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TS生贄娘は役割を遂行したい!  作者: 雲間
TS元生贄娘は関係を進展させたい!
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 人って頭が冷静になってくると余計なこと考えがちだよね。


 関所に戻りながらエイデクゥの死骸どーやって処理するんだろうとか、緊急事態だったとはいえヴァルムントくん門に思いっきり氷突き刺してたよなぁとか、あのデカ武器作り出して刺しにいってたヴァルムントくんロマンだよなぁカッコよかったなぁとか、あれだけ動き回ってたしヴァルムントくんは無事なんだろうなとか思ったりしていた。

 到着してからすぐに詰所の中に入ると慌ただしく人が動いている。

 一度こちらに注目してもらう必要があるので、全員に声が届くよう表明をした。


「わたくし、帝国第一皇女のカテリーネです。わたくしは治療の心得がございますので、怪我をしている方々の治療を手伝わせていただけないでしょうか」

「よっ、よろしいのですか……!?」


 慌てて関所の人が寄ってきて礼をすると、驚いた表情でおれを見てくる。


「ええ。わたくし以外の者にも手伝わせますので、案内をお願い致します」

「カテリーネ様の仰る通りです。我々も手伝います」


 後ろを振り返えると、ブラッツ先生を筆頭に治療魔術を使える者が前に出てきていて頷いてくれた。

 おれが勝手に手伝わせるって言い始めたけど、最初から手伝うつもりだったみたいだ。

 関所の人はちょっと迷った後に、「お願いします」と頭を下げてきた。



 詳細を聞くと幸い死者は出ていないものの、先に対応していたからかゲンブルク側に結構な重症者が出ていた。

 おれ達と関所の人で治癒魔術を使える人間はいるが、怪我している人数を考えると足りない。

 ゲームだったら魔力回復薬を飲めば済んだ話であるけれど、ここは現実だ。

 飲みすぎると人間の生体反応として拒否が出て吐いちゃう。

 なので平時だったら皇女であるおれが出しゃばっちゃいけないが、治療に入る大義名分となった。

 自国でやってるのはちゃんと許可もらったからで、今回は他国も関係してくるからね。色々めんどくせーのよ。

 警護としてゲオフさんとカールさんは横にいるよ、もちろん。

 怪我人全員が同じ部屋に入りきらないから、医務室以外にベッドがある場所……宿直室などにも入れられている。

 普段関所の人が寝泊まりしてる場所は、不衛生だと判断されたらしいのは余談だ。

 おれの予想通り、反対側にも詰所はあるけどそっちも同じ状況だとか。

 それぞれ関所の人に案内されながら怪我人の元へ行き、おれはベッドで横になっている人へ「もう大丈夫ですよ」と声をかけながら治療をしていく。


「……あ、ああ……! こんな瞬時に! ありがとうございます、聖女様……!」

「皇女殿下。このご恩は忘れません……」


 聖女じゃなくて美少女皇女様です!

 中にはボロ泣きして言ってくる人もいた。何もそこまで感謝しなくても……。

 大型魔物相手に立ち向かった人達なんだからさ、こういう治療を受けて当然だと思う。


「感謝をするのはわたくしの方です。わたくしは、勇気を持って立ち向かったあなた方にすべき当然のことをしたまでです。あなた方に敬意を表します」

「もったいなきお言葉……! ありがとうございます!」


 や、やめろー! むず痒くなってきたわ!

 おれ変な顔になってないかなぁと心配しながら次の人へと移り、できる限りの治療を続けていった。



 怪我人はまだいるが重症者への対処は済んだとの連絡を受け、ゲンブルク側にある詰所の貴賓室へと案内をされた。

 軽傷者には消毒して包帯巻いたりだとか、物理的な治療がされているという。

 まだおれの魔力は大丈夫だし続けて他の治療に入っても……って言ったんだけど、やんわり断られてしまった。

 カールさんからも「体を休めた方が良い」と言われたので大人しく従ったのだ。

 貴賓室に入ると先に通されていたリージーさんとユッタが、おれのお世話をしようと色々準備をしている。

 他の侍女さん達は兵士さん達の手伝いをしてもらっていていない。

 ふわふわクッションのソファに体を預けてひとつ息を吐くと、思ったよりも体が重く感じた。

 ……あー、意外と疲れてたっぽいな。体がソファに埋まっていくぅ。


「カテリーネ様、こちらをどうぞ」

「……ありがとうございます」


 埋まっていた体を起こして、リージーさんが用意していたお茶の入ったカップを手に取る。

 ふわ〜、この紅茶落ち着く優しい味してるわ〜。身体中に染み渡るぅ。

 数回に分けて中身を飲み干し、ユッタがすかさず空になったカップを引き取りに来た。

 さまになってきたなーと思いながら、おれは疑問に思っていたことを口にする。


「現状はどうなっていますか?」


 治療を優先していて他のことがあんまり聞けていなかった。

 周りも命を優先としていたからこそ、おれへの報告などを遠慮してくれたんだと思う。

 視線の端でゲオフさんやカールさんが報告受けてるの見たし。

 おれの声に反応してカールさんが近くに寄ってくる。


「報告いたしますー。ヴァルムント様は大した怪我もなく、我が兵と共にゲンブルク兵と協力してエイデクゥを門から降ろしていました。あんだけ大きいのを片しとるのに、衝撃があらへんかったのは魔術のおかげかと」


 あれだけ大きいと、降ろす時に地面バーンして揺れるのは当たり前だ。

 門が崩れるかもしれないし……。

 それがなかったのは魔術使って降ろしてたからなのか、なるほどね。


「そいで、別で動いていたゲンブルクの兵士がエイデクゥの別個体が現れていないか確認をしていたんですわ。今までは大体30分後くらいには別個体が確認されてたんですけど、今回はそれがないと。念の為探索は続けてますが、発生は低そうだとの見解です」


 発生しない方が当然いいんだろうけど、現れないのもそれはそれで謎だな?

 てかそうだわ。これ聞いておこ。


「エイデクゥを解剖して、中身を確認しますか?」


 もしかしたらエイデクゥの中身に別個体発生の『何か』があるかもしれない。

 そう思って聞くと、カールさんは頷きを返した。


「その予定とのことですー。今までは解体しようとしても、別個体がすぐ現れるんで逃げるしかなかったみたいなんですわ」


 大型魔物相手を連続して撃破するには体力や怪我諸々含めて厳しいし、そりゃ逃げるしかないわ。

 普通魔物を退治したら、急いでいない限りは武器や防具などに使える部品を解体して取っていく。それを売ってお金にもしている。

 ゲームだと解体が省かれドロップ品ってことになっていた。

 今解剖ができるのも次の個体が現れないお陰なんだろう。


「それと……、門に不具合は起きていないでしょうか? その、大分……」

「ヴァルムント様、かなり派手にやってもうてましたからねえ。カテリーネ様の元へ行かせまいとした結果なんです。許してやってください。門もそこまで破損していないですし、カテリーネ様に恐怖を与えた手前もあってゲンブルク側も不問とするみたいです」


 ヴァ、ヴァルムントくんさぁ!

 君本当にそういうとこ、そういうとこ……!! ……すっ、好きだなぁ。

 てっ、てか、おれは恐怖を与えられただとか思ってないけど、相手側はそういう対面的なの気せざるを得ないよなあ。難しい。


「それに加えて不思議だったんは、今までは人が来たら戦うことを優先してたっちゅうのに、何故か今回は突っ走っていたんだそうです。予想外すぎて隊列崩れた結果、怪我人はぎょうさん発生した訳なんですが」

「突撃していた?」


 謎ばっかり増えるな!?

 ……おれの記憶が曖昧だからアレなんだけど、エイデクゥなんてゲームで出てた記憶がない。

 似たようなこともなかった……、と思う。


「エイデクゥの情報は詳細が判明次第、こちらにも共有すると。そいでですね、明日になってもエイデクゥが現れなければ通行していいと話がありましたわ」


 決してエイデクゥが現れないとはいえない。

 けど向こうもずっと閉鎖していられないだろうし、おれ達としても行きたいから助かるわー。

 大体現れたとしてもヴァルムントがなんとかしてくれるでしょ、うん。


「分かりました。本日はこちらで過ごすということでよろしいでしょうか」

「はい。既にゲンブルク側からの申し出があり、部屋は確保されてますー」


 今日はゆっくり休めそうなのが確定して、おれはちょっと上がっていた肩を落とした。


「では、ボクはヴァルムント様のトコへ行ってきますわ~」

「分かりました。ヴァルムント様へ、無理をなさらないようにとお伝えください」

「勿論です~! ……あっ、そうそうユッタ!」


 ユッタが体を震わせてからカールさんの方を見た。

 滅多にカールさんやゲオフさんから呼ばれることなんてないから、それで驚いたんだろうな……。


「はっ、はい! なんでしょう?」

「お前のお兄さん、すごい活躍しとるで~。ホンマに助かってるわ」

「あ……! あ、ありがとうございます!」


 カールさんは手をひらひらとさせてから、部屋を去っていった。

 ラハイアーってどこで活躍してるんだ……?

 疑問が顔に出てしまっていたのか、ゲオフさんが回答をしてくれた。


「エイデクゥの解体に文字通り力になっているとのことです」


 大型魔獣となると解体をするのに必要とする労力が半端ない。

 ずっとその場で解体していると他の魔物が寄ってきてしまうので、早めに小分けにして持ち帰るのが求められる。

 だから本当にラハイアーがいるのは助かってて、カールさんはユッタに伝えて心配を少しでも減らしてあげようとしたのかも。


「よかったですね、ユッタさん」

「はいっ。少し安心しました……!」


 胸を撫でおろしているユッタを見て、おれは笑顔を浮かべた。

 ここんところずーっと大丈夫かって心配しまくってたからな……。

 護衛業務に支障はなかったとはいえ周りを困らせてるのは事実だったろうし、少しでも挽回できる出来事があったのは何よりだ。

 ユッタ可愛いなぁと思いながら、おれは本格的に体を休めるのだった。


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