、虹の塔へ行ったのかしら」


「ええ、カシスさんとラークが、紫の小径で見つけたわ。虹の塔へは、私達も付き添ったけど、ときの神の鏡のある部屋には、私達は入れなかった。そして、鏡にはめ込む石の入れ替えは、新規転生者にしかできないよ」


「カシスが、鏡のエネルギーを解放したの?」


「鏡にはめ込む石には、順番があったのよ。新規転生者じゃないと入れ替えができないし、その順番はわからない。だから、これまで長い間、このループ世界が維持されていたんだわ。魔力のない新規転生者は、虹の塔には行かないからね。カシスさんとラークが、鏡のエネルギーを解放したのよ」


「なぜ、それをすぐに言ってくれなかったの? あっ、そうか。道化師が宣言するまでは、取り消しができたのかしら」


 王女は、やはり聡明だった。


「ええ、その通りよ。道化師が宣言するまでの期間は、猶予期間ね。だから魔女が、鏡のエネルギーを解放した新規転生者を捜していたのよ」


「もし、魔女に見つかっていたら、カシスはどうなっていたの? あっ、リセットかしら」


「そうね。魔女は、道化師に新規転生者を引き渡し、道化師は、新規転生者を殺すでしょうね。道化師としては、自分の本を壊そうとした犯人だから、その権利があるのでしょう」


 セイラがそう説明すると、王女は、何かを考え始めた。今までの記憶を整理している様子。



「精霊様は、カシスに隠れていなさいって言ったのよね? だけど、カシスは目立つことばかりしていたわ」


「それが、魔女から隠れる正しい解釈よ。魔女達は、それまでとは行動を変えた新規転生者を捜すはずだからね。ただ、レッドボックスに協力していた彼女が、自分が最後の石を見つけたと言い出したことには、私も驚いたけど」


(功績の横取りよね)


 カシスとしては、あのゴシップ記事は、魔女が仕組んだ罠だと思っていた。だから、ユウリが壇上に上がった時には驚いた。そして、彼女自身の欲なのだと気づいた。


「少し前から、その情報は出回っていたわね。私は、デマだと思っていたわ」


「商業ギルドが、黒い石を見つけた報奨金を、彼女に支払ったからじゃないかしら。大金を手にすると、人生を狂わされる人もいるもの」


「セイラ、それはおかしくない? 黒い石の報奨金をもらったのなら、充分じゃないの。かなりの額だったはずよ。どうして、最後の石を見つけたと嘘を言うのかしら」


 カシスは、王女は前世で悪役令嬢だったときにも、規律正しく、正直に生きていたのだと感じた。


「さぁ? それは本人にしかわからないことね。何の苦労もせずに大金を得た人は、より欲深くなるものかもしれないわね。その結果が、精霊様による公開処刑だもの。自業自得だわ」


 セイラは、冷たく吐き捨てるように言った。カシスは、セイラも自分達の功績を奪われて怒っていたのだと気づく。


「そうね。あぁ、昨日や今日も、新規転生者の事故が記事になっているわ。なかなか名乗り出る人がいなかったから、最後の石を見つけた人は、亡くなったと考えたのかしら」


「もしそうだとすると、新規転生者ならではの失敗ね。いえ、鏡のことを調べてなかったのかな。最後の石を見つけた人が既に死んでいたなら、今日の道化師の宣言はなかったわ」


(すべて消え去るんだっけ)


 カシスは、安心したのか、力が抜けるのを感じた。ソファに横になると、再び眠りについた。




 ◇◇◇



 コンコン! 

 バンッ!


「ファファリア、カシスは、まだ寝てるのか?」


「しーっ! お兄様、声が大きいですわ。魔力のない人が受けた魔法ダメージは、私達の想像より酷いみたいですわ」


(ん? あれ?)


 スグリット王子が乱暴に扉を開ける音で、カシスは目を覚ました。そして、自分がまた眠っていたことに慌て、上体を起こす。



「あー、カシスが起きちゃった。体調はどうかしら」


「はい、ファファリア様、だいぶマシです。一日中、申し訳ありません。もうスグリット王子が来られる時間になったのですね。セイラさんは?」


「セイラは、カシスが眠った後に帰ったよ。初冬の休日までに、体力を回復しなさいって言ってたよ」


「初冬の休日?」


「ええ、鍋屋で個室を予約しておくって言ってたわ。カシスの回復祝いという名の、ループ世界が解放されたお祝いかしら?」


「そうなんですね。ちゃんと治します」


 カシスがそう答えると、王女は、キラッキラな笑顔を浮かべた。


「楽しみね〜。セイラは、ラークさんも呼ぶって言ってたわ。私もお招きいただいたの。セイラも、ラークさんがカシスに、ちゃんと言わないことを怒っていたわ」


「ファファリア、俺もその会に行きたいぞ。俺も、カシスの恋の応援団だからな」


 仲良し兄妹は、互いにしっかりと頷き合っていた。


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