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6話


「改めてお礼申し上げます、ヴァルムント様」

「…………いえ」


 きちんと着替えをすませてからお礼を言う。

 おい、そっぽを向くなコラ。お前やっぱこれ照れ隠しだな?

 無表情でもこっちは分かってんだぞオイ。証拠はあがってんだ!


「私が、……勝手に、やったことです」


 コッチヲ見ロォ~!

 着替えたんだからちゃんと顔を見て話せや! さもないと意地悪すんぞ!


「しかしヴァルムント様。魔物避けがあると理解されていたのに、どうしてわたくしの護衛など……」

「……儀式までに、何かがあってはいけませんから」


 本当かよ、怪しいなあ。何か探ってたんでねーの?

 こう言う態度を貫くなら俺にも考えがある。……揶揄い倒してやるぜッ!!


「その、……ヴァルムント様がわたくしのことを想い、行動していただけたのかと錯覚してしまいました」


 お清楚巫女はこんなこと言わねーけど、俺は揶揄いたいから言う。

 胸に右手を置いて! 寂しそうに下を向いて! 左手は服を弄って! 足はハの字にして! 恥ずかしそうに小さめの声で呟く!

 ヴァルムントが見てないかもしれないとかはどうでもいいんだ、雰囲気作りが大事なんだ。

 ……返事が来ねえ!! よし、それならこう!


「わ、わたくしの言ったことは、忘れて下さい……」

「……いっ、いえ、その……、私は、いや、」


 顔見れねーけどタジタジなのが丸わかりでウケる。お前が悪いんやぞ〜。

 まあ、もう気は済んだからこの辺で終わりにするか。変に拗れたら面倒いし。


「……村に戻ります。お昼を用意いたしますね」


 俺の想像する『辛い失恋をして寂しい笑顔を見せる女の顔』をしながら、滝から立ち去っていく。

 結局ヴァルムントは言葉を続けることも、動くこともなかった。


 う〜ん。ううう〜ん。

 ……やべーな、今の調子に乗りすぎたかも。

 からかいと悲劇の女を演出するの楽しすぎて止まらなかったけど、ヴァルムントさぁ。

 なーんか、ガチで『カテリーネ』のこと護ろうとしてね?

 儀式でやろうと思えば、暴力的なパワーで黒龍倒せちゃうだろうし。


 でも、それだけは絶対にさせない。

 この為に俺は生きてきたのだ。


 やっぱり、『アレ』を確実に実行しないと。


 ◆


 昼ご飯と夕飯は俺がさっさと食べたので、結果的に別々になった。

 元々あんまし一緒に食べたくなかったから、これでオッケーオッケー。コンペイトウも食べつくしてやったぜ、げへへ。

 婆様はちゃんと保存食を持って行って、今日一日中祠にいる。

 ヴァルムントはなんか変な勘違いしてるみたいだけど、俺はしーらねっ!


 さてさてさて。

 儀式の始まりは日付が変わる頃に行うのが決定している。

 新月の日にやるのは、魔物の能力が落ちやすい日だと言われているからだ。

 満月の日に活性しやすいと言われているから、その逆もあるのだろうって理屈なんすかね。


 夜更けになるまで軽く仮眠をしてから、ヴァルムントと2人で祠へと向かうことになった。


「ではヴァルムント様、よろしくお願いいたします」

「……ええ」


 ウッキウキな心を真顔で隠しながら、暗い夜道を進んでいく。

 2人なので魔物避けが機能をしており魔物は特に襲ってこないのだが、ヴァルムントは常に警戒をしているようだった。

 あと、主人公達はもう先に祠へと向かっていってるはずだ。

 憶測でしかないけど、今頃裏の入口見つけて入って進んでるんじゃねーのかなぁ。

 そうそう。ゲームでの黒龍戦が経過ターンで強制終了なのは、カテリーネが到着して儀式が行われるからである。


 終始無言のまま祠に辿り着き、奥へと進んで祭壇へと辿り着く。

 石像裏にある入口は自動で元に戻るよう魔法がかけられているから、主人公達が通った後でも石像は朝来た時と同じ位置に存在している。

 ……大丈夫だよな? ちゃんとヘルトくん達は奥に入ってるよな?

 戦々恐々しながらも、黒龍の像に向かって魔力を注いでいく。


 鈍い音をたてながらゆっくりと石像が横にスライドをし、小さめの入口が現れた。

 俺は普通に潜れるけど、成人男性が入るには結構大変だったりする。


「……ヴァルムント様、通れますか?」

「大丈夫です」


 気を使わないのも変かなって声をかけたけど、本当に問題ないようでスムーズに通り抜けていた。

 お、おかしいな……。細いセベリアノはともかく、ラドじいさんとナッハバールは苦労してたんだけどなあ。

 その中間くらいの体格とはいえ、鎧分もあるから通りにくいはずなのに。

 イケメンキャラはそこもスマートなのかと思いながら、先へと進んでいく。


 万が一にも石像裏入口が見つかってしまったら、という想定で黒龍が封印されている場所までは迷路のごとき道になっている。

 勿論、俺と婆様は道を分かっているけど、ヘルトくん達はどうだろう。迷ってて黒龍のところにいないかもしれない。

 ……よくよく考えると、俺は目的達成できればいいから迷子でも構わないんだったわ。うっかり。


 ちゃんと整備されているわけじゃないから凸凹な道をそっと歩いていき、やがて行き止まりの場所にたどり着く。

 そこには黒龍を封印した時代にはあった、移動用の青い魔法陣が敷かれている。大きさは1人が立てるくらい。

 明らかに便利なのに、今の時代に至るまでの過程で移動用魔法陣を作成する技術は失われてしまったらしい。なんでやねん。


「これは……、珍しいものですね」

「はい。こちらが行くべき先へと繋がっている魔法陣です。どうぞヴァルムント様、お先に」


 俺は一歩下がり、ヴァルムントへ道を譲る。

 ヴァルムントは少し躊躇いを見せたものの、素直に魔法陣の上へと乗ってくれた。


「少し魔力を注ぐだけで反応いたします。おそらく、魔力の少ない者でも使えるようにという心遣いかと」

「なるほど、興味深いです」


 足元の魔法陣を足を退かしたりしてマジマジと見つめながら、魔法陣の構成について考えているようだった。

 お前そういうのに興味あったの? 意外だわ〜。

 本人としてはじっくり見ていたかったらしいが、何度か瞬きをしてから区切りをつけ魔力を注ぎ込んでいく。

 魔法陣が徐々に青白く光っていき、目を開けていられないほど光が強くなった時、ほんのり微笑みながら俺は言ってやった。


「……さようなら」

「は」


 そうしてヴァルムントは『祠の入口』へと飛ばされていった。


 ……イェーーーーーーーーイ!! 俺の勝ち!

 俺は嘘ついてねーもん!! お前が行くべきなのはディートリッヒのところで、黒龍のところじゃねーもん!!

 この魔法陣は祠奥から帰る時のものだ。ゲームだと『祠の入口に戻りますか?』って出る帰りのショートカットのやつ。

 黒龍に行く魔法陣はこっちとは違う分岐の方。騙されてくれて助かったぜ〜。

 これで数十分は時間稼ぎできるはずだ。

 あとはこっちがちゃちゃっとやれば、オールオッケーよ!


 口笛吹きたい気分のまま、ヴァルムントの前で抑えていた歩く速さを解禁し、スタスタと黒龍のいる魔法陣まで歩いていく。

 こっちの魔法陣は赤い。危険ってことで赤なんですかねえ、真実は知らんけど。

 さー、さっさと入って目的達成させるぞ! えいえいおー!


 黒龍のいる部屋はとんでもなく大きな空間となっており、広めの野球場くらいだ。

 んで、黒龍自体はその5分の1くらいの幅があるし、成人男性3人分くらい高さがある。

 弱体化してるからそこまで動けないんだけどな!


 ある呪文を唱えて俺に発動させてから、赤い魔法陣に踏み込み魔力を注いで発動をさせる。

 魔法陣は赤黒い光を発生させながら、俺を黒龍のいる部屋へと飛ばしていく。


 光がおさまって目に飛び込んだ光景は、ヘルトくん達が黒龍相手に戦ってる姿だった。

 前衛に剣のヘルトくんとナッハバール、斧のラドじいさん、後衛に残りの3人。

 ゲームだと全滅した想定で話が進んでいってたんだけど、みんな傷つきはしてるがそれほど大怪我でなく普通に立ってるな、なんでや?


 婆様は黒龍が暴れすぎないように封印の維持を徹底してたんだけど、主人公達が攻撃し始めたせいで黒龍の怒りが婆様の力を上回り、婆様は抑えきれず力尽きて端の方で気絶している。

 婆様かわいそ……とは思わない。

 ヘルトくん達がここに来て「何してるんだ」という質問をしたら、黒龍の力を削ぐ為にカテリーネを生贄とするって素直に話しちゃったのだ。

 自分がペラペラ目的を話さなければ、カテリーネの生贄を阻止しようとヘルトくん達が攻撃することはなかったからねぇ。


「みなさま、これは一体……」


 最後だからって俺はキャラを崩さんぞ〜。

 てか口から出る言葉はお清楚巫女固定になってるから、内心がそのままが出ることはない。あんまし前世の自覚がない時に、婆様に死ぬほど怒られて矯正されたんだよ……。


「リーネ姉さん!? 来ちゃダメだ!!」

「わあ!? カテリーネ様だっ、ダメ、ですっ! カテリーネ様を近づけちゃダメだって、言われているので……!」


 こっちに駆け寄ってきたと思ったら、ぎゅーっと力強く抱きしめられた。

 ジネーヴラ、君何してんの!?

 引き剥がそうにも、カテリーネの体は人を剥がせるほどの力はない。

 ちょ、胸が、やわ……えへ……い、いや、一応体は女同士だからいいのか……? じゃなくて!! 


「ジネーヴラ様、離してください。このままではいけません!」

「わ、分かってます、で、でもダメなんです!!」


 大怪我してないとは言ったが、劣勢ではないとは言っていない。

 戦況がジリ貧状態なのは見てすぐに分かった。しかもジネーヴラが抜けてるからもっとやばいことになってる。

 ちょっとちょっと、このまま死なれでもしたらこの後どーすんのって話なんだからな!

 俺が死ぬ分には問題ないけど、ヘルトくん達や村の人達が死ぬのは普通に気分悪いんだからさあ。

 ヘルトくん達が死んだ結果、皇帝をこのまま野放しにされんのも嫌だし。

 ヴァルムントの件もあったから、何があるんだか分からんし油断できねーんだよこちとら。


 しばらくジネーヴラと格闘をしていたが、ジネーヴラは意外と力あって全然離してくれない。

 いくらカテリーネの体が非力だからとはいえ、ジネーヴラは戦闘で疲れてるだろうしいけると思ったのに、なんじゃいなんじゃい!


 仕方ないなー、あんまりジネーヴラ相手に使いたくなかったけどやるしかないか。


「ごめんなさい、ジネーヴラ様」

「えっ、あっ、……あ゛あ゛む゛!?」


 オラァ! 不審者対策用の束縛魔法じゃい!

 黄色く光る縄がジネーヴラだけに巻き付いていき、口を封じた上で地面へと縫い付けをしていった。

 足止めに魔法使われたら困るし!

 ジネーヴラは魔法使いだからかかるかどうか不安なところあったけど、無事にかかってよかったあ〜。


「むむむ〜〜!!」


 転がるジネーヴラを置いて、黒龍の元へと駆けていく。

 その前に黒龍が『ブラックブレス』という範囲攻撃技を発動し、戦っていた全員が攻撃をモロに受けた上に暗闇と麻痺がかかったみたいだ。

 回復役であるルチェッテが頑張っているみたいだけど、全体状態異常回復って結構なレベルにならないと覚えないんじゃなかったっけ……?

 俺としては都合がいいから、1人1人回復してるのは助かるんだけどな!

 気合! 入れて! 行きます! 呪文!


「この身に流れる血潮よ、この身に宿る楔よ。眼前に立ちはだかる難敵を打ち砕かんが為、己が枷を結びつけよ。此は其となり、其は此と掬びとなる」


 血のように赤い光が俺の胸──心臓から生まれ、段々と大きくなっていく。


「……ヘルト! お願いっ!」

「リーネ姉さんっ!!」


 ルチェッテがヘルトくんの暗闇状態を治したみたいで、ヘルトくんが俺に向かってきてる。

 やだやだ、邪魔しないでくれ〜。黒龍さぁん、いっちょお願いしますよぉ〜。


 俺の願いが届いたのか黒龍が俺めがけて、その大きな爪の生えた右手で払う仕草を見せた。


「姉さん危ないッ!」


 ヘルトくんが割って入り込み、剣で爪を受けて鍔迫り合いをしている。

 やったぜ黒龍! ナイスプレイ!

 その間に俺はドンドン黒龍との差を詰めていった。

 なおヘルトくんが受けてなくても、一回だけ攻撃無効をかけてたから、攻撃されても問題はない。なお自傷には効かない仕様だ。


「互いの核を絡め、等しくせよ。果てるその時まで、悠久に同一となる」


 赤い光は溢れ出していき、黒龍の心臓に向かって伸びていく。

 その光に黒龍は『かつてされたこと』だと気がついたようで、大きな呻き声と共にブレスを溜めて俺めがけて吐こうとしている。


 だが、もう遅い。

 俺とお前は繋がったんだ。


 お前がどうしようとも、俺の悲願は達成されるんだ!!


 でもヘルトくんに被害が及ぶかもしれんから、お前のブレスは受けてやらん。


 目の前の黒龍に、満遍の、俺史上最高の笑顔を向ける。



「わたくし、最高に幸せです」



 魔力で光の刃を宙に創り出し。



 素早く俺の心臓へと突き立てた。



「ぁ、……ぉ、ご」

『グガギアアアアアアアアアアアア!!』


 血を吐き出す俺の呻き声は、黒龍の叫び声によって掻き消される。


 たかが人間1人の命。

 されど心臓と直結された一撃は、力を弱めるのには強い一撃だった。


 光の刃を突き立てたままの俺の体は地面に倒れ伏し、流れゆく血が辺りを紅く染めていく。


 やり終えた多幸感と、どうにもならない痛みで意識が霞む。

 でも、最後に、光の刃を消せば、終わりだ。


 ぼやけた視界の中で黒龍は痛みでのたうち回り、痛みを抑えようと丸まっている。

 俺の役割が果たされた結果なのだと思うと、ものすごく嬉しい。

 笑いたいけど、顔が動かない。だから内心でやってやる。


 はは、はははははははは!!

 俺は、俺の役割を、果たしてやった!!

 俺は何かをできる、人間だったんだ!!!


 眼から勝手に涙が落ちていく。

 痛みで出ているのか、嬉しさで出ているのか、もうわからない。


 ああ、十分に堪能できた。



 さよならだ!



 そうして俺は、蓋になっている刃を消した。



「カテリーネ様ッ!!」


 入口の方からヴァルムントの声が聞こえ、何かが何処かに当たって落ちる音が、最後に俺の耳に響いたモノだった。



 ◇



 もやもやとした光が舞う白い空間の中。


『カ……、……リーネ』


 俺と同じブロンドヘアーで、腰まである髪の毛を靡かせた白いワンピースで紅目の女性が、俺を見ている。


『カテリーネ』


 女性はしっかりとした足取りで、俺に近づいてきた。

 どうしてか動けない俺は、女性が徐々に近づいているのを見ることしかできない。

 やがて至近距離まで辿り着くと、女性は両腕をしっかりと広げてから俺を抱きしめる。


『カテリーネ。私は貴方の……』


 光が強くなっていく。

 言葉もそれに比例するかのように遠くなって聞こえにくくなり、俺たちは溢れた光に飲まれた。


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