心を触れ合わせるということ
戴冠式も終了して帰国となると、部屋に広げていた荷物を侍女さん達が綺麗に片付けていく。
もうちょい滞在して観光もできたとはいえ、いつまでもお兄様を待たせるのもな〜と帰るのを決めたのだ。
しかし、これでこの部屋もお別れかと思うとちょっと寂しくなってきた。
……部屋に押しかけてみたけど、おれとヴァルムントくんの関係って進めることができたのかなぁ。
昨日は全部の終わりってことで気が抜けたのか、無茶苦茶眠くて即行寝ちゃったし……。
なんだかなーと思いながらも、マクシミリアン陛下に最後のご挨拶をすべく支度を始めていった。
ご挨拶に通されるのがこの場所なのは何故……?
今おれ達は、陛下の執務室まで来てソファーに座っている。
どちらの護衛も部屋には入れておらず、あのことについて話をしたいんだと流石に察した。
「改めて言わせて下さい。色々とご迷惑をお掛けした上に、様々な御助力をいただき誠にありがとうございました」
おれってこの国にきて何回平謝りされたんだろうか。
勘弁してくれよ〜と思いながら、どうにか言葉を捻り出す。
「結果として喜ばしい結果となりましたので、これでよかったのです。きっと、黒龍様のお導きがあったのでしょう」
適当に黒龍のせいにしておいた。これで問題ないでしょ、多分。
「……そうですね。我々の祀る龍たる縁が齎したものかもしれません」
マクシミリアン陛下はふぅと息をつくと、座りなおして真剣な眼差しで口を開いた。
「罪人カメロンにつきましてはこれ以上の尋問が意味をなさないと判断が下された後に、謀反を企てていたとして極刑にいたします。カメロンの助力をしていた者も同様です」
つまり死刑ってことだよな。
酷いことをしたんだし当然のことではある。
でも、会ったことのある人が処刑されるのは気分悪くなってしまう……。
「カメロンに力を貸していた者達の正体や、その目的も探ってはおります。しかしながらあまり情報が集まっていないと言わざるを得ない状況です。ですが、兄の不可思議な力を利用しようと動いていたのは確かです。カテリーネ様やディートリッヒ様も、どうかご留意下さい」
うへぇ……。なんか知らんところで変なのが動いてるってことだよな?
勘弁してよ〜! ゲームじゃそんなんなかった気がするんだけど〜!
えぐえぐしつつ、神妙な顔をして頷きを返しておく。
おれはお兄様とヴァルムントくんとみんなで幸せでいたいからね!
「はい。お兄様にも必ず伝えます」
「情報が出次第、貴国へご連絡いたします。兄からも話が聞ける状態になりましたら、そちらも含めてますので。……それと、こちらはカテリーネ様が御所望されていたレシピです。お納め下さい」
「まぁ、ありがとうございます! とても嬉しいです……!」
マクシミリアン陛下が立ち上がって机から持ってきた紙束を手渡してきた。
それはレシピを手書きしたであろう紙の束が紐で括られたものだ。
おれはその場で踊りたい気分を抑えながら束を受け取る。
嬉し〜っ! マジで嬉しい! お兄様喜んでくれるかな〜っ!
ルンルン気分でいたら、何故かマクシミリアン陛下は胃痛がヤバそうな顔をしている。
「マクシミリアン陛下、どうかなさったのですか?」
「……いえ、なんでもございません。私が悪いだけですので、こちらのことはお構いなく」
顔色が悪いし普通に気になる……。
とはいえ意向通りに、質問したい気持ちを留めてスルーを決めた。
「兄の出来事以外にも、貴国にご協力できる事柄がございましたらなんでも仰って下さい。我々は全力で対応をすると龍に誓います」
「ありがとうございます。何か困窮した場合には、頼らせていただくかもしれません」
気軽に何でもって言っちゃダメだぞ……。真面目に。
とはいえ本当に頼る時が来るかもしれないとちょっと危機感を持ったので、淡く微笑んでおいた。
◆
帰国の時間じゃーい!
おれたちの荷物の詰め込みは当然として、マクシミリアン陛下から色々と贈り物もされた。
帰り際に贈られたものだから荷物整理が発生し、今はその整理待ちの時間だ。
ヴァルムントがいるからとゲオフさんやカールさんも荷馬車整理に行かせたんだけど、困惑した表情のカールさんがおれにお伺いを立てにきた。
「カールさん? どうかされたのですか?」
「ソフィー様が来てます……」
ソフィーさん?
見渡してもソフィーさんを見つけられなくて首を傾げると、カールさんが「お連れしてもいいですか」と聞いてきた。
オッケーを出したら、カールさんはわちゃわちゃ荷物運びをしている場所に戻って1人の少年を連れてくる。
その少年は帽子を被っていて、いかにも下働きの少年といった格好の子だった。
紫の垂れ目は好奇心旺盛そうに輝いている。
……ん? え? あ!
「そ、ソフィー様……? そのお姿は一体」
「実は謹慎を受けておりまして……。それで、この恰好を」
へへっと笑いながら頬をかいたソフィーさんは可愛いけど、謹慎受けてるのに出てきちゃったのかあ。
本当にアグレッシブなんだな、この人。
しかしこの格好、妙に見覚えがある……ような?
「この恰好の時はソールと名乗っているんです。なのでソールとお呼び下さい」
帽子を被った少年みたいな恰好で、『ソール』?
……あっ。
あっ、ああ、あーーーー!!
思い出した! そうだわ! そうだよ!
ゲームのゲンブルク編で主役となっていたのはソールだったんだよ!!
ゲンブルク王国が大変なことになっている、助けて欲しい! って主人公のところへ来た少年がソール!!
ソールは城が襲撃かなにかにあって命からがら逃げ出すのに成功し、そこから主人公の評判を聞いて助けを求めた……って流れだったような。
うーん、記憶がボロボロすぎてちゃんと思い出せねえや……!
ソールは確かに女の子だった気が……する! 曖昧すぎてもうダメだ! ほぼ覚えとらん!
「これだけはどうしても伝えたかったので抜け出してきたのです。……カテリーネ様、ヴァルムント将軍。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございました……!」
ソフィーさんはおれ達にしっかりとした礼をしてくる。
箝口令が敷かれているからか具体的なことを言わなかったものの、震える声から何を言いたいのかは理解できた。
「顔をお上げください、……ソールさん。わたくし、謝っている姿よりも笑顔を見せていただきたいと思っております」
「……カテリーネ様」
だって謝られるのばっかりなの疲れたぁ! もうお腹いっぱいです!!
笑顔で内心を隠して言うと、ソフィーさんは感動した様子でおれを見ていた。
違うんだよ……、疲れたんだよ……。
おれ、そんなことよりもソフィーさんがどうなるのか知りたいわ。
ソフィーさんってどう見てもフェリックス殿下に凄まじい感情を抱いてたじゃん。
とはいえ今はマクシミリアン陛下の婚約者になってるし。
でもこういうの聞くのはデリカシーないよな。やめとこ。
「分かりました。カテリーネ様方を笑顔で見送らせてください」
「はい。どうか……、ソールさん達もお元気で」
フェリックス殿下の名前を出せなくて、変な感じになってしまったがソフィーさんには伝わったっぽい。
ソフィーさんは笑顔で頷き、おれ達を見送ってくれるようだ。
荷物整理も終わって馬車へと乗り込んでいく。
おれが乗ってヴァルムントが対面に座って、リージーさんも乗ると思っていたのに、違う馬車に行ってしまって乗り込んでこなかった。
あれ……?
とりあえず、窓から見えた手を振るソフィーさんに手を振り返す。
やがてソフィーさんが見えなくなり、馬車は街中を進んでいく。
なんかひたすら人と会うだけであんまり観光できなかったの、やっぱり惜しかったな〜と考えていた矢先のことだった。
「カテリーネ様」
「はい、なんでしょうか」
声をかけられて窓から目を離しヴァルムントを見ると、妙にかしこまった顔をしていた。
一体何が始まるんだと身構えていたら思わぬことを言い始める。
「……もっと、カテリーネ様とお話をしたいと思ったのです」
「お話、ですか……?」
ど、どうしたの?
おれもヴァルムントも沢山おしゃべりする性格じゃないから、そこまで頻繁に会話はしない。
だから気にしてなかったんだけど……。
「……私は、カテリーネ様とお話できることが幸せなのだと気がついたのです。ですので、カテリーネ様が問題のない時にお話ができればと……」
……なっ、なんっ、なに改まってそんなことを言うんだね君は!?
お、お前が幸せだって感じてくれるなら、おれはいつだって話をするよ!
おれだって話ができるんならしたいんだからな!!
「わ、わたくしもお話がしたいです。ヴァルムント様と、お話をさせて下さい」
ヴァルムントの隣へと移動をし、寄りかかりながら窓から見える景色について話を始める。
おれが話を振って、ヴァルムントが一生懸命考えながら答えて。
たわいもないし、つたない会話だ。
だけどこれがおれ達のペースで、幸せだった。
これでこの章は終了です。
毎日更新にお付き合いいただきありがとうございました!
感想や評価にリアクション、紹介をしていただいた方々のお蔭でここまで頑張れました!
あとは幕間など単発話挟みつつ次の章にとりかかりたいと思います。
構想がしっかりまとまり次第、再開予定です。
お話がよかったと思っていただけましたら、感想や評価にリアクションなどしていただけると大変励みになります!




