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4話


 なーんか主人公たちと一悶着やらかしてきたらしい。


 俺は家の中で家事とか掃除とか日課をやっていたんだけど、ヴァルムントはご飯を食べた後に家から出て行った。

 んで少ししたら外がザワザワしてたから、多分ヴァルムントと主人公一行がぶつかったか何かしたっぽい。

 家に戻ってきたヴァルムント、出て行った時はそこまで汚れてなかったのに若干汚れてる。ただ怪我はしてねーんだよな。


「ヴァルムント様、いかがなさいましたか?」

「少々話し合いをしまして」

「そう、ですか」


 ぜってーちげーのが分かる。話し合い=ぶつかり合いだろ!?

 でも俺はお清楚巫女なのでちょっと不審には思うけど、納得をしておくんだぜ!


「……カテリーネ様は普段、何をなさっているのですか」

「わたくしですか? わたくしは日々黒龍様に感謝をし、清貧であるように心がけております。恥ずかしながら、その境地には至れておりませんが……」


 訳:特に何もしていません。

 実はこっそり料理本を読み漁ってるとか、こっそり狩猟について話を聞いているとか、こっそり川での魚の取り方を聞いてみたりとか、薬味として使える草を聞いたりとかしていないんだからね!!

 ……だって、メシマズなのは耐えられねーんだもん。


 とはいえ俺の答えに、ヴァルムントは顔へ影を落とした。巫女ってそういうもんじゃねーの? 気にすんなよ。


「貴方は、それで良いのですか」

「はい。わたくしは巫女として、役割を全ういたします」


 それが俺がこうしている意味だからな。ヴァルムントにはお清楚巫女スマイルしておく。

 てかこの問い二回目じゃねーか? 邪魔すんなよの釘刺しとこ。


「儀式を成功させることこそ、わたくしの人生であり、悲願です。ヴァルムント様、どうぞ無事成功するよう見守っていただけると幸いです」

「……ええ」


 に、煮え切らない返事だけど、一応返事をもらったってことでいいよな!? な!? 俺、こえーよ……。


 ◆


 日本にいた頃の俺だったら絶対起きていない時間に毎日起きている。

 大体5時起きとか正気か? って最初は思ったけど、慣れればどうってことはなかった。

 今日はヘルトくん達を祠に連れていく日で、ラド爺さんと約束した通りに家の前へご一行が待機している。

 ……ヴァルムント? なんか4時くらいにもう出かけてた。マジなんなん。

 婆様は先に祠へ行って、黒龍の眠るところで準備を始めてる。やるのは日付の変わる夜中だけど。

 ともかく、いつもの巫女服を着た状態で家から出た。


「ラドおじさま、皆様、おはようございます」

「ああ、おはようカテリーネ」


 挨拶をしてからちゃんと見たご一行は、ラド爺さんと生粋の戦士であるナッハバール以外眠そうだった。まーそりゃね、そうなるよね。

 特にジネーヴラはその特徴的なジト目が分からないほど瞼が閉じている。起きてんの?

 ファンの間では地味ーヴラだのジメーヴラだのジトーヴラだの言われてたけど、これじゃあネミーヴラじゃん。


「ジネーヴラ様、ご無理をなさらないで下さいね……?」

「……ふぁ、……ぁ、あ!? はいっ!」


 俺に声かけられたのだと理解した瞬間、猫が驚いた時に見せる動きをして退いた。そ、そんなに驚かなくても……。


「おいジネーヴラ、てめー無理だろ。寝とけよ」

「ナ、ナッハさんだめですよぉ。あたし、祭壇見たいんですから」


 後々来るはずなのに頑張るなあ。

 いや、この時点だと祠に再来するのは決まってないんだったっけ……? 流石に細かいところは忘れたわ。


「まあまあナッハ、ジネちゃんも頑張ってるんだからさ」

「それは知ってるがなあ」

「そうよナッハバール! ジネは頑張っているんだから」


 全体的にたるそうな感じのセベリアノと、目を一生懸命にかっぴらかせたルチェッテが擁護してる。二人ともジネーヴラほどじゃないけど眠そう。

 ナッハさんや、これが普通の反応ですぜ。


「みんな、リーネ姉さんを待たせちゃ駄目だよ」

「ごっ、ごめんヘルト」


 眠そう組の中では一番マシなヘルトくんが声をかける。この時間ほどじゃないけど、早起きはしてたもんなヘルトくん。

しっかし俺を優先させたことでルチェッテが少々ジェラってる。ふはは、愛いやつよのぉ。

 ルチェッテとヘルトくんとの出会いは、典型的な魔物に襲われてるところを助けられるってやつなんだけど、そこから最後の最後までついてくる恋心と胆力強すぎる。

 段々削れていくヘルトくんを支え続けていられるのはお前しかいないよ……。と後方腕組みおじさんしておく。


「それでは向かいましょうか」


 祭壇への道を歩いていく。

 当たり前なんだけど、道中には魔物が出現する。

 1人2人くらいだったら魔物避けの薬草でどうにかできるんだけど、こうも大人数だとそうもいかない。

 なので戦闘はご一行にお任せしますわ〜。


 ゲームだと一気に魔物が出てきてターン制での進行になるけど、ここは現実なのでそんなことにはならない。

 魔物はまばらに出てくるし、一々キャラも全力で倒したりしないで体力を温存してる。帰りがあるからねえ。

 ちなみに、この辺の魔物は獣型だ。


 でもゲームで覚えのあるモーションを使ったり、魔法を使ったりしてるのはめっちゃ興奮した。

 技や魔法を見てすげーニヤつきたかったんだけど、必死で抑えたよね!

 それとジネーヴラがサンダーストーム使ってたから、多分適正レベルあたりだと思うんだよな。


 だけれど、ルチェッテのある技には耐えられなかった。


「いけーっ! オウギセン!」


 スパァーン! という音と共に魔物が何処からともなく現れた『ハリセン』でぶっ叩かれて転がっていく。

 オウギセン。固定15ダメージ+混乱という、どうみてもネタにしか見えないガチ技。

 固定ダメージしょぼくね? って思うかもしれないが、固定なのが強いのだ。

 トラシクは部位破壊のあるSRPGだと言ったが、その部位破壊で主に使われていた。

 武器だったり属性だったり部位だったりで、破壊に至るまでのダメージ量が変化するのだが、オウギセンは固定なのでその影響を受けない。

 最初に使うとしょっぱい技なんだけど、後々これが響いてくるんだよなぁ。

 蛸足に加えてハリセンという要素で、時代が時代なら大阪イメージキャラとしてネットミームになってたと俺は思う。


 しっかしリアルで見るとシュールにも程がある。

 周りは『そういうもん』なのか誰も突っ込まないし、俺は一生懸命笑いを抑えて口を覆うしかできなかった。


「リーネ姉さん、大丈夫?」

「……大丈夫ですよ、ヘルトくん」


 戦闘が終わって一息ついた後に、目的へと歩きながらヘルトくんは何を勘違いしたのか俺を気遣ってくれた。

 すまん、俺は笑いを抑えているだけなんだ……。


「あの……。気分が紛れるか分からないけれど、これ。どう、かな」

「これはなんでしょうか?」


 ヘルトくんが懐から布袋を取り出し口を開けてから、俺の手を取り手のひらの上へと袋を振って中身を出した。


「コンペイトウって言って、砂糖菓子なんだ。姉さんこれなら食べることができるかなって……」


 金平糖!! 本当に金平糖じゃないか!!!

 ゲームではフレーバー的な感じの主要都市で買えるHP 10回復の金平糖!!

 砂糖とかは王都とかで大都市に行くのが普通で、滅多にこの村へと来ないから、村では蜂蜜とか果物とかが甘味料になってる。

 だからこの砂糖はマジのマジでカテリーネ史上初の砂糖になるのだ。

 でも、でもよぉ……。俺はカテリーネだから断るしかねーんだ。受け取るとかキャラじゃねえ。


「砂糖だなんて貴重なものを? わたくしではなく、ルチェッテ様やジネーヴラ様に」

「ううん、これはリーネ姉さんに買ってきたものだから……。心配させたお詫びに受け取って欲しいんだ」


 う、うおおおお! ちょいっと顔を赤くしてオズオズと言ってくるヘルトくん可愛いかよ……。

 俺ショタの気はねーんだけど、いや成長はしてるんだけど、それはそれとして可愛い。可愛いは正義。

 ルチェッテ、ほんまごめん。ジェラシー視線が飛んできているのは分かってるんだけど、俺はこの砂糖の誘惑に耐えられねえ!


「では、1つだけ頂きますね」

「う、うん……」


 困った顔をしつつも、ヘルトくんから差し出された砂糖をひとつまみして、味わう為に半分齧る。


 う、う、……美味え…………。

 久々のガツンとするこの甘み、堪らねえ……。

 これが純粋なる甘味の暴力! 半分だけでも舌の上で溶けて沁みてくるこの味!!

 もう半分も……う〜〜!! 溶けてなくならないで〜!! 俺の砂糖〜〜〜〜!!


 あっ、涙が。


「リーネ姉さん!?」

「だ、大丈夫ですかぁ?」

「……も、申し訳ございません。初めての味で驚いてしまったみたいです」


 咄嗟に涙を指先で拭いながら軽く微笑む。

 いや、マジでカテリーネの体としては初めての味だから、びっくりしたみたいだったわ。


「カテリーネさん、コンペイトウはもっと食べていいのよ? ヘルトもあなたの為に買ってきたんだし」


 さっきまで嫉妬全開だったルチェッテから気を使われてしまった。

 ち、違うんだよルチェッテ! 本当に驚いただけなんだって!


「いいえ、もう大丈夫です。ヘルトくんありがとう。とても美味しかったです」

「カテリーネ、ヘルトがお前の為に買ってきたんだぞ。そのまま受け取れ」

「ラドおじさま」


 頭にポンと手を置かれて、優しく撫でられる。わあ、すごい久しぶりにやられたわこれ。

 ラドじいさんは俺が巫女でも構わずこうやって接してくれたから、嬉しかったんだよな〜。

 ちょっと照れ臭くて頬が熱くなってきたわ。誤魔化す為にも頷いて袋をもらった。

 やべー、儀式までに食べ尽くしてやろ。


「ああそうだ! オレ、カテリーネさんに聞きたかったんだけどさ。どうして髪の毛で右目を隠してんの?」

「ちょっとセベリアノ! あんたねえ」

「いえ、疑問に思われるのも当然かと思われます」


 話題を変えようとしてその話題にするのかセベリアノさんや。俺は気にしてねーけど、もっと気まずくなるんだが?


「右目が不吉な眼をしております故、みなさまのお目に入らないようにしているのです」


 ゲームでは特に語られてなかったけど、オッドアイは不吉なものとして扱われているらしく、婆様から隠すようにと念入りに言われていた。

 俺はキャラエミュもあるし特に反発せず受け入れたけどさ、不吉でもなんでもねーんだよな。まーその辺はこの世界じゃ分からんだろうけども。


「え〜? オレはどっちも見えた方が素敵だと思うんだけどね」

「ぼ、僕もリーネ姉さんの眼はとても綺麗……だと、思ってるから!」


 へ、ヘルトきゅん……! 純朴少年たまらないねえ!!

 内心でハアハア変態になりつつも、儚げ笑顔で塗りつぶしていく。


「ちなみに何色だったりするの?」

「セベリアノ、いい加減にせい」

「ラドおじさま、大丈夫です。赤です、セベリアノ様」


 鏡でじっくり赤い眼を見るとマジ真っ赤でびびった。

 オッドアイは中二心くすぐられるから好きだけど、それはそれ。

 あ、赤目自体は普通の人にもいるから、そこは不吉でもなんでもない。

 それこそ目の前のセベリアノだってそうだし、他に仲間になる人にもいた……はず……。大筋に関係ないから覚えてねえや。


「俺とおんなじだねえ、ふーん……」

「何がふーんだ、セベてめえ」

「痛っ! や、やめてくれよナッハ〜!!」


 セベリアノはナッハバールに頭頂部への拳グリグリ攻撃をされていた。どんまい!

 そんな様子にふふッと笑いながら、手を前方へと向けて一行の注目を集める。


「みなさま、あちらが黒龍様の祠です」


 ただ自然に出来た洞窟の入り口にしか見えないけどな!


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