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ザールルニャに入る前に、多分そのまま王城入りが予測されたので丹念に化粧をされ身を綺麗にされた。
淡い水色と白色のドレスで、ひらひらとしているけど落ち着いた感じのものを着用。アクセサリーも銀色を多く使われている。
……おれ、自分で選んでいないんだけどさ。青と銀系統多いっすね?
悪いってことじゃなくて! じゃなくて……ええっと。はい。
ヴァルムントくんをイメージさせるもの多すぎるのも、あれなのでは……。
おれの自意識過剰か!?
……いや、多分選んでるのリージーさんだぞ。
わ、分かんないけど。確定してないけど!
様々なアクシデントを考慮し、式典の2週間いかないくらい前にザールルニャ到着を想定しておれ達は出発。
けど結果として1週間くらい前の到着となった。実際に1週間前に到着するのがいいらしいので、問題はない。
この世界じゃ遠いところに行くってなると、予定していた日程は結構ずれたりする。
ゲームじゃテンポ重視でパパッといけるけど、現実はそうはいかないもんさ……。
今日は馬車内にはおれとリージーさんに他の侍女さんが1人乗っている。
そのまま城入りが想定されているので、今回ユッタはいない。
手続きを経てザールルニャへ入り、中央に位置する王城への道をゲンブルク兵士に先導されて通ることになった。
「私がご案内いたします」
「よろしく頼む」
案内人の後ろをヴァルムントが先頭になって進んでいき、その後に護衛とおれ達のいる馬車……と続いている。
街並みは門と同じで石造りが基本となっており、路面も平らな石が敷き詰められていた。
おれ達は超目立っているので、街の人達から注目されまくっている。
ヴァルムントは将軍然としているし、おれの乗っている馬車は豪華だし、護衛の兵士もついているんだから。
お、お騒がせしてまーす!
馬車内で格好に問題がないかをリージーさんに確認され、王城へと入る門で入城の手続きをし。
城への玄関口前まで来ると馬車は止まり、ヴァルムントや兵士さん達は馬から降りていく。
兵士さん達は綺麗に整列し、おれはヴァルムントが馬車の扉を開けて差し出してきた手を取り降り立った。
帝国の城と比べると若干無骨な感じの城が、おれの目の前に聳え立っている。
そしておれ達を出迎える為にか、薄めオレンジ色の髪の毛をした初老の男性が、複数の兵士と使用人を連れて歩いてきていた。
いかにもお偉いさんって感じだ。
落ち着いた緑色のベストにジャケットを着ていて一見シンプルに見えるけど、細かい模様とかがすげー凝ってる。
多分この人、宰相のカメロンだな。
絶対口には出さんけど、第一印象としてはめんどくさそうなおじさんだ。
お兄様から聞いた情報とも大体一致してた。
『オレンジの亀が論する宰相』でおれ覚えたもん!!!
「カテリーネ殿下、ヴァルムント将軍。お越し下さり誠にありがとうございます。遠い道のり、誠にお疲れ様でございました。また、関所では魔獣討伐の際にご協力頂き大変感謝しております。後程我らが殿下よりお言葉がございますが、ひとまず先にお礼を言わせて下さい。……ああ! 私、我が国の宰相を務めておりますカメロンと申します。何卒、よろしくお願い申し上げます」
文句のつけようがないお辞儀と共に、長い呪文が述べられた。
ひ、ひーっ。暗示しなきゃ……。
おれは皇女様おれは皇女様お兄様に恥じない皇女様国に恥じない皇女様……!!
「この度はご丁寧なお出迎え、誠にありがとうございます。関所での一件につきましては、貴国の民の安全を守る一助となれたのであれば幸いに存じます。この度はマクシミリアン殿下の戴冠式が、滞りなく執り行われることを願っております」
こっ、こんな感じで大丈夫だよな!? なっ!?
あー今更緊張してきたわ……。
「はい。皆様方に素晴らしい戴冠式をお見せすることをお約束いたします。さて、戴冠式の詳細については改めてご説明するとして、皆様は長旅でお疲れかと存じます。お部屋は用意しておりますので、ご案内してもよろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくお願い致します。……その前にご紹介いたします。我が国の外交を担当しております、グスターベです」
「カメロン宰相閣下、この度はお会いできて光栄です。何卒よろしくお願い申し上げます」
後ろに控えていたグスターベさんを紹介しておく。
カメロン宰相はニコニコしながらグスターベさんに話かけにいった。
「貴方がグスターベ殿か! いやはや、お噂はかねがね」
「お恥ずかしい限りで……」
噂ってなんだ……。何をやっているんだね、君。
おれと話していた時はそこまで変な人ではなかったんだけど。
そうこうしている内に、カメロン宰相の後ろについていた使用人2人が一歩前に出てから礼をし「ご案内致します」と言ってくる。
おれはヴァルムントとリージーさんに2人の侍女さん、おれの護衛2人に数人の兵士さんを連れて城の中へと入っていった。
グスターベさんはカメロン宰相と一緒に話しながら、おれ達とは別の方向へと歩いていく。
ちなみに全員が全員、中に入る訳ではない。
他の人達は荷物整理などもある関係で、城近くに建てられている使用人専用の棟へと案内されるのだ。
◆
ヴァルムントは隣の部屋に兵士さんと入っていき、おれは侍女さん達とゲオフさん達と共に部屋の中へ入っていった。
この後にマクシミリアン殿下との挨拶と夕食があると説明があったから、まだ気を抜いてはいけない。
……と思っているのに、用意された部屋のソファに座ると途端に体がぐでーっとなってしまう。
城にある貴人用の客室なだけあり、広いしバルコニーも凄いし調度品も凄いしベッドも凄い!
なんかおれよりでっかい龍の石像が壁にあるし! ここ3階だからバルコニーからの眺めも凄いはず!
……語彙力!
と、とにかく、ちゃんと高級品を揃えてるのが十二分に分かる部屋だってこと!
龍の石像がここにもあるのは、単純に帝国から枝分かれした名残なんだろうな。
ゲオフさん達は警備の為に部屋の隅々を確認していき、リージーさん達はおれのお世話の為にあくせく動き始めた。
ボケーっとしながら眺めていると、ノック音が響いてリージーさんが対応しにいく。
ヴァルムントが来たらしく、おれはそのままオッケーを出した。
「失礼致します」
中に入ってきたヴァルムントがおれに近づいてくるにつれ、怪訝な顔をして辺りを見回し始める。
何かあるのかと思っておれも周囲を見てみたけど、これといったものは何もない。
「カール、ゲオフ。少しいいか」
「はい、なんでしょうヴァルムント様」
ヴァルムントは辺りをチェックしていた2人を呼び、おれに聞こえない小さな声で話しかけた。
「……いえ、ボクはないですね」
「ゲオフは?」
「私も特にございません」
返事を聞いてちょっと黙った後、「分かった、戻っていい」と2人に作業の続きを促していた。
何? 何があったん?
「ヴァルムント様、どうかなさいましたか?」
「……いえ。気のせいだったようです」
ヴァルムントは顔を軽く振っていつもの表情に戻すと、おれを見つめながら口を開いた。
「私よりも、カテリーネ様のご体調が優れないように見えます」
えっ、いや!? そんなことないけど!?
否定しようと思って立ち上がったら少しふらついてしまい、ヴァルムントが支えてくる。
こ、これはバランス崩しただけだし。
「問題ございません。今も、少し体勢をくずしてしまっただけです」
「カテリーネ様~、お顔がほんのり赤いですよ〜」
リージーさんに突っ込まれたけど、こ、これは単純にヴァルムントくんが近いだけであって……!!
そう思っていたのに、体はおれの意に反して不調を訴えてくる。立ってるの辛くなってきた。
ヴァルムントが座った方がいいと促してくるので、辛いのもあり大人しく座る。
どうしてここでこうなるんだ、旅中は大丈夫だったじゃん!
「この後にマクシミリアン殿下とのご挨拶があるというのに、不甲斐ないです」
殿下との挨拶に限らず、この国の貴族の人とか他に招待されている人とかにも挨拶をしなくちゃいけない。
1週間って長そうに見えるけど、会えるタイミングはそんなにないのだ。
悔しくて顔を歪ませていると、片膝をついたヴァルムントが柔らかな声で告げてくる。
「戴冠式に出席なさるのが、国の為になる一番の行動です。その為にも、今はお休みなさる選択をとられた方がよろしいかと思います」
「……そう、ですね」
そう言われるとそうだよなぁ……。
ここで無理して戴冠式に出れないのが一番やばいわ。
おれは何の為に来たん? ってなるしさ。
はぁと息を吐いて目元を覆うと、ヴァルムントが静かに言葉を続ける。
「私とグスターベがおります。カテリーネ様お一人ではございません。我々を信用して、お休みになっていただけないでしょうか」
「……分かりました。ヴァルムント様とグスターベさんにお任せいたします」
グスターベさんは色んな意味で強いから、きっとやり遂げてくれる。
ヴァルムントくんも真面目がすぎるところはあるけれど、かえってそれがいいと思われるはずだ。
おれは二人を信じて、大人しく休むと決めたのだった。
こぼれ話:昔のゲオフは気性が荒かったのだが、兵士時代のヴァルムントとの初対面時にボコボコにされておさまった




