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5話


 暗い洞窟の中を俺の光魔法で照らしながら歩いていく。この中は眠っているとはいえ黒龍の影響があるのか、魔物は一切出ない。

 弱い動物や虫とかは構わずいるんだけれども。逆に安全だもんな。


「わたくしからも質問よろしいでしょうか?」

「うんうん、勿論! オレのことならいくらでも聞いて〜」

「セベリアノ! あんたのことはいいでしょ!」


 嘘八百のことしか喋らなそー。

 ともかく、こっちの事情を聞かれまくった分、こっちからも聞かないと色々不自然というもの。

 大体知ってるけど、アンタらの事情を聞かせてもらいましょーねー!


「ヘルトくんは今までどちらに行っていたのですか?」

「え、えーっと、僕は……。村を出てからルチェッテと出会って、その、魔物と戦って……」


 ゲームの始まりでヘルトくんは村の外はどういうものなのかを見てみたくなって、ちょっとした冒険のつもりで村から出ていく。

 ラドじいさんがもうこれ以上皇帝の騒ぎに巻き込まれるのはごめんだ、って思ってたから村から出るなよ! してたんだけどな〜。

 そして出た先で、魔物に襲われているルチェッテと出会い助けたところから、ちょっとした冒険が戦争への道を辿ることになるっていう。


「そうそう! ヘルトは強いからさ、色々と対魔物を手伝ってもらってたら結構経っちゃって。それで久々に故郷に帰りたいって言うから、オレらもついてきたんだよね〜」


 セベリアノお前、本当にナチュラルな顔して嘘つくねえ。

 だからこその軍師なんだろうけどさ。


 当たり前だけど、真実はぜーんぜん違う。


 ルチェッテがお礼にと我が家へと招待しようと街に戻っているところ、町長が皇帝の命令に逆らったからだ〜! なんていうとってつけた命題で、皇帝からの命で新しく紅翼将軍になっていたファイクリングにより街は火の海。

 皇帝からそんな命ないんだけどね!

 ルチェッテが「街が……家が……」と呆然としていると、セベリアノとナッハバール率いる解放軍が色々と助けに回っていて、2人は保護された。

 幸いルチェッテの両親は生き残っていたけれど、街は焼け野原。

 なんて非道なことを……! と2人は無理を通して解放軍に入り、紅翼将軍の討伐隊の一員として働くことに。


 んで、なんやかんやあって紅翼将軍と対峙して、ヘルトくんが「なんでお前がお父さんの形見の紋章を使ってるんだ!!」って怒って実質の身バレをし、真の紅翼将軍として〜みたいな流れで旗本になった。

 ファイクリングが邪智暴虐だったのと、元紅翼将軍のヘルトくんの父親が民衆に愛されていたからこそである。

 そしてここにくるまでに、イロモノな黄翼将軍(なお本人は勝手に金翼将軍を名乗ってた)も倒してるはずだ。


 と、ここまでが本来のゲームストーリー。

 ……なんかヴァルムントがここに来てるから、ちゃんとゲーム通りになってるか不安になってきたぞ。


「そうでしたか。平和を守って下さりありがとうございます。……あの幼かったヘルトくんが立派に戦っているのは、とても誇らしいです」

「り、リーネ姉さん……」


 あらぁ〜! 顔真っ赤にして可愛いねえ!!

 実際ね! マジで幼いヘルトくん知ってるからね!!

 「ねーちゃ、ねーちゃ」って着いてきてさぁ! あぁ〜滅茶苦茶かわゆかったよヘルトきゅん……。

 あっ、違う、違います、ショタコンじゃないです許して。可愛いヘルトきゅんがいけないんだ。

 ……ごほん。

 ほぼ赤ちゃんから少年へ、少年から青年へと変化していくヘルトくんを見るのは、感慨深いものがあるってんですよ。


「このままヘルトくんが毅然たる姿勢を崩さずに、貴方らしく生きることをわたくしは願っています」

「……っ、う、うん! 僕、頑張るから。だからリーネ姉さんも、自由に生きて幸せになってほしい」


 自由、自由かあ。

 確かにこの村から出られないとか不便なところはあったけど、このお役目を全うしたいからな。なくていいです、はい。


「わたくしは巫女としてこの上ない幸せを享受しています。これ以上を求めるのは、強欲になります」

「かて、カテリーネ様は、無欲なお方なのですね……」

「いいえ、ジネーヴラ様。わたくしほど欲深い者はおりません。だからこそ、『これ以上』を求めないのです」


 最高地点が見えてるのにそれ以上を求めてどーすんのよって話。……死んだ後幽霊にでもなるんだったら、その先はあるかもしれないけども。

 そもそも幽霊になるかどうかなんて分からんしな!


「カテリーネ、お前……」

「何も仰らないでください、ラドおじさま」


 俺がちっちゃい頃、ラド爺さんに色々わがまま言ってたの思い出してんだろうけど、見逃して頼むから。

 あれはあれで黒歴史だからさあ。マジ食への探究が止まらなくて……。

 味噌! 醤油! みりん! 日本のお酢! 和風だし! どぼじでないの!!

 作り方なんて俺しらないよぉ……。ゴクトーという実質日本みたいな国にならあるけど、めっちゃ遠すぎるのでこの村までくることはない。

 金稼ぎ手段である貿易で買えるくらいだったっけか……?

 日本食に恋焦がれていると、目的地へと辿り着いた。


「みなさま、あちらが黒龍様の祭壇です」


 祭壇っていっても、ド本命はその更に奥にあるからそこまで大したものじゃない。

 石で彫刻された黒龍が飾られていて、その前にお供物を置く台座、脇にそれっぽい柱とかがあるくらいだ。

 もう婆様が先に来たから、台座にはお供物が置いてある。

 見学しにきた人達は大体肩透かしくらうから、毎回可哀想って思っちゃうんだよなー。すまんな、これが現実だ。


「あー、うん。石像が、なかなかすげえんじゃねーか……?」


 ナッハバールが言葉に困ってて笑う。だよなあ、そういう感想になるよな。しょっぺーもん。

 セベリアノは興味深そうな振りして、あっちこっち動き回って周囲を探ってる。

 裏の入り口見つけたいんですね分かります。そこの石像の後ろやぞ、おーい。

 そして終始眠そうだったジネーヴラが、なんでか覚醒して目を輝かせている。


「す、すごい石像……! こ、これ、どれくらい時間をかけて制作されたんでしょうか!?」

「ええっと、申し訳ございません。その辺りについてはわたくしも教えられておらず……」

「カミッラなら知ってるだろう。……カミッラはどうしたんだ?」

「婆様は今後のお供えに必要な物を取りに行っています」


 本当はその奥で儀式の準備してんだけど、一般に知られちゃいけないからこう言う。

 どの道ご一行は来ることになるが、それとこれとは別。

 ヘルトくんとルチェッテはこそこそ話し合ってて、大体の確認を終えたセベリアノが加わってこそこそ話を続けてた。

 入り口見つけたよ〜ってやってるんだろうな。

 ラド爺さんはずっと祭壇が一望できる位置に突っ立ってた。


「みなさま。黒龍様に祈りを捧げます故、ラドおじさまのところへご移動下さい」

「はーい」


 皆はぞろぞろと移動をしていき、俺は石像の前で膝を突き祈りのポーズを取る。

 あんまし覚えてないけど、ゲームではここで神秘的なムービーが流れる。ちなみに無駄になげーから毎回スキップしてた。


「我らが黒龍よ、今日も此の帝国に安寧の日々をお与え下さい。わたくしは今日も、至高たる御身に身も心も捧げると誓います。我らに福音を、我らに幸福を、我らに日々の糧を、我らに光を。永久に帝国が無辜の民を守護できるよう、我らに力をお与え下さい」


 しかしこの祈りの言葉、身勝手にも程がある。

 確かに黒龍は暴れ回って迷惑かけたけど、人間のせいで封印されてんのに色々願われてるしさ、巫女1人の心体だけでどーにかなる範囲じゃねーからこれ。

 ……ってアレか、巫女生贄にしますよ〜ってコトか。今更気がついたわ〜。


 いつもの通り魔力を注ぐと、周りの柱が魔力に反応して光った。

 光るだけで何も効果はない。演出です! 演出!!

 おかげで後ろの方から感嘆の声が上がってる。雰囲気はできてるようで何よりだよ、うん。


 祈ったままの姿勢を数十秒ほど維持してから、立ち上がって後ろの御一行に言葉を告げる。


「これよりわたくしは滝行を行いますが、先に戻られますか? 帰り道が分からない場合は待機していただくことになりますが……」

「わしが分かる。カテリーネ、お前こそ1人で大丈夫か?」

「はい、滝近くの小屋には魔物避けが常備しております。問題ございません」


 あと俺自身そこそこ魔法使えるようにしてるから、不埒な連中はこれでどうにかできる。

 ニコッと微笑むと、ラドじいさんは俺に近づいてきて頭をわしゃわしゃ撫でてきた。ちょっと照れくさい。


「覗き、しなくていいのかな〜ヘルトく〜ん?」

「セベリアノっ!? しないよ!!」


 折角セベリアノがこしょこしょ声で言ってたのに、大きく返事しちゃってまあ。

 覗きイベ? ゲームでありましたとも。プレイヤーの選択肢次第でセベリアノの提案に乗れる。まー、一枚絵があるだけだけど。

 でもこのヘルトくんはやらない選択肢をとったみたいだ。純朴少年いいねえいいねえ。


 心でニチャニチャしながら、みんなと洞窟を出ていく。

 そうして俺は滝行、みんなは村へと帰っていった。


 婆様いないから別に滝行はしなくてもいいんだが、最後だし? 気持ち的にお清めもしたいからちゃんと禊をするって決めた。

 小屋で禊用のうっすい服に着替えてから滝に向かう。

 ヨーロッパ風舞台のゲームなのに滝行とかあるのってさ、日本製だからだよなあ。滝行って日本独特のじゃなかったっけ。


 そんなことを思いながら、とにかく滝に打たれる。

 これが最後の滝行……。寒かったけど最後ってなるとなーんか寂しくなるな?

 あ〜でもやっぱさっびい! こんなのルーティンに含めたの頭おかしい!!


 必要な時間まで滝行をしてから出ていく。

 風吹いてる時が一番辛い。マジで冷える。


『ギュウオオアーー!』


 体を震わせながら小屋へと向かってたら、急に魔物の断末魔が場に響く。

 びっくりして聞こえてきた方向に顔を向けると、道外れの林中にどっかいってたはずのヴァルムントがいて、猿型魔物を斬り伏せて剣についた血を振り払っているとこだった。

 お前何処行ったんだと思ってたら、俺のことつけてたの?


「ヴァ、ヴァルムント様……?」

「ご無事ですか、カテリーネさ、ま……」


 魔物を見下してからこちらへと近寄ってきたヴァルムントだったが、俺に視線を向けた途端に言葉を途切れさせてカッチンコッチンに固まってしまう。

 2、3秒そのままだったかと思うと、ヴァルムントはその真っ白な肌を瞬時に真っ赤にさせ、軍仕込みっぽい綺麗な回れ右を披露した。


「もっ、申し訳ございません! 言い訳はしません、如何様な処分もお受けいたします!」


 俺の薄着でスケスケBODYを見て真っ赤になったみたいだ。ちな胸は一般的なサイズとだけ言っておく。

 男だった頃は浪漫ある巨乳に憧れたもんだけど、女性になった今は男にモテたいわけでもないし、このサイズでも色々面倒で邪魔や……。


 しかしお前も純情ボーイなんかーい! お前がスチル回収するんかーい!

 ヘルトくんの対存在みたいなもんだし、さぞおモテになっているだろうし、普通に女性慣れしてると思ってたんだが!?

 ああ〜俺の揶揄いたい衝動がニョキニョキしてくる〜。


「ヴァルムント様はわたくしを守ろうと、貴重なお時間を割いてこちらにいらしたのでしょう? わたくしは怒りません。貴方様の御心遣いに、感謝をいたします」

「い、いえ! 魔物避けでカテリーネ様のところには行かないと分かっていたはずなのに、冷静になれなかった私が悪いのです。女性の……か、かよ、かような姿を視界に入れるなど、風上に置けぬ行為……!」


 テンパリすぎてて笑う。大正男子かよ、通常時のクールなお前どこいったん?

 まだ顔赤いままだし。ヘルトくんより赤くないか?

 すりすりとヴァルムントに近寄って行って、その顔をよく見ようとする。


「ヴァルムント様……。どうか、わたくしにしっかりとお顔を拝見しながらのお礼を言わせてください」

「さっ、先に、お着替えを……!」


 俺とは反対方向に勢いよく体を向けてしまった。

 ちえー。これ以上は無理か……。

 分かりましたと返事をして引き下がり、俺は滝横の小屋へと向かって着替えに行ったのだった。


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