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キツいキツいキツいキツーーーい!!
どこまで魔力必要なの!?
おれがぜーぜーしてるの分かりませんかね!?
そろそろフェリックス殿下は自力で起きてくれ〜!
冷や汗たらたらしてきたんですが!
心の中で泣き言を羅列している内に、音を響かせながら近づいてきていた集団が部屋へと辿り着いた。
「……おや、これはこれは。一体何をなさっているのですかな?」
「カメロン宰相……。いいえ、逆賊カメロン!」
「おやおや、ソフィー様。逆賊とはまた可笑しなことを。私は国の忠実なる僕ですよ。その為に、こうしてフェリックス殿下に役立っていただこうとしているのですから」
先頭にいたのはマジでランタンを持ったカメロン宰相だった。えー……。
しかも会話的にカメロン宰相がフェリックス殿下をこうしたのが確定してしまった。
どうして……どうして……。おれ、まだ宰相がまともだと信じていたのに……。
フェリックス殿下が問題児だったから腹立って消そうとしたとか?
まー、やべーヤツって思っているのが上に立つのは面白くないって思うのは理解できるかな。
それに今考えると、地下にフェリックス殿下がいるのを知っているからこそ、解決できるって断言してたのかも?
あれこれ考えながら観察していると、カメロン宰相の後ろにいる人達の格好は兵士の姿をしていても妙にちぐはぐな印象を受けた。
なんだろ、服に着られている感っていえばいいか?
「……そして、何故カテリーネ様とヴァルムント将軍がいらっしゃるのですか? 申し訳ございませんが、こちらはご案内できない場所だったのですが……。しかし知ってしまった以上は、残念ながらソフィー様共々行方不明になっていただくしかありませんねえ」
典型的な悪役台詞すぎる。
人差し指を口元に持っていって怪しく微笑むとか悪役仕草すぎないか?
逆になんでここまで悪役できるんだ、教えてほしいわ。
……でもさぁ、ヴァルムントくんのこと舐めすぎじゃない?
見たところ人数は10人程だし、これくらいパパッとヴァルムントくんがやってくれる。多分。
お荷物なおれらっていう不安要素を除けばの話なんですけどね!
「やれっ!」
カメロン宰相の合図と同時に相手の兵士が前へ出てきて剣を抜く……、かと思ったら風や水の魔術を飛ばしてきた。
なんで!? 剣で戦わないの!?
兵士として紛れる為の変装かなにかだったの!?
ヴァルムントはおれ達へ被害を及ばせまいと、荒削りながらも分厚い氷壁を作り出していく。
その代わりにぼんやりとしか向こう側が見えなくなった。
激しく動いたりあっちこっちに魔法が当たる音が聞こえてくる。
時折氷壁に魔法が当たったであろう音と振動があって体がビクッとなった。
思わず体は反応してしまったけれど、おれはヴァルムントを信じている。
でも1人で戦わせているのは申し訳ないし、フェリックス殿下を目覚めさせたら、多少は拘束とかでヴァルムントの役に立てるかもしれない。
だから早く終わらせたいんだけどなぁ……!?
終わりが見えないんですけど〜っ!!
汗をだらだらさせながら魔力を注ぐことに集中していると、ソフィーさんが必死に殿下へ呼びかけをした。
「フェリックス、起きて。お願い、起きて……! また私と街を周ろう! 一緒に出かけよう! 貴方の笑顔を、もう一度見たいの……!」
心からの叫びがフェリックス殿下にぶつけられる。
反応がないかと思った瞬間に、フェリックス殿下を覆っていた黒の植物みたいなものが、ソフィーさんの前までゆっくりと伸びていった。
ソフィーさんは少し戸惑いを見せた後に、その植物を手のひらでぎゅっと握りしめる。
えっ、それ触れて大丈夫なの……?
おれが思わず心配していたら、激しい戦闘音に紛れてパキパキと小さな音が聞こえてくる。
気になって音のする方向へ首を向けると、あの宝石に無数のヒビが入っていくものだと分かった。
やがて赤色が分からなくなるほどの無数の白い線が走った時、全てが宙に弾け飛んで床に散っていく。
同時に自分の手のひらから違和感を感じて顔を戻すと、フェリックス殿下が虚ながらも目を開いていた。
「フェリックス……!」
魔力を注ぐのをやめて下がり、ソフィーさんにフェリックス殿下の前を譲る。
ペタペタとフェリックス殿下の頬を触っているが、まだフェリックス殿下の意識はハッキリしていないみたいだ。緩慢に目を開け閉めしている。
相当魔力削られたワケだけど、ヴァルムントに助力できるんならしたいと思って氷壁の向こう側を窺う。
いきなり飛び出していったらあぶねーヤツだしさ。
戦いが始まった当初よりは戦闘音の激しさが減っている。
顔出して見ても大丈夫かな? いやこれフラグになるか?
おれがうだうだ悩んでいたら、床に散らばっていた宝石の欠片が再び輝き始めるのが見えた。
ビビり散らかして下がっていくと、欠片はふわふわと浮き上がっていく。
やがて天井付近にまで到達したかと思ったら、凄まじい勢いで欠片は氷壁の向こう側へと飛んでいった。
ドスドスと嫌な音が響き、同じくして複数人の呻き声も聞こえる。
えっ、なんかグロいことしてない……?
大丈夫? ヴァルムントにまで飛んでないよね!?
一気に戦闘音もなくなって本気で恐ろしくなったおれは、氷壁の端の方から顔を出して向こう側を見た。
多少は怪我していそうだけれど無事に立っているヴァルムントがいて、ほっと胸を撫で下ろす。
それ以外についてはカメロン宰相以外が全員地に伏していた。
扉付近にいたカメロン宰相は、今起こったことが信じられないのか、わなわなとして逃げようとしている。コラァ!
「行かせん!」
「ヒィッ!」
ヴァルムントが剣を振ってカメロン宰相の足元に氷の礫を飛ばしたのを見て、おれは手で目を覆った。
い、痛そうだったからつい。
嫌な音と共にカメロン宰相は呻き声をあげて地面に倒れ伏したみたいだ。うひー。
おれはゆっくりと後ろへと下がっていって、再び氷壁で向こう側が見えない位置まで戻る。
ヴァルムントから問題ないと声がかかるまで、フェリックス殿下とソフィーさんの様子を窺うことにしたのだった。




