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帰還


 ゆらゆら揺れる馬車の中から外を眺めていると、お兄様達がいる我が都が目に入ってくる。

 めちゃくちゃ長い期間離れていた訳でもなく、たいして外から眺めたこともないのに、すごく懐かしく思えてきた。

 おれでこんなんだし、兵士の人や侍女さん達とかもっとでしょ。

 みんな挨拶が終わったらゆっくり休んでくれよな〜。


 門を抜け街中を抜け王城に入る門を抜けていく中で、街の人達は物珍しそうにおれ達を見るか手を振ってきた。

 城内に入って入り口付近まで行くと、先に連絡を走らせていたのか、おれ達の帰還を知ったお兄様が護衛と共に正面玄関前で待機している。

 本来なら謁見の間でおれ達が来るのをどどーんと構えていればいいはずなんだけどな〜……。

 多分、少しでも早くおれと会いたかった可能性が高い。お兄様……。


 おれ含めて馬車に乗っていた人物全員が降り、兵士さん達が全員整列していく。

 ヴァルムントに連れられてお兄様の正面まで来ると、全員揃って礼をした。


「皆の者、長きの旅ご苦労であった。全員無事に帰還し、その身を掛けて我が妹の心身を守り抜いたことを誇りに思う。……今は報告などよりも、ゆっくりと休みたいはずだ。明日に報告を頼む。解散だ解散!」


 気遣いとして挨拶は短くしたんだろうな。

 それはそれとして後半適当になってるのは、さっさとおれとフランクに話したいからだな……。

 お兄様がルンルンで手を差し出してきている様子から丸わかりだ。

 おれはあまりにも分かりやすすぎるお兄様に遠い目をしながらも、差し出された手を取った。


「ごめんな、すぐに休みたいとは思うんだが……」

「わたくしもお兄様とお話がしたかったのです。お気になさらないでください」


 おれが行くのに散々駄々こねてたお兄様がこうなるのは分かってたからいいんだよ……。

 ちらっとヴァルムントを見ると着いてくる気はないみたいで、他の兵士さん達に指示をしていた。

 代わりって言うと変な話だけど、リージーさんとゲオフさんはおれの後についてきている。

 お兄様に従って歩いていって辿り着いたのは、おれの部屋だった。

 皇族の部屋なので不在でもキチンと清掃がされている。

 おれの部屋で話すことにしたのは、おれがすぐに休めるようにっていう配慮かな?

 リージーさんはお茶の準備をしに行き、ゲオフさんとお兄様の護衛は部屋の外で待機をし、おれ達はソファへと並んで座る。

 いつの間にか上がっていた肩を下ろすと、お兄様がおれを抱きしめてきた。


「か、カテリーネぇ……。お兄ちゃんは寂しかったぞ……!」

「わたくしも、早くお兄様とお会いしたいと思っておりました。宮廷のレシピや民の間で作られているレシピもいただきました。お兄様と一緒にこれらを楽しみたいです」


 おれもお兄様を抱きしめ返して、背中をぽんぽんとする。

 ユッタからゲンブルクの民の間で作られているレシピ本はちゃんと買ってきてもらったんだ!

 しばらくは何を作るか迷っちゃうくらいだぜ〜! へへ!

 お兄様にはあれがいいかな〜とか考えていたら、お兄様は抱きしめるのをやめて怪訝な顔を見せた。


「……宮廷のレシ、ピ……?」

「はい。後ほどお話いたしますが、色々ありましてお礼代わりに……」

「そ、そうか。何があったか分からないがそうか。……それは報告として何があったかは聞いてもいいやつか?」

「勿論です。お兄様には必ず聞いていただかなければなりません」


 何故かあせあせしているお兄様を疑問に思いながらも、おれはゲンブルクで何が起こったのかを包み隠さず話し始める。

 ……部屋を同じにしたとか、そういうのはわざわざ話さないからな!?

 お兄様はヴァルムントが憑依されてチャラ男になったことに声が引き攣るほど笑ったが、脅威に晒されたと聞いてからは真剣に心配をしてくれた。

 そしてフェリックス殿下の身に起こっていたこと、おれ達が狙われる可能性について話をする。


 ちなみに事件を公にしなかったのは相手方の都合だけじゃない。

 おれ達を狙ってくるかもしれない連中に、おれ達が知っていると悟られない為だ。

 どっかでおれ達が関わったと漏れてる可能性はある。

 でも少しでも向こうの油断を誘えるなら、ありだとヴァルムントくんが言ってた。

 まー、そもそもそんな連中はいないってのが一番なんだよなぁ。

 話を全て聞き終わったお兄様は、難しい顔をして口を開いた。


「……そんなことがあったのか。色々と言いたいことやしなきゃいけないことはあるが、お前達が無事で本当によかった……」


 今一度お兄様から抱きしめられる。

 おれがここにいるのだと確認しているみたいだった。

 心配掛けてごめんな〜。


「ヴァルムント様のお陰で、わたくしはこうしてお兄様の元に帰ることができました」

「後でヴァルを沢山労ってやらないとな……。それなら、まずは俺にもお前にも護衛を密かに増やすことにする。仮に気づかれたとしても、後々開催予定のものを考慮してだと勘違いしてくれたらいいんだが」

「……開催予定のもの、ですか?」


 おれが行っている間に決まったのかな?

 首をかしげていたら、お兄様は離れてから説明をしてくれた。


「戦争が終わって、ある程度落ち着いてきただろ? だから兵や傭兵として働いていた者達の息抜きが必要になってきてな。平民の実力者を城に登用させるというひとつの理由ができるし、いっちょ大会を開催するかということになったんだ」


 あー、力の振るいどころなくなって、持て余した力をどこに向ければいいのか分からなくなって……的な?

 魔物とかに向けてくれよって思っちゃうけど、そういうことじゃないんだよね。うん。


「大会というお祭りがあれば周囲も賑わいますし、お兄様は街の活性化にも繋がるともお考えなのですね」

「そうそう。さすが我が妹だ!」


 こんなことでおれを褒めないで欲しい……。

 他にも色々と込み入った事情があるんでしょ? おれはそこまで見抜けてないからさ。

 んで貴族側と解放軍──平民側との対立はまだまだ根深そうだ。

 おれとお兄様がクッションになってどうにかしていくしかないよなぁ。

 うっ、胃が痛くなる。

 それはそれとして、一番苦労してるのはお兄様だから、おれがもっと働けるといいなぁ。


「それではヴァルムント様やヘルトくん達も参加するのでしょうか?」


 こういうやつって将軍も主人公も参加するやつじゃん!!

 それを見れるってのは楽しいのが確定してる!

 ……同時になんかしらが起こるフラグになり得るんだけどね〜。

 まあ? ここは現実であるからして? 大丈夫だと願いたい……。


「参加するかは当人次第ではあるが、参加しないと不満が上がってくるのは確かだな。男ってもんは挑戦したい(さが)を持っているんだよ」


 全員が全員そうじゃないけど燃えるのは分かるよ……。

 格上とされている者を打ち倒すってのはロマンだからね。


「それに、互いの実力を知るいい機会だ。ぶつかり合って初めて分かり合えることもある」


 戦いの中でしか分かり合えない……。ってコト!?

 うわー、やりてぇ……。おれもそれができる立場になりたかったー!!

 なんでこんな夢溢れるイベントにおれは参加者としていられないんだ! 悔しいぞおい!


「それで少しでも皆様が分かりあうことができるのであれば嬉しいです。わたくしも、力になれると良いのですが……」

「そこはアレだ。試合を見つつ、優勝者に賞品を渡すのを担当してくれないか?」


 あ〜、なんかお姫様が優勝者に手渡すやつ〜?

 オッケーオッケー、渡すくらいなら問題ないわ。

 勝者に祝福のキスを……みたいなことがあったらダメだけどね。

 そ、そりゃヴァルムントくんがちゃんと優勝してくれれば済む話ではあるが!

 そもそも婚約者がいる身で、誰になるか分からない優勝者へキスをおくるってやばい話じゃん!!

 ノーですわよ! ノー!

 婚約者がいないんだったら、婚約ワンチャンあるかもねーってやつだから!


「構いません。……念の為の確認ですが、賞品を手渡すだけでよろしいのでしょうか?」

「ん? 他に何かやるべきことがあったか……?」

「いえ、それならば良いのです」


 ……そもそも誰とも知れないヤツにキスするなんて、目の前のお兄ちゃんが許さないだろうな。

 おれの考えすぎだったわ。

 へへへと誤魔化し笑いをして話を流すのであった。


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