幕間
軽く済ませるはずの話が長くなってしまったので、別話としてあげます。
本当に次の更新は14日です……。
おれさぁ、単純に精霊に攫われただけだと思ってたんだわ。
だから出来心で、ヴァルムントくんを揶揄いに揶揄ってたんだよ。
も〜真っ赤of真っ赤になっててウケたし、追撃してやったらもっと赤くなったし、トドメ刺したらさ、体から湯気でも出るんじゃないかってくらいになった。
普通に寒かったのもあって、単純に暖取りとしても助かったけど。
しかも屋敷から出たらさ、あのトラシク1で仲間になる上級魔術師のブレンがいたのにはびっくりしたわ!
最初は分かってなかったんだけど、紹介されて思い出した。
触れ込み的には魔術師として強いはずなのに、システム面で不憫なことになって平民ジネーヴラより弱いブレンさん……。
そのブレンからキスしなかったの? って何故か言われたけど、さ、さ、流石に!? それはハードルが高いわよ!?
確かにヴァルムントくんにやってやったら、とんでもなく面白いことになるだろうけどさぁ!
おおおおおおおおれは、おれは、そ、そんなつもりはないし? 揶揄うのが楽しいだけだし?
ま、まあ、揶揄い甲斐があるヴァルムントくん最高ってことで……。
なんて呑気にしてたんだけど、全くそんな状況じゃなかった。
知らないうちに尋常でない被害が起こっててガチビビりしたし、キレた。
その時被害状況を全部知った訳じゃないけど、母親が使ってた宮が雪まみれで? カールさんが奮闘してて? ゲオフさんにリージーさんが巻き込まれてて酷い凍傷を負ってて?
おれを助ける為にヘルトくんが滅茶苦茶に頑張ってて? おれを早く助けなきゃと、宮の一部を破壊しちゃってて? 雪の処理に人員がかなり割かれてて?
はぁああああああああ!?
オイコラオイふざけんじゃねーぞって気持ちでいっぱいになった。
ゲームの記憶はカスになってきてるけど、絶対にそんな進行じゃなかった!
あったらブレンみたいに「これかぁ!」って思い出してる。
だからめっちゃ精霊に対して怒ったんだよ。
あ、精霊はちゃんとした言葉を喋ってるんじゃないんだけど、テレパシー的な何かで意思を伝えてきてた。
ヴァルムントはともかくとして、魔術師のお二人には聞こえてなかったみたいだから、多分皇族の力かなんかで聞こえたんだと思う。
それがも〜本当に「子供かっ!」ってやつでさあ。
好き! 好き! 魔力好き! 魔力、欲しい! 魔力! お前の好き! 構って! 好き! 魔力! お前の!
みたいなのを、ず〜〜〜〜〜〜〜〜っと訴えてきてたんだよ。
う、うるせえ……。ってなるのも当たり前じゃん。
しかも頭の中でガンガン響いてくるんだぜ? キッツ! ってなるでしょ。
それもあって怒っちゃった。精霊がやべーやつだって分かってたけどね……うん。
ここで怒るなってのが無理な話だよ。
特に悪いことをしていない人が被害被るのはさ、フィクションだけでいいんだって。
なーんも分からんけど、皇族のよー分からん力が入ってる魔力に惹かれたんじゃねーかなって、勝手に推察して精霊との取引時にお兄様を引き合いに出した。
お兄様も丸く収まるなら許してくれる……はず。
妹に甘々お兄ちゃんだけど、政治とかこういうのまで甘くはないとは思うけどさ。
ま、まあ大丈夫でしょ。……大丈夫でしょ、うん。メイビー。
精霊に魔力捧げる時、ヴァルムントくんを揶揄いたい気持ちがなかったとは言わない。
けどマジのマジでガス欠なところから魔力を捻出したから、集めるのが精一杯で放出するのがキツかったんだよ。
多少回復したとか言ったけど、あれは嘘です。
だっておれだけなんもしないの、仕事してないみたいじゃん……。
その辺誤魔化す為に、呪いで繋がってるのを利用して送ったんだわ。
距離が近ければ近いほど楽だったんよ。
精霊も喜んでたし、まぁまぁそういうことで。
下山したらしたで、お兄ちゃまの歓喜具合が凄すぎて流石に引いちゃった。
もの凄く心配してるだろうとは思ってたけど、何もそこまでキャラ崩壊せんでも。
実際心配させたことには変わりないから、もう好きなようにさせてあげましたけどね〜。
ごめんよ〜お兄ちゃん。よちよち。
しかしこのシスコン具合どうにかならんか? 色々心配なんだわ。
諸問題も絡むとはいえ、この人結婚できるのか怪しすぎる。
普通なら政略結婚やらするんだろうけど、これから先どうなるか分からんからなぁ。
皇族の血、繋いでおかないと面倒そうじゃないか?
王都に帰ってからは、真っ先にゲオフさんとリージーさんのお見舞いに病室へ行った。
見舞いに行く前に休めって言われたし、おれも休んだ方がいいのは理解してたんだけど、心配なものは心配でさ。
馬車の中でも休んだし、気になって眠れないし……と説得をして、お見舞いに行かせてもらった。
勿論、帰った途端にすぐおれ達の元にきたカールさんを護衛に連れてな!
2人とも治療魔法を受けたので凍傷から回復はしてたけど、数日しっかり休まないといけない。
ゲオフさんからはすぐに職務に戻れないし、当番だったのに守ることができなかったと死ぬほど謝られた上に、カールさんはカールさんでMVP級の活躍をしたのに気負いすぎてて「アカン……」ってこっちがなった。
逆にリージーさんは男2人より強く、「すぐ復帰してまたお役に立ちます〜」とニコニコで言ってきたのだ。
リージーさん、割り切りがはやぁい。あれはもう不可抗力だもんねぇ。
おれの護衛とかについては、しばらくは臨時の人も含めて回していくのが決まったんだし、リージーさんみたく割り切って欲しいぜ……。
責任感が強いのはいいんだけどね。
いや、ヴァルムントの部下だからこそ責任感の塊なのかも。似たような人が集まるって言うじゃん。
医務室に来たからってことで、待機してくれていたブラッツさんに診察されてから医務室を出た。
今のところ問題はなさそうだけれど、ちゃんと違和感や病状が現れたら申告するようにって念押しされまくった……。
ちゃんと言いますって! おれもこれ以上体をボロボロにはしたくない!
それと! 医務室出た時にヘルトくんと会った!!
ヘルトくんの後ろにはラドじいさんもいて、おれ達を見守ってくれてる。
「リーネ姉さん! ……無事でよかった。僕、ずっと心配で……!」
「ヘルトくん……。ラドおじさまも、心配をかけてごめんなさい。わたくしはこの通り、皆様のお陰で無事に帰れました」
ヴァルムントに勝つまで会わない! って、まあ可愛らしい誓いを立ててたんだけど、今回の騒動で心配が勝った結果、おれと会ってくれる気になったんだよ~。
それと治療に奔走しててくたびれ切ったルチェッテを回収しにきたらしい。
どっかのソファで休んでるって聞いたけど、見てないな……。
至るところに人がいたから分からんかった……。
ヘルトきゅん、結果的に無駄骨になっちゃったとはいえ、おれのことを救おうとめ〜っちゃ頑張ってくれてたってヴァルムントから聞いたからさ、労ってあげたいなーって思ってたんだ。
ラドじいさんも人力除雪を頑張っていたらしい。
ラドじいさんとは再会のハグをして、その筋肉をしっかり堪能する。
「ラドおじさま……。わたくしは大丈夫です。ブラッツ先生にも、きちんとみていただきました」
「この後が心配だ。体を温かくして、体調を悪くせんように気をつけるんだぞ」
「はい、おじさま」
ぬくもりと筋肉に名残惜しさを感じつつもラドじいさんから離れて、ヘルトくんと向き合った。
「ヘルトくん、わたくしの為に動いてくれたのだと伺いました。本当に、ありがとうございました」
「ううん、僕は全然……。まだまだ」
そう言うヘルトくんの手を取って、やさーしく握りしめる。
剣ダコが沢山出来ているから、思ったよりもゴツゴツとした手で……フフ、興奮しちゃうなぁ。
これが少年から大人になってる手! あらまあ〜〜〜!! と、近所のおばさん化した。
おれの癒しのヘルトきゅんが成長してるのは嬉しいけどちょっと辛い!
でも大人になっていくヘルトきゅんも素敵なんだよ〜〜!!
その過程を! おれは見たいんだよ!!
「わたくし、ヘルトくんと会えないのは寂しいです……。また、会っていただけますか?」
「う、うん! 僕、僕は……もっと頑張るから!」
握ってた手をぎゅーっとされながら言われた。
ヴァルムントに勝つこと……、でいいんだよな?
若干疑問に思いながら、その場は解散となった。
……そのヴァルムントなんだけれども。
ドタバタがあってから数日後、中庭にいたらヴァルムントを見かけて揶揄ってやろうと呼んだその時。
おれは、ヴァルムントの慈しむような笑顔に敗北した。
いや、嘘、してない。断じてしてない。うん。ワタシ、ウソつかないアルネ。
アアアアアアアアイツ、アイツ、笑ったことあったか?
ねえちょっと、おれ初めて見たんですけど?
ものすんごい動揺しながらも、なんとかその場をやり過ごしてヴァルムントが去った後、真っ先にカールさんへと顔を向けた。
ヴァルムントが笑ったことについて聞こうとしたら、カールさんの目が点になってたのに内心笑ったのは内緒な。
「あの……、ヴァルムント様はあのように微笑む方でしたか?」
「い、いえ。ヴァルムント様と出会って10年と少しになりますが、うっすらと笑うことはあっても、あのように笑うのは初めて見ました」
めっちゃ動揺してるのか、素に戻ってて関西弁もどきモードじゃない。
カールさんは任務受けたりとか、茶化したらいけない場面だと素の真面目さを見せるんだけど、基本は関西弁モードだ。
『都合がいい』から、関西弁……もといハッフェーン訛りにしてるらしい。
「あ、……ごほん。……ヴァルムント様はそりゃ笑わんことで有名でして。一度、ヴァルムント様笑わせたら賞金やー! 言うて皆で賭けをしたんです〜。主催ディートリッヒ様で」
「お兄様……」
「ま〜誰も笑わすことできんくて、結局賭けにならんかったんです。でも、ディートリッヒ様のお陰でみ〜んな馬鹿騒ぎできたんですわ」
懐かしそうに笑うカールさんを見て、本当に楽しかったんだろうなってのが分かった。
そういうところが慕われてるんだなぁ、お兄様。
「そんなワケで、ボクらはヴァルムント様の幼い頃がどうだったかは分からへんので、ディートリッヒ様に伺ってみるのがいいかと思います〜」
「……分かりました、ありがとうございます」
……お兄様なぁ。
今、過保護が爆発してんだよね。
そらね、大事に大事にしてる妹がいなくなったら、また次があるんじゃないか〜って情緒不安定になるのは分かるよ?
だからっておれの一時的な部屋を貴賓室とかじゃなくて、皇子として使ってた時の部屋を使わせるのはどーなん。
お兄ちゃま、今は皇帝の部屋に移ってはいるんだけど、急いで移動したから色々な私物っぽいものとか残ってるよ……?
妹に見られてマズいもんとかあるんじゃないの、エロ本とかエロ本とかエロ本とか。
たとえ隠されていようとも! 探し出したいと思うのが人間ってものでしょ!!
って思って考えつく隠し場所を探しまくったけど、面白いものはなかった。
帝王学とかいわれる類の難しい本ばっかりで、悲しい……。
娯楽っぽいものも全然なかったし、男ならエッチなものの一つや二つあるでしょ!?
……流石に妹に見つかるのはマズいからって、おれが入る前に持っていっただけかも。
お兄ちゃま……、おれは理解ある妹だよ……。
見られるの恥ずかしいのは分かるけど、おれは大丈夫だからさ、ほら。
と、まあおふざけは置いておいて、今後の身の振り方とか一回ちゃんと話とかないと駄目かなあ。
今って、殆どお兄様にお世話されてるようなもんじゃん?
お兄様のお荷物でいたくはないから、もーちょいどうにかしたいんだよな。
無理言って治療に携わらせてもらってるけど、苦肉の策って感じが拭えない……。
一応役に立ってるっちゃ立ってるよ? 重症の人を早めに治療できてるし。
でもなあ、お貴族様の気まぐれっぽさをすごく感じる。
周りは優しい。優しすぎて逆にアレって話。
絶対おれとか周りに対して不満持ってる人はいるんだけど、当然遠ざけられてる。
たまにそういう不満持ちの人が担ぎ込まれることはある。
でも、おれは痛みからパッと解放してくれる存在じゃん。
感謝して文句を言うに言えなくなるし、そもそもおれのすぐ隣には目を光らせてる人がいるし。
まあ? おれの美少女パゥワ〜で黙らせてる可能性はなくはないと思うけど? ……はい、調子こきました。
てか、こうなりたくなかったからヴァルムントくんに責任……、なんでもない。
はぁ……。やっぱお兄様をこれ以上煩わせなくないから、黙っておこ。
精霊事件があったばっかだし、変に動くとお兄様が発狂しかねない。
大人しくはしておくけど、ヴァルムントくんの弱味握りたい気持ちはあるから、いっちょお兄様に昔のヴァルムントについて聞くか〜!!
◆
「昔のヴァルについて?」
「はい。昔のヴァルムント様については、お兄様に伺うのが良いとカールさんから聞いたのです」
夕飯が終わって風呂入ってちょっとしてから、お兄様がおれのところへ来て、今は2人で同じソファに座ってる。
……元々隈が酷かったけど、更に酷くなってない?
おれのせいだよなぁ……。美形が台無しになっている。
ここに来ないで休んで欲しいんだけど、言っても悲しむだけだ。どうしたものか。
お兄様は体を背もたれに預け、だらんとしながら上を向いて思い返している。
「……昔のヴァルなぁ。もったいねえヤツだったよ」
「もったいない?」
「そ。アイツが歴史好きなの知ってるか?」
「はい、趣味は歴史書を読むことだとは」
前、謎に様子のおかしいゲオフさんから聞いたわ。
すごーい棒読みでヴァルムントのことを列挙してくるから何事かと思ったよね。辛いのが好きなのもこの時に知った。
結局、交代で来たカールさんに引っ張られてどっか行ってしまって、なんでそんなことしたのか聞けないまま終わったんだけど。
馬鹿みたいに堅物な人だから、おれやヴァルムントのことを揶揄ったりする人じゃないし、何か巻き込まれた末のって感じじゃねえかな。
「俺と出会って間もない頃のヴァルはなー、能力があるのは誰の目から見ても明らかだったのに、歴史書を読んでいたいだの抜かして鍛錬に乗り気じゃなかったんだよ」
「ヴァルムント様が、ですか……?」
「あー、アイツ生真面目だし、鍛錬自体はちゃんとやってたぞ? ただ熱意が足りてなかったんだよな〜。父親のヴィルヘルムも、その辺困ってたんだ。……そうそう! 想像できないかもしれないが、ヴァルも昔はそこそこ笑ってたんだぞ〜」
肘掛けにもたれて頬杖をついたお兄様は、目を閉じて思い出に浸っていた。
そうして一つため息をついた後、自由な方の手を目元に乗せて寂しげな声を出す。
「こうして昔を思い出すと、今更無理な話なのは分かっていても願っちまうな。最初からお前がいて、ヴァルがいて。母上や、ヴィルヘルムにライノア、他の者も生きてたら……ってな。そしたらきっと、ヘルトととも早く出会って仲良くなれてたはずだ。平和に……、過ごせていたかもしれない」
「……お兄様」
皇帝によってお兄様もヴァルムントも、母親やヘルトくんも人生を狂わされた。
それがなかったら、きっと今でもおれ達の母親に、ヴァルムントやヘルトくんの父親は生きていて、おれ達のことを見守ってくれていたはずだ。
お兄様がこんなに苦労をすることもなかっただろう。
弱気になっているお兄様に寄り添おうと、お兄様との距離を詰めて体を寄せて抱きつきにいく。
ディートリッヒという人間として甘えられる人がいなさそうだし、おれが少しでも癒してあげようじゃないか!
ハグにはストレス解消の効果がどーたらこーたらみたいなのあったよな……? あ、あったはず。
溺愛する妹から抱きつかれて、嫌だとは思わないだろうし。
「ごめんなさいお兄様。今は何も考えなくていいです。わたくしと一緒に、過ごしていただけると嬉しいです」
「いや、過去に浸って違うことを言い出した俺が悪いんだ。カテリーネは気にしなくていい。……ありがとうな」
お兄様は片手を俺の背中に回し、抱きしめ返してくる。
うおー、お兄様あったけえ……。おれの体冷えやすいから助かる~って思っているうちに、ゆっくりとした呼吸の音──寝息が聞こえてきた。
ね、……寝てる? 寝てるの? この体勢キツくないお兄様? 腕絶対に痺れると思うんだけど。
寝るのは大いに良いが、ここで寝ないでくれー!
絶対に明日、腕が死ぬからさあ!!
「お、お兄様。せめてあちらのベッドへ」
「……ん、」
かなりおねむなお兄様を、押して押して押してベッドへと導いた。
ばたりとベッドに伏せたお兄様の靴を脱がせて毛布を掛けてやって〜……って、おれはかーちゃんか。
……まあ、お兄様は皇子ってやつなんだし、こんな風になるのは許されてなかったのかも。
おれの勝手な想像だけど、なんだか寂しくなって、しばらく眠ってるお兄様の頭を撫で続けた。
……おれの寝床どうしよう。外にいる人に相談しよ……。




