表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/127

傍目八目

ちょっとした本編の続きです。


 ……なっ、なんか、うっかり、こっ、告白しちゃったし。

 ななななななんか、あの、えーっと、りょっ、両想いみたいな感じになったけど……。

 そっ、そもそもおれはさ! お兄様の名代として来た訳じゃん?


 だからさ~。ヴェルメの街中を見たり、他の働いている場所を見る必要があるんだよね。

 もっと「皆様のことを見に来ましたよ〜。皇帝はこの街を気にかけてますよ〜、うふふ~」って大体的にやらないとあかんのです。

 これがヴェルメじゃなくって、解放軍支持派の多い街だったら反発すごそうだけど。まぁ、それはおいておくとしてね。

 折角ここに来ているのに、行った場所が森だけなのもおかしいし。

 おれ自身もヴァルムントが治めてる街ってどういう雰囲気なのか見たいからさ。

 ほんっとうにそれだけ。

 それだけだったんだけど……。


 羞恥プレイか? おい?

 そうツッコミたくなるほど、周囲からの生ぬるい視線がヤバかった。


 騒動のあった翌朝。


「カテリーネ様! お支度の時間です〜!」


 朝ご飯を食べて部屋に戻ると、視察をするからとリージーさんをリーダーとした侍女さん達が、おれの支度をテキパキと始めた。

 清純さマシマシでフリル少なめ水色薄めなドレスを着せられ、まるで芸術品を作るかのごとく慎重な化粧をされ、シンプルだけど高そうな宝石がついてる耳飾りや髪飾りで飾り立てられ。

 昨日よりも丹念に丹念を重ねてるのは気のせいですか?

 支度が終わって姿見の前に誘導されたら、絶妙なバランスで飾り立てられたおれが鏡に映し出された。

 やっぱり気合いの入れ方すごくない? 一段と輝いて見えるんですけど……。


「お綺麗ですよ〜、カテリーネ様!」

「本当にお美しいです。ヴァルムント様も、きっと見惚れるはずですわ」


 ヴァルムントの名前が出され、おれの頬が瞬時に火照った。

 やっ、やめんか! ヴァルムントくんがそうじゃなかった時にショック受けるじゃん!!

 ……あっ、やっぱ今のナシ! ナシ!!

 おれはショック受けたりしな……、いや、やっぱ受けるわ。

 こんな完璧美少女を前に見惚れないだなんて、ありえないからな!!


「……そう、だと嬉しいです」

「絶対に大丈夫です。断言いたします」

「とても素敵です〜!」


 侍女さん達の頑張りでこうなったんだぜ、存分に見惚れてくれたまえヴァルムントくん!

 はーっはっはっはっはっ!!


 問題がないか最終チェックをされた後、リージーさんに先導されながら意気揚々と部屋を出る。

 残りの侍女さん達は、お片づけとか諸々をしてもらってるんだよね。

 部屋の外で待機していたゲオフさんとカールさんも連れて、ヴァルムント達が待っている玄関ホールへと歩いていく。

 リージーさんが扉を開けると、ホールの真ん中あたりでヴァルムントと家令の人が話しているのが見えた。他にも待機してる屋敷の人達がいる。

 おれ達が入ってくるのが分かると、ヴァルムント達は一礼をしてきた。


「お待たせいたしました、ヴァルムント様」

「いえ。我々も確認をしておりましたので、問題ございません」


 おれが入ってきた時から、言葉は出ずともホール内の雰囲気が色めき立つのを感じた。

 ふっふーん! そうだろう、そうだろう。

 ……で、ヴァルムントくん? 君はどうなんだいヘイヘイ!


 おれもヴァルムントも近寄って互いの距離を縮めると、ヴァルムントはジッとおれを見つめてから二、三度瞬きをする。

 口元を片手で覆い、斜め上を見てから視線をおれに戻した。

 よく見ると、顔がほんのりと赤い。


「カテリーネ様」

「はい、なんでしょうか」


 聞いてるのに口元を隠したまま固まっていて、一向に返事がこない。

 あまりの美しさに言葉も出ないってか〜?

 大成功じゃ〜ん、ありがとう侍女さん達! って、していられたのも数秒だけだった。

 ヴァルムントが手を下ろしてから、顔を赤らめたまま戸惑いがちに口を開く。


「あの……。……カテリーネ様。その笑顔は、私かディートリッヒ様の前だけにしていただけないでしょうか」

「え?」

「女性ならば問題ございませんが……。他の男性の前となると、いささか問題が起こるかと」


 今、なにを言われた?

 よ、よーし。一度整理をしよう。


 そのいち、その笑顔は自分とお兄様の前だけにしてくれよな!

 そのに、男性の前でその笑顔はまずいぜ!


 ……え、えーっと。

 えーっと……、……あっ!?


 急激に顔が熱くなって、目の前にいるヴァルムントよりも真っ赤になっているのが鏡を見なくても分かった。

 ヴァルムントくん、それ独占欲? ……独占欲!? 独占欲なのそれ!?

 微妙にお兄様入れてるのはなんなん。


 ……いや待て。

 そもそもおれ、そんな、そんなスマイルしてた!?

 おれ的には「ヴァルムントくん揶揄えるぜ〜、いえ〜!」って感じの笑顔してたつもりだったんですけど!?

 う、う、うああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 羞恥心で頭どうにかなる〜〜〜〜っ!!


 おれは思わず両手で顔を覆って俯いた。

 見えてないのに、この場にいる人達の視線が熱いのが分かる。

 き、消えたい。今すぐ透明人間になりたい……。


 そんな中でヴァルムントが空気を変えようとしたのか、大きな声で全員へ指示を飛ばした。


「では予定通りいくぞ」

「はっ!」


 一言で一気に空気が変わり、人々が歩き出した音が聞こえてくる。

 た、助かった。


「カテリーネ様、お手をよろしいでしょうか」

「……は、はい」


 永遠にこの姿勢のままいられないのも当然なので、おれは手を降ろして差し出されていたヴァルムントの手を取った。

 ヴァルムントのちょっと赤かった顔は普通の色に戻ってる。

 なんだいなんだい、おればっかり~。

 顔には出さないけどプンプンしながら屋敷を出たら、移動用に馬車が入り口につけてあった。

 おれの護衛の兵士さん達にヴァルムントの兵士さん達もいて、結構な人数が待機している。

 街中をこの人数でいくのか……。物々しすぎるぜ。


「こちらへどうぞ」

「ええ」


 ヴァルムントにエスコートされてキャビンへ乗り込むと、バシバシ感じていた視線が壁で遮られた。

 屋敷でお世話してくれた人達からの視線もやばかったけど、大勢いる護衛の人からもすごくてさぁ!

 全員が全員露骨にニコニコしてるし、視線が……バッチリおれとヴァルムントに向かってて……。

 そりゃ主人や貴賓を見てるのは当然だろうけどね!? 種類が違うのは分かるんだよ!

 も~~~! おれ恥ずかしさだけで爆発できるよ!!

 ヴァルムントくんは平気なのかどうなのか、割と無表情めだった。

 お前平気なの? さっきからなんなん?


「失礼いたします」


 うぎうぎしていると、今回はちゃんとリージーさんも乗り込んで俺の隣に座った。

 おれのお世話係だからね、隣にいないとね!?

 最後にヴァルムントが入ってから、御者へ合図を送り馬車が動いていく。

 ふ、二人っきりでなくて本当によかったぁ……。

 まだ何話していいのか分かんねーよ。


 昨日、おれは勢いで告白しちゃったじゃん。

 ヴァルムントくんだって、街へと帰る馬車内でおれを抱きしめたはいいものの、そこから言葉もなく固まっちゃったし。

 屋敷に着くまでそれよ!? それ!!

 ご飯の時も言葉が出なくて、ちょっとした会話だけで終わっちゃうしさぁ!?

 どういう会話が正解なのか思いつかなかったからマジで、うん。


 ……べ、別に、なんか、その、こう、抱きしめられた時に、手がおっきいんだなぁとか、体温高いなぁとか、雪山の時と感じ方が違うとか……。

 髪の毛サラサラだなぁとか、首筋の血管すごいなぁとか、喉仏までカッコよく見えてきたとか、なんか好きな匂いだなとか、そんな、そんなことおおおおおお思ってないんだからね!?

 ヴァルムントの懐にいると安心するとか、ドキドキするとか、う、うごごごごごご!!

 うわーん、思考が女の子になってる気がするよぉ……。


 結局最初の目的地に着くまで、おれはずっと頭の中をぐるぐるとさせていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ