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今日は! 待ちに待った! 視察の日だーっ! ドコドコドンドン!!
午前中は普通に人と会うんだけれど、午後からはなんと美術館に行く!
しかもおれ達が滞在する時間は貸切!! 最高じゃん。
美術館とか博物館とかさ、人が多いと何を見るにも気を使ったりするからさー。
じっくり見たいのを見れそうで心が踊るよねえ。
なんと館長による解説まで付く!
解説なしだとさ、「これ何?」ってものも解説してもらえるんだよねぇ。
おれその辺勉強中だからちゃんと頭に入れておきたいのである。
芸術も外交に関わってくるんですよ……。実物を見ておいた方が頭に入ってくるじゃん?
美術館に行った後は決まったルートを軽く散策する予定だ。
うへへ、おれこれが楽しみでさぁ! 知らない場所を見るのってワクワクするんだよねぇ!
今回はちゃんとヴァルムントくんも同行する。
他に人が沢山同行するとはいえ、じ、実質、でっ、デートみたいなものでは……?
さ、流石になんかある……と、信じたい。
……いや、何もないからこんな風になってるんじゃん! おれのバカ!
ヴァルムントくんが何もしてこないから! おれがグイグイ行くしかなくなってんの!
うわーん、ヴァルムントくんのバカバカバカ!
そうやってぐぎぎぎしながら、今日の予定をこなしていくのだった。
今回行くことになった美術館は、城近くにあるゲンブルク王家の肝入り美術館である。
初代が芸術を愛しており、その関係で美術館創設に携わったんだとか。
だからか至る所に龍の石像やらなんやらが置かれまくっている。ホント好きだねぇ……。
館長さんの案内で館内へと入っていき、詳しい説明を受けながら作品を見て行く。
そうして大体2時間くらい、ヴァルムントとお付きの人達を連れながら作品を鑑賞した。
ちなみに、あんまりここまで長く鑑賞する人はいなかったらしい。嘘ぉ。
「本当にどれも素晴らしいものでした……。全てにおいて甲乙つけ難いものでしたが、わたくしはデクスター作の『フィラルフィッツの畔にて』が1番好みです」
「流石カテリーネ様、お目が高い。実は我が美術館の中で、1番価値があると言われている品なのですよ」
マジ? おれ審美眼なんてないから、ガチでたまたまだと思うわ。
本当に好きなの言っただけだし。
「偶然ですが、そう言っていただき嬉しいです」
「ご謙遜を」
ホントだってば。
ま、おれの雰囲気がそうさせてるのかもだけど? な~んて。
しかし、流石にちょっと疲れたから休憩したくなってきたな……。
そんなことを思っていたらスッと、後ろに控えていたヴァルムントが前に出てきて口を開いた。
「館長殿、一度休憩する場所はありますか?」
「ええ、ありますとも。どうぞこちらへ」
ひとえに美術館といっても日本のように誰でも入れるものではないらしく、主に上流階級の人が入るのが普通らしい。
だから休憩ができる一室を揃えた平屋が美術館に隣接されており、そのVIPルームにおれ達は案内をされた。
中は広く、大きなガラス戸から綺麗に整えられた庭が一望できる場所だ。
……おれは休憩できる場所っていったら、美術館に併設されてるカフェとか想定してたんだけどなー。
部屋へ入るとリージーさんにゲオフさんは扉近くに待機し、他の人は部屋の外で待機をしている。
ソファへと座って一息ついたところで、おれは近くに立ったヴァルムントへお礼を言った。
「ヴァルムント様、ありがとうございます。どうしてわたくしが疲れているのが分かったのでしょうか……?」
おれは疲れたとは思っても一言も溢してないし、顔だってちゃんといつもの顔を維持できていたはずだ。
首を傾げながら問いかけすると、ヴァルムントは目をぱちぱちとさせて困り顔をしながら言った。
「……申し訳ございません。お疲れになっているのが理解できたから、としか言えません」
ゔっ。
思えばこの国に来た時もヴァルムントはおれの不調を見抜いたし、お、おっ、思っているよりもヴァルムントくんおれのこと見てるな……?
そ、そういうのは分かるのさぁ! ならその、その……。
「そ、そうですか……」
恥ずかしさとモニョモニョした気持ちがごちゃごちゃになって、何も言えなくなってしまった。
しばらくそのまま沈黙が続いていたかと思うと、急に部屋の雰囲気が張り詰めたものへと変化していく。
「ゲオフ」
「はい、ヴァルムント様」
ゲオフさんはヴァルムントの言葉を受けて、扉を5回ノックをしてからガラス戸の方へと歩いていく。
ノックを受けてか、チャリチャリと音を立てながら部屋の外の護衛の人達が動いた音が聞こえてきた。
一体何があったんだと物々しい雰囲気にビビり散らかしていると、庭の奥深くから声が響いてくる。
「──です、少しだけでいいのです!」
「──────?」
姿は見えないけれど、女性が声を荒げているのが聞こえてきた。
ただし相手方の声はあんまりはっきりと聞こえてこない。
……あれ? これって……。
「────、──────」
「──────」
声のトーンが低くなり、女性の声も何を言っているのか分からなくなった。
部屋の扉付近にいたはずの数人の護衛さん達がいつの間にか庭に出ていて、声の発信源を見に行っている。
「────」
「──────」
一人の護衛の人が首を振って何かを合図してくると、警戒をしていたヴァルムントとゲオフさんが多少ゆるみを見せた。
数十秒後に声の主達は去って行ったのか外の人がまた別の合図をし、張り詰めていた空気が一気に解ける。
ゲオフさんが外にいる護衛の人達をガラス戸を開いて招き入れると、早速何が起こっていたのか報告をしてきた。
「報告いたします。声の主はマクシミリアン殿下とソフィー様でした。こちら側を伺っている様子はございませんでしたので、我々の存在は想定外だったかと思われます」




