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戻ってきたらド深夜もド深夜だった。
ソフィーさんからマクシミリアン殿下に話をつけてもらい、軽く事情を説明したりとその他色々な事が怒涛に押し寄せてクッタクタのクッタクタ!
詳しい事情はまた明日ってことでおれとヴァルムントは部屋へと戻っていった。
リージーさんを筆頭に心配したと声を掛けられつつも、休むのが先だとザッと体を拭かれるだけされベッドに寝転び秒で寝たのである。
恐怖! 起きたら窓から見える太陽が燦々と輝いてる!
どう見ても朝とは言えない明るさ!
うわ~!? やっちゃった!?
昨日は夕食以降予定がなかったけれど、今日は今日で別に予定が立っていたはずだ。
やっべーと心底肝が冷えて、側にいたリージーさんに慌てて確認をする。
「本日の予定は……!?」
「カテリーネ様、本日はマクシミリアン殿下とお話されるだけになっています。時間はまだまだございますので、まずは食事をとってからお風呂に入りましょう~」
つ、つまり。本日の予定は全てキャンセルされたってコト……?
あんなことがあったし、マクシミリアン殿下とお話するのは分かってた。
けど、それ以外を全部なくしちゃって大丈夫なの?
国の不利益になっちゃわないか?
「ダメですよ〜、カテリーネ様。昨夜起こったことは箝口令が敷かれていて内容は分かりませんが、カテリーネ様がとてもお疲れなのは分かります。戴冠式の為にも体を労わらないといけませんよ~」
で、ですよね~。おれも休んだ方がいいのは分かっている。
昨日のまあまあ歩いたり魔力を使うだけ使ったとはいえ、現状体がだるだるすぎた。
でもさぁ、どうも気持ちが焦っちゃうっていうか。
……気持ちリセットしないとダメだよなぁ。
「分かりました。先にお風呂へ入りたいのですが、大丈夫ですか?」
「勿論大丈夫です〜。入浴されている間に、食事の準備も進めますから」
リージーさんは人を呼びに扉へと歩いていく。
顔をペシンとしてから部屋を見渡し、ヴァルムントがいないのに気がついた。
おれより体力が倍……いや、5〜6倍はあるだろうヴァルムントは、疲れは感じてもおれみたいにはならないもんな。
普通に起きて諸々の話とか先にしてそう。
そんなことを考えていたら、ユッタや侍女さん達がやってきたので早速風呂場へと向かっていったのだった。
◆
大体夕方くらいになってから、おれの状態がある程度問題ないと判断されたらしく、部屋にマクシミリアン殿下がやってきた。
部屋の中は機密情報を話すということで、ソファに座っているおれと、その後ろに立つヴァルムント、対面のソファに座るマクシミリアン殿下しかいない。
ソフィーさんはいいんだ? まぁそういうもんか。
「カテリーネ皇女殿下、ヴァルムント将軍。我が国の愚か者があなた方に多大なるご無礼を働き、深くお詫び申し上げます」
マクシミリアン殿下が立ち上がり、深々と頭を下げた。
下がやらかすと上が詫びなきゃいけないんだから本当に大変だよな……。
あーやだやだ。そういうものだとはいえ、おれこういうの好きじゃないんだよね。
おれも立ち上がってマクシミリアン殿下と同じように頭を下げる。
「マクシミリアン殿下。元より、こちらが貴国の地下へと無断で立ち入ってしまったのが原因です。謹んでお詫び申し上げます」
「いいえ! カテリーネ様方がいらっしゃったからこそ、ソフィーと我が兄が、兄さんが救われたのです。……本当に、ありがとうございました……!」
少し掠れた声から、フェリックス殿下のことが大好きなのが分かる。
兄弟で骨肉を争ってたとかじゃなさそうでよかった〜……。
これで微妙な反応がされてたらすっごい気まずかったわ。
マクシミリアン殿下は大きく息をついてから、頭を上げて口を開いた。
「この御恩は決して忘れることはございません。カテリーネ様方の偉大なるご慈悲のお陰です。そして我が国の非礼を心に刻み、今回の償いとしていかなる要求にも応える所存です」
やめろーーー!!
関所といい、この国の人はどうしてすぐそういう話になるんだ!
おれとしては地下に入っちゃったことをチャラにしてくれればそれでいいから!! マジで!
カメロン宰相のしたことは許せる行為ではないし、ヴァルムントくんが人一倍働かせられたし、マクシミリアン殿下の言ってることも当然だとは思うが!
恩に着せる感じがして嫌だな〜って……。
いや〜、その方が国としては簡単だし利になるってのは分かってるんだけども。うう。
た、助けて……。
グスターベさんは箝口令の関係でいないし、チラッとヴァルムントくんを見たけどヴァルムントくんは口出しする気はないみたいだ。
つーか今思い浮かぶものが何もないから、適当に誤魔化していいよな!? いいよね!?
「でしたら……、是非ともお渡ししていただきたいものがあるのです」
「……はい、なんでしょうか」
「貴国特有のレシピについてです」
「レ、シピ、ですか?」
マクシミリアン殿下の声がちょっと裏返ったの笑いかけたわ、あぶねー。
「ええ。この間いただいたお料理がとても美味しく、国へ帰っても食べたいと思ったのです」
ユッタにレシピよろよろ〜はしたが、ユッタが持ってこれるレシピは家庭料理のはずだ。
宮廷料理とは全く違う。
それはそれ、これはこれ!
中々言うタイミングなかったから、丁度いいかな〜って。
マクシミリアン殿下は呆気に取られながらも、おずおずと頷いた。
「えっ、ええ。料理長に連絡をし、書き起こすよう指示を致します。帰国の際には長期間保存が可能な食材と共にお渡し致します」
「はい、よろしくお願いします」
よっしゃぁ! 新しい料理ゲットだぜ!
えっへっへ〜、お兄様と一緒に味わお〜っと。
おれがニコニコしていると、マクシミリアン殿下は困った笑みを浮かべながら言葉をかけてくる。
「ですが、これだけでは到底御恩は返しきれず、償いもできているとは言えません。必ず、貴国の力になると書状をお送りいたします」
だからやめろって! おれはそういうこと判断できないんだってー!
ぐえーっとしたい気持ちを抑え、笑顔で流しておく。
後でグスターベさんに相談だなぁ……。帰ったらお兄様ともだわ。
おれがひんひんしていると、ずっと黙っていたヴァルムントが口を開いた。
「マクシミリアン殿下。カテリーネ様がご無理をなさっているようですので、本日はこのあたりでよろしいでしょうか」
「配慮が足りず申し訳ない。カテリーネ様、私はこれで失礼します」
おれまだ元気だけど……?
困惑してヴァルムントを見ると、なんか若干堅い様子だった。うん?
そのままヴァルムントはおれに言葉を告げる。
「カテリーネ様。私もこの後警備についてなどマクシミリアン殿下と話し合いがございますので、失礼してもよろしいでしょうか」
「え、ええ……」
今回みたいな件があったからこそしっかり話しておきたいってこと?
気持ちは分からないでもないので、部屋を出ていくヴァルムントとマクシミリアン殿下を見送ったのだった。




