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月下氷人

完結としましたが、どうしても続きが浮かんで仕方がないので続けることにしました。

何度も何度も申し訳ございません。詳しくは活動報告を確認していただけると助かります。

EXはここで終わりで、次に別章を開始します。


 視察を終えて問題点もまとまり、ヴァルムントも色々報告しなければならないと一緒に帰ってきた。

 ヘルトくん達は引き続き、キリのいいところまで留まることになったらしい。

 というかアンゲリカが「まだ足らぬ!」と騒いだのだと、伝言する為におれ達を待っていたナッハバールから聞いた。

 エルフのアンゲリカ基準だと足りないのは当然なんだろうけど、付き合わされるヘルトくんや職人さん達の心労を思うと涙が止まらないぜ……。


 そうこうしている内に城へとたどり着いて、おれとヴァルムントはお兄様への執務室への道を歩いていく。

 執務室の前あたりまでくると、何人かの護衛の人が立っていた。

 その中のお兄様の護衛として扉前に立っていた銀髪のアルウィンさんは、何故か「あわわ……」とおろおろしている。

 他の人も似たり寄ったりな感じで、思わずヴァルムントを見たがヴァルムントも心当たりがなさそうだった。

 アルウィンさんはおれ達を見てしばらく目をぱちぱちとさせた後、口をもにょもにょとさせてから扉をノックする。

 そしておれ達が来たことを言うと、お兄様から返事の声が返ってきたのだけれども……。


「……入っていい」


 お兄様の声ひっく!! あっあっあっ、ご機嫌斜めですか……?

 アルウィンさんによって開かれた扉の先へと進んでいく。

 普段のお兄様なら椅子に座って書類やらなんやらを処理してるんだけど、この時はテーブルより前の場所にいて真顔で仁王立ちしてた。ビビった。

 完全におれとヴァルムントが室内に入ったところで扉が閉まっていく。

 あ、あのー……。この空間に閉じ込めないで……。

 おれが泣き言を心の中で言っていると、お兄様はにっこりとしてからダッシュし始めた。


「ヴァアアアアアアアアル! 貴様ァ!! 今度こそ本当に俺へ許可なくカテリーネと、カテリーネと結婚を……ッ!!」


 轟々と燃え盛る炎をバックにヴァルムントへ掴み掛かるお兄様。

 あっ……、その噂がこっちにも届いちゃってたのね……。

 たたたたた確かにおれとヴァルムントはつ、つっ、つ、付き合い始めはしたけれども結婚はしてないし!


「ごっ、誤解で……。……いや、しかし……」


 ヴァルムントは誤解を解こうと言葉を発したものの、なんでか眉間に皺を寄せて迷い始めた。

 迷うな言葉を止めるな! 実際結婚してないんだから、誤解であることには間違いないだろ!? 

 なんか変なところが引っかかって迷ってるんだろうけど誤解を解け!!

 確かにヴェルメじゃ結婚してないとか言っても「あらあらうふふ、ご冗談を」って感じで終わっちゃってたけど……!

 おれがお兄様に近寄っていくと、お兄様は速攻でおれのところへ来て両手を握ってきた。


「お、お兄様。あの……」

「ううっ……。お兄ちゃんは……、お兄ちゃんはな!? お兄ちゃんとしてはだな!? 可愛い可愛い可愛い可愛い最愛の妹を誇らしい我が親友に預けることができるのは非常に喜ばしく安心できるのだがな!? 俺はお兄ちゃんなんだ。お兄ちゃんなんだ! 愛でたい。再会して間もない我が妹をいつまでも愛でていたい! 幸せに家族水入らずで暮らしていたい……!! ガデリ゛ーネ゛ぇえええ!」


 息つく間もない怒涛の喋りをみせて熱く語るお兄様が爆誕した。

 お兄様、非常に錯乱しておられるようで……。


「だから我が妹を知らぬ間に盗られた気分で非常に納得がいっていない! ヴァル、テメェ殴らせろ! 決闘だ決闘!!」


 ただのポーズかもしれないけど、お兄様がヴァルムントに向かって行って腕を振りかぶったので慌てて止めに入った。

 ヴァルムントくんはヴァルムントくんで目を瞑って全てを受け入れようとするんじゃない! 少しは抵抗せえ!


「お、お兄様! 暴力はいけません!!」

「止めないでくれカテリーネ! これは男と男の儀式で通過儀礼なんだ!」


 ……お前には娘をやらん的なやつのこと?

 おれには妹も、ましてや娘もいたことないからその気持ちは分かんねーや。

 でもお兄様、ヴァルムントくんのことを認めちゃいるんだよぁ……。

 複雑な兄心ってことでいいのか? どうなの?

 おれがお兄様を止めているとヴァルムントくんが目を開いて姿勢を正し、片膝をついて真っ直ぐお兄様を見ながら声をかけた。


「まず一つ訂正をさせて下さい。結婚をしたという事実はございません。従来婚姻を結ぶとならば、書状をお送りしお伺いを立ててからが正式な手順かと存じます」


 貴族の結婚って色々めんどくさそうだからなぁ。

 まー、現状の制度が変わったりなんやりでしきたりとかも変わっていきそうだけどさ。

 ヴァルムントくんだから正式な順序を踏みたそうだし。


「しかし、私は貴方に直接申し上げたかったのです。……ディートリッヒ様。私は恐縮ながら、カテリーネ様と心を通わすことができました」


 口を結んだお兄様がおれの方を向いたので、おれは床に目をやりながらもゆっくりと頷きを返した。

 ……あ、あ、あっ、暑いなぁ~! この部屋なんか急に暑くなった気がしてきたな~!?

 おれの体温爆上がりしてるのもきっとそのせいだな!?

 両手をこすり合わせるとこんなにも熱くなってるのがすごく分かるわ~!!

 わ、わぁ~~~っ……。うう。


「そして私は、カテリーネ様と人生を共にしたいと思っております。ディートリッヒ様、どうか認めていただけないでしょうか」


 ちょっとヴァ、ヴァルムントくん!? ヴァルムントくん!?

 人生を共にだなんてそんな気が早すぎるっていうか、おおおおおれにも心の準備というやつがあってですね!?

 す、好き、好きだけど! 誰にも渡したくないけど!

 てかプロポーズの言葉は最初におれへ言って欲しかったっていうか……!

 ……そもそもヴァルムントくんのことだから、最初からそのつもりの告白だったのかもしれない。一生隣でとか言ってたし!?

 おれは付き合うの意味だと思ってたけど、ヴァルムントくんだからその可能性あるな……!?

 あの、その、えーっと、……ひぃん。

 てかコレ実質「娘さんを僕にください!」ってやつやんけぇ!


「……お前の気持ちは分かった。カテリーネはどうなんだ?」


 そこでおれに話題を振らないでもらえますか……!

 お兄様もヴァルムントもおれに目をやってるのが分かる。

 そうですよね、おれが返事をしないといけませんよねぇ!?


 ふ、ふぅ~……。ここは冷静になって考えなくちゃ。

 口元に両手をやりながらよ~く思考をめぐらす。

 気が早いっておれが思ったのは、そもそも人生なんてまだまだあるからこの先感情がどうなってるか分からないし、いくら命が繋がってるって言ってもそこまで縛られる必要はないとも思っているからだ。

 でもおれの気持ち的には、すっ、……すごく、嬉しく思っちゃってるのは間違いない。

 命の縛りですらヴァルムントを縛れるひとつになってるのに、喜びすら感じてしまっている。

 未来のことは分かんないけど! 分かんないけども、うん。

 す、好きだから一緒にいたいなー……って、気持ちが……強くって。

 こういうので突っ走っちゃダメってのは分かってるのに抑えられないの!!

 明らかにやばい状態なの自分でも知ってるのに、やっちゃうのはこういうことか~!!

 あーやだやだ恥ずかしい恥ずかしい! やっぱこの部屋熱いよ!!


 ……けど、ちゃんと答えなくちゃいけない場面だから。

 おれは息を大きく吸い込んでから、お兄様へ顔を向けて言った。

 

「わ、わたくしは……、う、嬉しい……です。叶うのであれば、一緒にいたいと思っております」


 この気持ちは嘘なんかじゃない。

 今でも好きで、好きで、たまらなくって。気持ちを止めることができなくて。

 顔真っ赤にさせてるところ見たいし、生真面目爆発させてるところも見たいし、一生懸命戦ってるところも見たい。

 ヴァルムントに笑顔でいて欲しい。幸せだなって思っていて欲しい。

 なによりもおれがヴァルムントの笑顔を独占したいから、結婚という名の『縛り』まで欲しいって思ってしまった。

 そう、契約が欲しいんだけれども……。


「……ですが、同時にわたくしはお兄様の傍にいたいのです」


 しっかりとお兄様と向き合って、言葉を伝える。

 お兄様自身が言っていた通り、おれとお兄様が一緒に過ごしている時間はまだまだ少ない。

 おれもお兄様を支えたいし、お兄様の負担を少しでも減らせるなら減らしたいと思っている。

 おれの存在が負担になっている部分はあるかもしれないけど、おれ以外にカテリーネというお兄様の妹は存在しない。

 『おれにしかできないこと』をしてあげたいんだ。


 お兄様はおれの言葉を聞いた瞬間、目尻にブワッと涙を出してから思いっきり抱きしめてきた。

 おおおおおお兄様、いつもよりちょっと強すぎやしませんかね……!?


「か、かっ……カテリーネーーーーー!! お兄ちゃんは、お兄ちゃんはっ……!」

「お、お兄様っ、す、少し強いです……」

「ディートリッヒ様、落ち着いてください!」


 ヴァルムントが止めに入ってやんややんやしつつ、結局お兄様の気が済むまで抱きしめられた。

 いくらシスコンとはいえ、そこまで喜ばなくても……。


 ある程度落ち着いた頃合いに、お兄様から切り出された話はこうだ。


「おほん。……まずだな、『婚約』という形にしよう」


 お兄様曰く。

 現状を踏まえるとすぐに結婚はできないし、確実にヴァルムントは「今以上皇族にすり寄るのか」って言いがかりをつけられるのが目に見えている。

 他にも解放軍派から難癖が飛んでくるだろうと。

 かといって何もしないのも嫌だし、こうして気持ちを伝えてくれたからには何かしてあげたい。

 だから婚約にしようとおれ達に話をしてくれた。

 お兄様の言うことはもっともだし、おれとお兄様が納得するまで一緒に過ごしたり、様々な情勢が落ち着くまではこうしようと三人で決定をした。


「いくら俺が許可したとはいえ、面倒なことがあったり言われたりするはずだ。これからうるさい周りも説得しなきゃならない。だがそれを乗り越えてこそだと俺は思う。……俺も、お前達のことを支えるからな。代わりにこれからも、俺のことを支えてくれ」

「お兄様……」

「ディートリッヒ様……」

「で、それはそれとしてだな。……ヴァル、お前どこまでやったんだ。おいコラ! 答えろ!!」


 再びお兄様がヴァルムントに掴みかかった。

 お兄様!! 妹がいる場所でデリカシーのないこと聞かないでほしいんですけど!?

 案の定ヴァルムントくんは赤面して固まってしまった。

 お兄様もこうなるの分かってたでしょうに!

 だ、大体どこまで進んだか、だなんてさ……、……。


 あー……。えー、その。

 付き合ってそんな経ってないから別に問題はないと思うんだけど。

 思うんだよ、思うんだけどね、うん。

 ていうかおれ自身もすっ、好きとはいえまだちょっと抵抗あるし。

 だからしてなくても問題ないと思うよ、思うんだ。

 でっ、でも、よくよく考えたら、き、キスすらしてなかったなって、おれ達……。


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