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限界すぎて、お風呂借りた後ご飯食べずに寝てしまっていた……。
起きてからすごいお腹なっちゃって恥だったわ。
おれ美少女なのに! 美少女なのに〜っ!
幸い聞いていたのはリージーさんだけだったから、言わないでくれるとは思う。
し、信じてますからねリージーさん……!!
関所の人が用意してくれた朝ごはんを食べてから、カールさんの案内で早くから働いているヴァルムントと関所の責任者さんの元へと行く。
今は会議室であれこれを決めているようだった。
早速中へと入ると、他に相談している部下の人達も含めて礼をしてきた。
うちの外交担当なグスターベさんもいて、眼鏡をくいっとしている。
責任者の人は40代くらいの茶髪男性で、名前はダムダさん。
ラドおじさまほどじゃないけど、良いガタイをしている。
おれの好みの体つきはムキムキデカデカなラドおじさまレベルなんだよなー。
……いや、その、あの、ヴァルムントくんのはヴァルムントくんの体で大変よろしい身体付きだと思ってます。本当に。
男として理想のイケメンな体だよ……、羨ましい。
そっ、それ以外になにもありません!!
「お話中、失礼いたします」
ヴァルムントとダムダさんがおれに近寄ってきて、ダムダさんが先に口を開く。
「カテリーネ様。お疲れのところ来ていただきありがとうございます。また、粗末な食事で申し訳ございません……」
「いいえ。こちらのお料理をいただけて、わたくしは大変満足いたしました」
「そう仰っていただき恐縮です」
おれの言葉にダムダさんは顔を綻ばせる。
豪華な食事ではなかったのは確かで、ほどほどに冷めた肉の入ったスープとパンの朝食だった。
お兄様やおれが直接作ってるものでない限り、地味に毒味はされてたりするから冷めた状態が当たり前だ。
魔術で毒回復できるし、相当に危険なものでない限りは大丈夫だよって言ったことがある。
しかし、その『相当に危険なもの』を防ぐ為にやってると言われて何も言えなくなってしまった。
で、ですよね〜……。っと話が逸れたわ。
食べるもの自体は帝国内でも食べたことあるけれど、味付けが違うんだよ〜!!
微妙に調味料が帝国で使われているのと別な気がする。
どんなのを使ってるか聞いてみたいが、今尋ねるのは困るだけだろうからやめておく。
「カテリーネ様。グスターベを含めてダムダ殿と話をし、纏めた内容をお伝えいたします」
「はい、お願いします」
「エイデクゥの大まかな解体は完了いたしました。ですが詳細を確認するには質量が大きすぎる為、通常の魔物とは異なる点が見つかり次第追って連絡となりました」
滅茶苦茶デカかったし通常業務や怪我人もいるしで、関所の人間全員を解剖に動員するのは無理だ。
帝国側の手伝いがあっても微々たるものだったろうし、遅れるのも止むなしだと思う。
「今現在、エイデクゥの別個体が新たに発生する事態は確認されておりません。お昼をすぎても確認がされない場合、我々は目的地へ出発しようと思います」
「分かりました。……怪我人の方々は大丈夫でしょうか?」
ダムダさんが「よろしいでしょうか?」と、ヴァルムントに伺ってから了承を得て話し始めた。
「カテリーネ様やブラッツ先生方にお力添えいただいた結果、我らが兵士はほぼ回復しております。……ヴァルムント様やあなた方がいらっしゃらなかった場合、何人かは命を落としていたかもしれません。深く感謝申し上げます」
すごいキッチリとした礼をされてしまった。
いや〜、やるべきことをやっただけだし……。
誰かが死んでしまうってのは、たとえ知らない人でも気分良くないしさ。
おれ以外の人達だって似たようなこと言うと思う。
けれど言ったとしても、向こう側の気がすまないだろうからなぁ。
多分こう言えばなんとかなるっしょ!
「魔物に対しては同盟や敵対など関係なく対応すべきです。ですので我々はすべきことをしただけですが、なにか機会がございましたら協力していただけますと幸いです」
「カテリーネ様……! はい! 必ずや我らは国とは関係なく、あなた方のお力になります。その折には、何なりとお申し付けください……!」
ダムダさんが礼をすると他の兵士さんも一緒になって礼をしてきた。
く、国とは関係なくって言っちゃってええんか? ええんか!?
……お、おれは聞かなかったことにしておくわ。
なのでニッコリと誤魔化しておいた。
でもグスターベさんはおれの誤魔化しをスパッと斬り捨てる。
「カテリーネ様、処理は僕の方でいたしますので」
やらんでええ!! 後で言っておこう……。
でも話聞いてくれないだろうなぁ。
外交担当なだけあって、その辺はきっかりしてるんだよこの人。
おれと打ち合わせしている時も、柔らかそうに見えて容赦なく対応する人なのだと分からされた。
とにかく甘ちゃんだと判断した言葉に突っ込んでくる。
その言い方だと別の意味に捉えられるだとか、ちょっとした言葉にすぐ揚げ足取って指摘してきたりだとか。
おれの美少女パワー効かなすぎてビビり散らかしたのを今でも覚えてるわ。
「カテリーネ様の最大の武器はその美貌と笑顔と優しさですので、今のままでいいです」とも言われた。
それでも誉めてくれるの嬉し~! おれも美貌と笑顔には自信あるわ! やさしさに関しては詐欺しまくってる気がする!
ただグスターベさん、有能なんだろうけど怖い……。
いて助かる人物なのは分かってるよ!
分かっているけど、ヒエッていう感情はとまらねえや。
諸々の確認や対応が終了し、お昼をすぎてもエイデクゥの発生が確認されなかったので出発をすることになったのだった。
門は……、うん。修復作業が始まってたけど、そこまでぶっ壊れてはいなかったわ。
◆
関所から出発して一番近い街で宿泊をし、明後日くらいには目的地に到着できそうだと聞いた。
だからといって急いだりはせずに、今は人も馬も平原にある道の横で休憩中だ。
一度外に出ようと思って、リージーさんやユッタが先に降りて行き、おれも降りようと思ったら逆にヴァルムントくんが断りを入れてから入ってきた。
なっ、なんだね君!?
「カテリーネ様。一度、ディートリッヒ様からの情報を整理いたしましょう」
思わず何かあるのではと身構えたんだけど、ただの確認だった……。
べ、別に! おれは何も期待してないし!
おれは咳払いをしてから座り直し喋り始めた。
「はい。今回行われるのは第二王子マクシミリアン様の戴冠式ですね。エディング陛下がご病気故に即位されると……」
「間違いございません。第一王子のフェリックス様が魔物狩りの際に行方不明になられて半年が過ぎ、これ以上の捜索は厳しいと判断されたが故です」
ゲンブルク国王であるエディング陛下が病気で寝たきりになり、政治に関わるのが困難になっている。
本来ならば第一王子が王位につくものだが、当の第一王子は魔物狩りで行方不明になってしまった。
だから第二王子であるマクシミリアン殿下が即位をするという話だ。
ヴァルムントは目を険しくして話を続ける。
「ですが、怪しい点がございます」
「王がご病気になられたのと、第一王子が行方不明になられた時期がさほど空いていない点ですね……」
で、お兄様がきな臭いといった件はこの点だ。
不幸は続くこともあるので、疑って見すぎるのは良くないとは分かっている。
とはいえ同盟国であるこちらの国がゴタゴタし、力を貸せないうちに起こったという点も加味すると、あまり見過ごせないのだとお兄様は言っていた。
マクシミリアン殿下は15歳で、まもなく16歳になり成人を迎える。
そろそろ大人の仲間入りとはいえ、様々な後ろ盾が必要になるはずだ。
マクシミリアン殿下の援助という名で何かをしようとしている者がいても不思議ではない。
うちも一枚岩じゃないからねえ。よそ様だってそのはず。
……トラシク2じゃ舞台になってたってのは覚えてるんだけどさ。
ぜーんぜん何が起こったのか思い出せないんだよね……。
お兄様やグスターベさんからいくら話を聞いてもピンと来なさすぎて。
金稼ぎによく行ってたとか、くっそしょうもないことは覚えているのにな~!?
案外第一王子生きてたりして。行方不明で遺体が見つかってないとかそれじゃん。
「警戒する程度で構いません。疑いすぎるのも疲れの原因となります」
「はい。そういったこともあるかもしれないと、考えておく程度に留めておきます」
おれが身分ある立場である以上は『かもしれない』を考えておくに越したことはないのだ。
お兄様に迷惑かけるのは嫌だし。なければないでいいしな!
両手を握って力を入れてると、ヴァルムントがおれの手を取り大きな手のひらで包み込んできた。
「なによりも貴方を、我が剣にかけてお護りいたします。何があろうと貴方に傷をつけさせません」
綺麗な蒼い瞳がおれの姿だけを映している。
……あーーーーあーーーーー!!
不意打ちやめてくれませんこと!?
自分の耳があちちあちちになってるのが分かるよぉ……。
ぐぬぬぬぬぬ、騎士みたいなこと言っちゃってさ! ……正真正銘騎士だったわ!!
あーもーずるいずるいずるいずるい! かっこいいのずるい!!
「……はい。信じております」
ヴァルムントが言っていることに嘘偽りはない。
関所の時だって、おれを思っての行動をしてくれていた。
本気でそう思って言ってくれている。
だからおれも本当に思っていることを返したのだった。
そうして翌日。
おれ達は、ゲンブルクの王都である『ザールルニャ』に到着をした。
こぼれ話:カールは昔『やんちゃ』していたのだが、幼いヴァルムントとの初対面時にボコボコにされてやめた




