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100、本の神ボックスの宣言

『ふむ、その表現は、わかりにくいですね。質問を変えましょうか』


 レッドボックスに協力していたユウリは、精霊の問いに嘘をついてはいけないことを知っている。そのため、断言する表現は避けていた。


 だが、道化師ボックスの代わりに祭りを司る精霊のフリをしている男性は、ユウリが言葉を選んでいることに気づいていた。



『貴女が、発見したという最後の石は、何色でしたか?』


『私には黒っぽく見えましたが、残りは紫色だと聞いています』


 ユウリが嘘にならないようにズル賢く答えていることに気づいたカシスは、どんどん怒りが増していく。だが、儀式の最中だからと、声を出さないように気をつけていた。


(あっ!)


 ユウリに質問をしていた男性の目の前に、黄色っぽい光が現れた。




『キミが最後の石を見つけた場所はどこ? 何の精霊がいたの?』


(精霊アーシェル様だわ)


 突然聞こえた可愛い女の子の声に、会場にいる人達は、キョロキョロと声の主を探し始めた。だが、その光は、見えない人の方が多いようだ。


『貴女が、最後の石を見つけた場所はどこですか? そこにいた精霊は、何の精霊ですか?』


 壇上の男性が、同じ質問を繰り返した。


『ガッシュ領の草原の地下です。精霊様の名前は、口には出せません』


 ユウリは、上手く答えている。



『ふぅん、何人くらいで行ったの? 封じられた場所だから、キミひとりでは危険だよね?』


 精霊アーシェルの声が聞こえない人もいるらしく、男性が同じ質問を繰り返す。


『その場所に入った人数は、正確には覚えてないです』


『あれ〜? おかしいな。あの場所の定員は、二人なんだよ』


『あっ、二人だったかもしれません。あの、よく覚えてないのです。怖いと、私は頭が真っ白になってしまうので』


(えっ、それは……)


 カシスは、嫉妬の女神とも呼ばれる精霊アーシェルの前で、ユウリが、美しい庭園のことを怖いと表現したことが、精霊アーシェルの怒りに触れるのではないかと思った。


 黄色っぽい光は弾けて、精霊アーシェルは実体化した。カシスが紫の小径こみちで見たときのように、紫色の髪の少女の姿をしていて、道化師ボックスのすぐ近くに浮かんでいる。



『キミは、私と、会ったことあるかなー?』


『えっ? いえ……』


『だよねー。私も見覚えがないと思ったよ。ボックスの負けだよ〜。私は、公平にヒントを出してあげたのに、魔女達は、正しい子を見つけられなかった。私と真逆なタイプだと、魔女達に教えてあげたのにねー』


 精霊アーシェルがそう言うと、道化師ボックスの表情が大きく歪む。



『私に嘘をつくとは、万死に値する』


(えっ……)


 道化師ボックスの手が光り始めた。誰もが、ユウリが処刑されるのではないかと、凍りつく。


『ちょっと待ちなさい、ボックス! まだ、お祭りは終わってないよ?』


 精霊アーシェルがそう言うと、道化師ボックスの手の光が消えた。



『あー、えーっと……』


 司会進行をしていた男性の困った声が聞こえた。だが、映像は、ずっと壇上が映っている。



『ねぇ、キミって、新規転生者なんだよね? 女神フルンちゃんのことをどう思う? 好き? 嫌い?』


 精霊アーシェルは、可愛らしい仕草で、ユウリに尋ねた。だが、これは返答を間違えると、必ず怒りを買う。


『もしかして、女神フルン様なのですか? いや、でも、見た目が違うけど、紫色の髪が女神フルン様のようです』


『キミは、女神フルンちゃんは好き? 嫌い?』


 ユウリは、目の前に浮かぶ精霊アーシェルが、女神フルンちゃんだと察した。そして、可愛らしい姿や、道化師ボックスの怒りを止めてくれたという安心感があった。


『女神フルンちゃんは、すごくかわいいから好きでした。お目にかかれて嬉しいです。ガッシュ領におられるんですね。また、お会いしたいです』


『ふぅん、そっか。また私に会いたいんだ。ボックス、さっさと宣言しなさいよ!』


 精霊アーシェルの雰囲気が、ガラリと変わった。道化師ボックスも、表情を引きつらせている。



『秋の感謝祭の場を借りて、私から宣言をする。私は、この世界を築いた本の神ボックスだ。ときの神の鏡に魔石が戻り、未来へとエネルギーが放たれた。私の本が、壊されたのだ』


(うわぁ、怒ってる)


 道化師ボックスは、ワナワナと湧き上がる怒りに耐えているように見える。


『私の本の先の世界へ進みたい者は、進めば良い。これまでのようなループを望む者は、虹の塔に来なさい。今、この時より、刻の神の流れに従うことを宣言する。3年後に終焉は訪れない』


 ワッと、歓声が上がった。その歓声にも、道化師ボックスはイラついたように見えた。


『ふふん、ボックスの負けよ。これで箱庭は開かれたわ。私が、鏡のエネルギーを解放した主人公に、隠れていなさいって言ったんだもん。私の勝ちね』


 精霊アーシェルは、ニヤッと笑うと、空へと黄色っぽい光を放った。


(破れた!?)


 空が、まるで紙のようにビリビリに破られたように見える。そして、パッと紙吹雪となって散った後には、澄んだ青空が広がっていた。



『あ、では、これにて、秋の感謝祭の終了を宣言します』


 壇上にいた祭りを司る精霊のフリをしていた男性が、祭りの終わりを宣言した。



 シュッ!


(えっ? 何?)


 映像は、その音の発生源を映していなかった。だが、会場にいた人達が、騒然としている。


 ようやく、壇上で倒れた人が映った。



『ふふっ、これでまた私に会えるわよ。神の庭園でね』


 精霊アーシェルはそう言うと、黄色っぽい光に変わり、そしてパッと弾けるように消え去った。


 道化師ボックスの姿も、すでに消えている。



 壇上には、ユウリの屍が、置き去りになっていた。



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