18
泣いてスッキリしたからなのか、ヴァルムントと約束をしたおかげなのか。
おれの気持ちが落ち着いてきて、焦らなくていいんだってなった。
だってヴァルムントくんはおれと最期までずっと一緒だ宣言してくれたし、おれが急ぎすぎただけかなって。
そりゃ未来のことだから確定できないのは分かってるよ。
けれどそうやって約束を結ぶほど、おれのことを……その、想ってくれていたってのが……、うん。
もうホント、ヴァルムントくんってばさあ!
口にすると恥ずかしくなりそうな言葉を堂々と言えるよね!?
そ、そ、そこが、……かっこいい、って、思ってるんだけど……も。
ごほんごほん!!
おれ達にはまだまだ沢山の時間がある。
だからこそ、その時間をゆっくりと進めていくで良いじゃないかと思ったんだ。
城の部屋に戻ってからは、特にヴァルムントをからかったりすることもせずに大人しく寝ることにした。
……普通に疲れてたってのもある。
しっかりと寝て起きた翌日。
人に会いつつも合間の時間で休憩を部屋でしている時に、ソファでリージーさんから身繕いを受けながらユッタからある話を聞いていた。
「あの、カテリーネ様は第一王子の話をきいたことはありますか……?」
「フェリックス殿下のお話ですか? ……そういえば、あまりお話を伺いませんでした」
この国貴族の人ともそこそこ話をしたが、話の上で必要な時にだけ触れる程度にしか出なかった。
もう半年も経って故人扱いになっている以上は深く話してもしゃーないから、あんまり出てこないのは分かる。
その上戴冠式の主役は第二王子のマクシミリアン殿下だから、配慮して話さないのも当然だ。
下世話な人は話したりしてるんだろうけども、おれ相手には話せないだろうしなぁ。
おれはそういう雰囲気あるから!
「そうなんですか……。兄さんと街に出た時に、街の人達から色々とお話を聞く機会があったんです。堅実なマクシミリアン殿下が王様になるのに不満はないけれど、フェリックス殿下が王様になる日を夢見ていたのになぁって」
フェリックス殿下は度々お忍びで街へと降りて民と交流していたらしい。
お忍びなのに街の人達に知られているのは、度々問題を起こしていたからなんだとか。
「問題を起こしたって言っても、フェリックス殿下は民を想っての行動だったそうです。多分お付きの可愛らしい顔立ちの男の子と一緒になって、町民が悩んでいる物事を解決していくのは痛快だったと」
そんなアクティブな王子様だったの。
街の人達としては親しみやすくて素敵な王子様だったんだろうなぁ。
ただその分、貴族側からは反感買ってそうではある……。
だから話もあんまり出なかった可能性もでてきたな。
……てか、そんな人がソフィーさんの婚約者だったのか。
見たかぎりではそんなフェリックス殿下と相性良くなさそうだけど、どうなんだろう。
マクシミリアン殿下とは何かしてるみたいだけども。
把握すること自体は悪いことじゃないし、ちょっとソフィーさんについて聞いてみよ〜。
「ソフィー様のお話などは聞いていたりしましたか?」
「ソフィー様ですか? う〜ん、フェリックス殿下と関係が悪かったとは聞いていません。なんと言えばいいんでしょうか……。聞いている限りは普通のご令嬢だったみたいです」
婚約者という立場なのにあんまり情報がないの?
まぁご令嬢が市井に降りることなんてあんまりないだろうから、街の人が知らないのも当たり前か……?
なんかよりややこしくなった気がするぞ。
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ! 少しでもカテリーネ様のお役に立てたなら嬉しいです!」
あ〜笑顔のユッタ可愛い〜! 癒しだ……。
ニコニコしながら休憩を終え、次の仕事に取り掛かる準備を始めたのだった。
◆
今回の夕食はおっきなホールでの立食形式で、各々仲良くなりたい人と仲良くなりましょうね〜の会だ。
ゲンブルク兵の人が壁側にいるだけで、おれ専用の護衛は不在だ。
もうそろそろ始まる戴冠式が終わったら、すぐ領地や国に帰ったりする人がいる関係で開催されている。
は、はっきり言って苦痛……。
少人数ならまだしも、ここには沢山の人がいるからずっと気が抜けない。
あっちこっち動き回るのもはしたないからと、好きな料理を自分で取りに行けないし。
使用人にとりにいかせればいい話ではあるんだけども、あんまりおれがそうしたくなくって。
それに食事は気心の知れた人と食べるのが1番なんだって!
はぁ……、お兄様の料理が恋しくなってきたわ。
唯一良かったことといえば、ヴァルムントがいることかな。
グスターベさんも参加してはいるよ。いるけどあの人、今は水を得た魚状態だから……。
自由に泳がせておくのが本人の為だと思うんだ、うん。
いくらヴァルムントが隣にいるとはいえ、疲れるものは疲れる。
だからどう苦痛を軽減させるか悩んだ結果、おれは他の人が来ない間にヴァルムントくんへこっそりちょっかいをかけ始めた。
「あ、あの、カテリーネ様」
「ヴァルムント様、どうかされましたか?」
「いえ、その……」
にっこりと微笑んでおくと、ヴァルムントは言い淀む。
どう言えばいいのか、すんごい迷っているのが丸わかりだった。
へへへ〜。おれがやっていること、大したことじゃないもんね〜。
ただヴァルムントくんの指をこっそりツンツンしたり、指をなぞったりしているだけだもん。
それだけだからヴァルムントくんも言うに言えないんだよねぇ。ふへへ。
困ってるヴァルムント見るの楽し〜。
もーちょいガッツリいこうかな〜と思っていたところで、ある人がおれ達に近寄ってきた。
「……カテリーネ様、ヴァルムント様。お時間よろしいでしょうか?」
「ソフィー様?」
近くに来て礼をしてきたソフィーさんの顔は、化粧をしているのに顔色が悪いと分かるほど酷いものだった。
どっ、どうしたん。何があったの。
「問題ございませんが……。ソフィー様、顔色が優れないようです。お休みになられた方がよろしいかと」
「……いえ、私は大丈夫です。そんなことよりも、カテリーネ様にご協力いただきたい事があるのです」
そんなことってアンタ……。
でも多分これどう言っても無駄なやつだ〜。休んでくれない態度だ〜。
幽霊で怖がらせちゃったこともあるし、多少なりとも力になりたい気持ちはあるんだよ。
けど、今のソフィーさんに協力をするのは大丈夫か? って気持ちもある……。
なんかやらかしそうな雰囲気あるじゃん。
うう〜んとなりながらもヴァルムントを伺うと、他の人が気付きにくい程度に眉を顰めていた。
やっぱそうだよね〜。
とはいえ、ここで断るとそれはそれで大変そうだ。
放っておくと破滅に向かいそうな感じがする……。
「ソフィー様。お話を伺わないと、ご協力できるか分かりません。ひとまず、詳細を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……ここではお話しできないので、別室に移動をしてもいいでしょうか」
そんなにヤバい話?
うわ〜と思いながらも、片手でヴァルムントの手を握った。
「構いませんが、将軍も共によろしいですか?」
「……はい、構いません」
ヴァルムントくんが一緒じゃないと流石に不安すぎる。
ソフィーさんは少し迷いをみせたものの、おれがヴァルムントの手を握っているのを見てオッケーを出した。
ヴァルムントと一緒に行くと判断したことは良かったらしく、ヴァルムントが頷いている。
ヴァルムントがいるから大丈夫なはず!
ソフィーさんが先頭となって、おれ達は別室へと移動をしていった。




