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よくわからないけれど、急遽夕食は王宮の一室でカメロン宰相と一緒にとることになってしまった。
なんでぇ……。
それでいてヴァルムントとグスターベさんは不在だ。
ヴァルムントは武官同士でないと聞けない情報があったりだとか、その辺の情報収集に努めている。
いくらヴァルムントくんがおれの護衛って言っても、城の中まで四六時中一緒だったらゲンブルク側のことを信用していないってことになっちゃうからね。
そもそもおれ専用の護衛であるゲオフさんやカールさんがいるし……。
グスターベさんは当初の予定通り色々な人と会っている。
だからおれは実質一人で対応しなくちゃならないってコト!
うわ~ん助けて! ……おれ今日こればっかり言ってるな!?
少人数用の会食部屋なのか、部屋の規模は小さいけれど装飾その他諸々は豪華な場所にきた。
おれとカメロン宰相がそれぞれ座ると、テーブルには一品ずつ並べられていく。
いわゆるフルコースってやつだ。
おれの食事量も考慮されていて、カメロン宰相より量が少なくされている。
おまけにどの料理も綺麗に飾られているし、おれが食べたことがないものばっかりで、すげー『おれが望んでいるもの』を分かってて逆にちょっと怖かったぜ……。
「いかがでしたかな、こちらの料理は」
「はい。とても繊細かつ、素晴らしい技術が使われているのが分かりました。尚且つ舌ざわりも良く、素材の味を生かした味付けがされていて美味しいかったです」
適度な会話をしつつ、最後のデザートまで大いに楽しんだ。
美味しいものはいつだって最高なんだい!
「お気に召していただいたようで良かったです。……ところで、何かお困りの事はございませんか? 例えば、幽霊など」
「ご存知だったのですね。お恥ずかしい限りです……」
宰相にまで幽霊話届いてんの?
いや、考えたら国の体面に関わるから知ってるのも当然か。
だから食事を一緒に〜なんてことになったのね。
ごめーん、でも悪霊が出たのは本当のことだから! 許して!
「して、カテリーネ様がご覧になった幽霊は、どのようなものだったのでしょうか? 私共としては、早急に片付けたい事案でございまして……」
「ハッキリとした姿を見た訳ではないのです。白く朧げな人型が、バルコニーに佇んでいました。そして庭にいらした女性を見ながら呟いたのです。「地下にいるオレの場所へ来てくれ」と……」
口元を覆いながら俯いて怖がってる演出をする。
憑依されてたし姿は見てないから適当言ったわ、すまんな!
「なるほど……。その女性というのは、具体的にどのような方でしたか?」
「黒髪に赤いドレスを着ておりました。遠くから見ただけですので、それ以上は……」
「では、その幽霊はどの程度バルコニーにいたのでしょうか?」
「幽霊がいることに気がついてから、……そうですね、数十秒程度でしょうか」
おれがバルコニー近くで会話を盗み聞きしてた時間ですけども。
色々嘘ついて申し訳ねーなーと思いつつも、これで地下に調査がしっかり入ってくれたら万々歳なんだわ!
カメロン宰相、たのんまーす!
「ご協力、ありがとうございます。近日中には解決してみせますとも。……もっともカテリーネ様もヴァルムント様もご一緒にいたいが故に、解決を望まないかもしれませんが」
「そ、そのようなことは……」
「おおっと、失礼失礼。少し踏み込みすぎましたかな」
本当にな!! 流石に真面目だったところにぶっ込まれるのはビビるわ。
……というか、幽霊の話を信じられすぎじゃないか?
いや、うん。国のメンツに関わるから解決するぜーって姿勢は大事なんだけどさ。
悪霊がいるのも本当だし、解決して欲しいのも本心なんだけど……。
う〜ん。どう言えばいいものか。
おれが悩んでいる間に解散の流れとなって、おれ付きの人達と共にヴァルムントの部屋へと戻る。
クタクタ状態のまま風呂に入ってからソファでくでぐてになっていると、リージーさん達による全力ケアが行われていく。
大方が終わってリージーさん以外の侍女さん達が出ていった。
リージーさんは最終確認をしているようだ。
「カテリーネ様」
「はい、なんでしょうか?」
「本日も万全を期しますね~」
サムズアップでもしてきそうな良い笑顔で言ってきたリージーさん。
昨日と同じく多分恐らくメイビー何もないけど、今回はヴァルムントくんの胸に突撃するから綺麗にしておきたい気持ちはある!
だからちょい戸惑いはありながらも、しっかりと頷きを返した。
「戻りました」
またヴァルムントくんは別所で風呂に入ってきたらしく、荷物を持ってそそくさと着替えに風呂場へ行ってしまった。
一方リージーさんは再びいい笑顔を残して、部屋から去っていく。
よ、よーし。ターゲットよーし。
絶対に! おれは! 今日! ヴァルムントくんの胸筋を味わう!
おれはヴァルムントくんの胸筋で癒されないと気が済まん!!
寝る時用の服になって戻ってきたヴァルムントくんを見る。
昨日も思ってたんだけど、いつものかっちりとした服装でなく、薄めのシャツで体つきが分かりやすい。
胸筋も分かりやすい。
どう例えればいいか……。
そうだなぁ。スマートなムキムキハリウッド俳優みたいな、そんな感じ。
男のロマンがそこにある。かつてのおれもこうなりたかった……!
無理だって? はい。
「カテリーネ様?」
ついつい凝視しすぎたせいで、ヴァルムントくんが困惑している。すまんすまん。
でもこれからもっと困らせることになるんだわ〜、ふふふ。
「ヴァルムント様……」
すすすーっとヴァルムントくんに近寄っていく。
そうしておれは、勢いのままにヴァルムントくんの胸筋向かって突っ込んだ。
「カッ、カテリーネ様!? いかがなさいましたか!?」
許可取りとかしたらヴァルムントくん絶対にゴネるもん!
こういうのは勢いが一番!!
勢いよく突っ込んだつもりだったけど、ヴァルムントはビクともしなかった。流石だぜ。
顔と衝突防止でついた手に、ヴァルムントくんの胸筋の感触が伝わってくる。
……昨日触った時と同じで思っていたよりも柔らかい!!
そりゃおれの胸と比べたらもっちり感は下がるけど、弾力も張りがあって力を入れたらきっと硬くなるんだろうな。
もっとあからさまに揉みたいな〜。
あ〜、揉みたいけど流石にそこまではやれねえなぁ……!!
代わりにスリスリしよーっと。
胸中でそう思っていると、完全に戸惑ったヴァルムントくんの声が聞こえてくる。
「か、かっ、カテリーネ様! い、一体……」
「……わたくし、今日は少し気疲れしてしまいました」
「でっ、では、早くベッドでお休みを……!」
「ヴァルムント様、お願いです。今は、こうしていさせて下さい……」
手をヴァルムントの背中に回してギューっと抱きつきにいく。
顔が胸筋に挟まれてウハウハパラダイスが開幕した。
おっしゃい!! 緊張で固まり始めたし最高だぜ!!
「カテリーネ様……」
どうしたらいいのか困り果てて手を空中でアワアワさせているヴァルムントくんを放置し、おれはひたすらヴァルムントくんの胸筋を吸い尽くした。ついでに背筋も触って回復をした。
あー、やっぱ筋肉たまらんね……。しかし心臓バクバクなの可愛いな。
程々に満足したおれは、「ありがとうございます、元気が出ました」とにっこり微笑んでから、棒立ちのヴァルムントくんを残してベッドへといったのだった。




