13
助けて。
そんな言葉ばかりが頭に浮かぶ。
現在地は城内にある庭園の一角、おしゃれなティーパーティーいたしましょうぜって確実に言える場所。
白いテーブルに盛り盛りなお菓子に香り立つ紅茶。
そして各国のおめかししたレディ〜達がふふふと笑いながら、冷戦が始まっていた。
おれの他に4人いて、扇子で口元隠してたり民族衣装で目元が見れなかったりと多種多様になっている。
まずはこのお茶会の主催、ソフィーさん。
元は第一王子の婚約者だったんだけど、第一王子が正式に亡くなったとされた結果マクシミリアン殿下に婚約スライドが発生した大変な人だ。
黒髪ロングでタレ目な紫の瞳が特徴的で、今はマクシミリアン殿下に合わせたであろう薄桃のドレスを着ている。
ちょっとドレスの色は本人と合ってない気がするが、政治的どうこうでそうしてるんだろうな。
それでいて、今一番おれより大変な思いをしている人だろう。
「イザベラ様、どうかそのあたりで収めていただけないでしょうか」
「あら、嫌だ。ワタクシは心配してあげているだけじゃない?」
いかにもな金髪縦ロールに緑の瞳で、ゴージャス扇子をひらひらとさせてゴージャスドレスを着ているのはイザベラさん。
魔術大国であるイブラントの人で、結構な地位にいるらしい魔術師の夫と同伴で来た人だ。
自身も魔術師として結構な功績を上げた人らしく、今この場で1番でかい顔をしている。
グスターベさんからも面倒な人だから注意しておいてくれって言われた人だ。
確かにめんどい。
「そうですよ、イザベラ様は心配をなさっているだけです」
イザベラの同意をしてきたのは、シギダという女性だ。
赤髪赤目と態度からキツい印象を受けている。
コス〇コ……じゃねえや、エストコネホセンって国の人。
エストコネホセン国外交官の妹さんだったかな?
魔術大国なイブラントの隣国で同盟関係にあるんだけど、資源が豊富だから狙われやすくってイブラントにしょっちゅう護ってもらっているんだとか。
それでイブラントに頭が上がらず、ぶっちゃけ属国状態。
シギダがイザベラに同意しているのも、その関係があるからなんじゃねーかな。
「美味しイ」
密かに小さな声でそう呟いた女性は、レ=カッハピュ国第二王女のニスリーンさん。
おれ達とは違う言語を母国語としている。
だからおれ達の言葉を喋れてはいるが、ちょっと言葉尻がおかしい。
東南アジア系っぽい民族衣装を着ており、フードみたいなのも被ってて目元が見えない作りになっている。
肌が若干濃くて、髪の毛が黒っぽいな〜くらいしか分からん。
けど性格は見ての通りすんごいマイペースだ。こんな中で美味しく紅茶飲めるのか……。
で、今回標的になっているのは〜……おれ!? おれ! おれおれ〜。
ヒューっと真夏のビーチに駆け込みたくなった気持ちを抑えながら、頑張って応対をする。
「ご心配いただきありがとうございます。現在体調は問題ございません」
「そぉ? その眼といい、色々と違うと『大変』なんじゃないかしら?」
うわぉ、バチバチ悪意だぁ。
両目の色が違うの、久々に直球で言われたわ〜。
大体おれの美少女神秘ぱぅわ〜で突っ込まれないのと護衛にビビるのが大半だ。
たまーに言ってくるのはイザベラみたいな人で、女性だと大体共通していることがある。
それは……。
「そのようなお体で、あの逞しい将軍のお相手が務まるのかしら。アナタ、また病気になっちゃうんじゃない?」
ヴァルムントくんのことが好きな人達なんですよね〜っ!
しっかしお前旦那おるやないかーい!
なに人の男を好きになっとるんじゃーい!
いや、ただの嫉妬かもしれないけどさぁ……。
「体があまり丈夫でないのは確かです。ですが、最近は良くなってきたのですよ」
体が丈夫じゃないのは自業自得の結果なんだけどね~……。
良くなってきているのはストレッチとかしてるのと、ブラッツ先生やリージーさん達を筆頭におれを支えてくれている人達のおかげだ。
「そうでしょうネ。カテリーネ様、昨晩は将軍と夜を共にされていたと小耳に挟みましたシ」
「……ふぅん?」
ニスリーンさーん!? 何故貴方はいきなり火に油を注ぐ真似をするんです!?
てか耳が早すぎませんかね~!?
一気にイザベラの不機嫌ゲージMAXになったし、シギダは「うわぁ」と手で口元を隠している。
ソフィーさんは案外耐性がないらしく顔をほんのり赤くしていた。
そっ、そもそもおれとヴァルムントくんの間には何もなかったんだが~!?
……なかったんだよぉ。
まぁ、ちょうどいいから誘導していくか~。
「実はわたくし……、バルコニーで幽霊を見たのです。黒髪に紅いドレスを着用された女性を見ながら、「地下にいるオレの場所へ来てくれ」と呟いている幽霊を……」
女性を見たのはおれなんだけどな。
カールさんが嘘をつく時は本当の事を混ぜるといいって言ってたんだもん!
「それでわたくし、怖くなってしまい……。つい、将軍を頼ってしまったのです」
「ああ、カテリーネ様。お可哀想ニ」
怖くなったのも本当! 幽霊に見られてるかも……、って部屋で生活したくないし!
ニスリーンさんが同意してきたがあまりにも棒読みすぎて適当なの丸わかりだ。逆におもろい。
イザベラとシギダはうっそくせ~って顔を隠しもしていない。
ほとんどの人はこれで騙されてくれるんだけどな~。おれに好意的でないてのもありそう。
こりゃだめか~って思っていたら、さっきまで顔を赤くしていたソフィーさんが今度は顔を青くしていた。
「……ソフィー様?」
「あ、あ、いえ、なんでもございません。失礼しました。ゆ、幽霊ですか。カテリーネ様が安心してこの国に滞在できるよう解決に努めます」
……ソフィーさん、幽霊が怖かったり?
すんごい目線がキョロキョロしてる。
そんな無理して解決しようとしなくていいんだけどなぁ。
おれとしては、ただ悪霊についての噂を広めてくれりゃいいし。
解決は別の誰かがやってくれりゃーいいのよ。
「幽霊だなんて、随分お可愛らしいものを見られたんですねえ」
「一度、目の検査も兼ねて医者にみていただいたらどうですか?」
ほほほーっとする2人。
おれねえ、意外と視力悪くないんだわ。
隠してた右目とか視力悪くなってんじゃねーかなって思ってたんだけど、大丈夫だったんだよねえ。
ってちゃうちゃうちゃう。
「ご心配いただきありがとうございます。一度みていただいたのですが、わたくしは健康そのものでした。ですので、どうしたら幽霊の方が未練を達成できるのかを考えておりまして……」
「ふふふ、カテリーネ様はお優しいのですネ」
ちゃんとブラッツ先生に健康診断されてますからねえ!!
によによしながらそう言ったニスリーンさんは、何がしたいのか本当に分からん……。ただの愉快な方に動かしたいだけ?
おれから思った反応を得られなかったからか、イザベラは顔を歪めて立ち上がった。
「ほんっとうにお優しいこと。いつかその優しさで足がすくわれるかもしれませんわよ」
「あっ、イザベラ様! お待ちください!」
イザベラは立ち去っていき、シギダもそれに続いていく。
庭園には何事もなかったかのようにお菓子を摘まむニスリーンさん、顔が青ざめたままのソフィーさん、これからどうすればいいのか分からないおれだけになった。
「も、申し訳ございません、カテリーネ様。イザベラ様方があのような態度をカテリーネ様に取るとは思わず……。私の失態です。お詫びとして何としてでも幽霊につきましては解決をいたします」
「何のことでしょうか? わたくしはお二方には何もされておりません。ですからソフィー様も、どうかお気になさらないでください」
気にすんなよ~。ああいう人は多分どっかで自滅するって~。
大体初対面なのに敵意丸出しでくるあっちの方がおかしいんだしさぁ。
ソフィーさんを慰め、ニスリーンさんのマイペースっぷりに困惑しながらも、その後は和やかにお茶会を進めていったのであった。
……とはいえもっと、癒しが……癒しが欲しいいいいいい!
今後もまだ色々あるんだよ!?
ユッタ抱きしめたいよぉ!
でもユッタはきっとめっちゃアワアワしちゃうだろうから駄目で……。
いや、それはそれで可愛いんだけど可哀想だし。
なんか他にねえかなぁ。
……筋肉。
そうだわ、筋肉は全てを解決する……!
昨日おれが味わったのは腕と背中の筋肉だった。
今日はヴァルムントくんの胸筋に突撃すりゃいいんじゃないか!?




