3
さああっびぃ! さぶい! 寒い!
寝巻きのままだから余計に冷えるわ!!
おれは今、氷みたいに青く光る材質でできた小さな一室に閉じ込められている。
小さいっていってもそこそこ造りが良さそうに見えるから、それなりの家っぽい? 家っていうか屋敷か。
扉はね〜、あるんだけどノブが回らんのよ。
意外と埃っぽくないしベッドに毛布はあるし、窓から見える猛吹雪な外にいるよりマシだけど、寒いもんは寒いんじゃあ!
周りの色もベッドと毛布以外青ばっかりでさ、余計に寒く感じちゃうんだよ。
食料とか見当たらないし、ずっといるのは厳しすぎる。
なんか真夜中にビカビカ光るのを感じて起きたらさ〜、部屋の中に青白く光る玉が浮いてたんだよ。
青信号が点滅する感じのやつね。
ベッドから体起こして光を「なぁにこれぇ」って、眠気と眩しさから細目で見てたんだけど、滅茶苦茶にびゃびゃびゃーっと青光りして何にも見えなくなったと思ったら、いつの間にかここのベッドに転がっていた。
しかもすんごいだるだるな体になってたし。
魔法使った後になるやつじゃん、これ。
ちゃんとごっそり魔力もなくなってる。
も〜なんなの、散々だよ……。
中庭で日向ぼっこしてたら高飛車エルフのアンゲリカにさ、臭いって言われるしさぁ。
おれは美少女として恥ずかしくない体を維持するのに体操を欠かしてないし、美少女として良い匂いを保っていたいから、体を洗う時はすげー気を使ってたし、村の植物に詳しい人から香り付けに良いのを聞いて付けるようにしてたし、王都に来てからは経済回す意味も含めて高級石鹸使ってたんだぜ!?
それを、おま、おまえ〜〜!!
しかもお兄ちゃまにも同じことを言っただとぉ!?
お兄ちゃまはお兄ちゃまで、スパイシ〜な大人のお兄さんって感じの匂いがしてるんだぞ!
そのたっかい鼻、実は詰まってんのか!? あぁん!?
結局、皇族のよう分からん力のことを言ってるんじゃないかって結論出たけど、は〜〜〜……。
周りがおれに遠慮して言ってこないだけかと焦ったわ。
ショック受けて呆然としてたら、丁度ヴァルムントくんが通りかかったからさ、つい聞いちゃったよね。
……怒りで思い出したんだけど、アンゲリカって高飛車被ってるだけのメンタルよわよわ疑惑なかったっけ?
いや、作中で明言されてないんだけど、そうなんじゃないかな〜って描写が複数あったような。
なんでメンタル壊滅的なのに高飛車被ってんだよって感じだけど。
だから二次創作とかで『クソ雑魚メンタル!アンゲリカちゃん』って感じのがあった。
ヘルトくんが完全に辛辣な介護役で、面白かった記憶がある。
アンゲリカ自体は、エルフという種族の為に頑張る人だったのは覚えてんだけどな。
てかあの~、あのあのあの~。
この誘拐ってトラシク2でのイベントじゃなかった……?
な~んで数年先に起こるイベントが今起こってるんです?
何が原因で起こったのはさっぱり覚えてないんだけど、王都近くにある年がら年中雪が積もっている山に住む精霊が、その時点で魔力が一番高い女性ユニットを誘拐していくのだ。
女性ユニットとの個別エンディングに行く為に必要なフラグのひとつで、魔力が低いユニットでも特別会話が発生する。
だから魔力が低くても、ドーピングアイテムとかで魔力を上げてイベントを見たりとかあったんだよなぁ……。
いろんなユニットで特別会話見てみたかったから、そこだけ覚えてる。
でもなんだっけ、進めるには攻略見ないと超めんどいことがあったような。
名作って言われてたけど、そこは擁護できなかった覚えがあるぞ!
そんで、ジネーヴラの台詞がとんちんかんだったことくらいしか覚えてない!!
普通に進めてたら大体ジネーヴラになるのに、どうしてその台詞にしたん? って思ったんだわ。内容覚えてないけど。
もう詳細ぼやぼやだよぉ~、おれの脳はそこまで優秀じゃないよぉ~。ぐええ。
重要なことは忘れてて、しょーもないことだけ覚えてんの嫌になってくるわ。
……てか、なんでおれが連れてこられたんだ。
おれが一番魔力高いってことになるなら、ジネーヴラよりも高いってコト?
ええ~、確かにそこそこ魔力の扱いには自信あるけど。
おれが一番、自分の力量分かってないっていうか。
村の中にはあんまり魔法使える人いなかったから比べようがないし。
王都にきてからはさ、おれ皇女じゃん? そらおべっか使うじゃん?
ホンマに〜? ってやつなんですよ。
でもこうして選ばれたってことは、おれは魔力高いって自信持っていいのかなあ。へへ。
って、そんな状況じゃねー!
おれ、囚われのヒロイン役になってるじゃん! おえー!
やだやだやめろやめろやめろ、おれはそんな柄じゃないんだが!?
確かにおれは美少女ではあるけれど、お姫様的な扱いにはなりたくねーんだよ……。
実際姫みたいなもんだろって? そ、そういう話ではなくてですね。
だからなんか、その、心臓繋がり的なやつでヴァルムント呼び寄せられないかな。
流石に繋がりビームを可視化するのは、精霊に見つかる可能性あるからできないし。
こう、運命的な何かを感じる……みたいな、引っかかり? 取っ掛かり? をできないかな〜って。
まあそれも感知されたら終わりかもしれないけど、今検知はされてないっぽい……と信じたい。
手をこまねいているの嫌だし、上手い具合に……や、やれると信じてやらなきゃいかんのですよ!
ぜーったいにディートリッヒがものすんごく心配してるだろうし、ラドじいさんやヘルトくんにルチェッテ達にも心配かけてるし、何よりリージーさんやゲオフさんカールさんに申し訳が立たなすぎる。
されてないって信じたいんだけど、「お前らいたのに、どうしてカテリーネいなくなってるの?」って責任問われてたりするの嫌すぎるんだわ。
超常現象みたいなのに連れ去られてたら、そら無理でしょって言ってあげないと……。
………………そ、それに、アイツも心配してそうだし?
アアアアアイツさ! なんなの!
こっ、告白みたいなことしてさぁ!!
その割にはなんか、なんか、なんか、「告白じゃないです違います」みたいな面してさぁ!?
おれじゃなくても、あの美形からあんな言葉が出たら動揺するし、ときめくでしょ!?
誰だってそうなる、おれがそうなったんだし。
べ、別にぃ? おれはアイツを揶揄うのが好きなだけであって?
景気とか気持ちとか金回りとかが良くなるように、バレンタインもどきを企画してクッキー配った時だってそうだ。(チョコは高級品すぎるので、広まんないだろうとやめた)
ジンジャークッキー作ってあげたのだって、アイツは辛いのが好きだって聞いてたから、いい揶揄いのネタになるかなぁってあげただけだし?
一番手間暇と真心かけたのは塩クッキーだし。
……塩クッキー、ちょうどいい具合のがなかなか作れなくて死ぬほど味見したから、しばらく塩とクッキーは食いたくないです……。
お兄ちゃまに中途半端なものあげらんねーんだよ!!
いっつもひーこらしながら頑張ってるんだからさ、報われないと嫌だわ。
あの人、おれのこと大好きだし?
おれが頑張るだけで喜んでくれるんなら頑張るしかないじゃん!
何をそんなに頑張ったかって、塩クッキーは単純に塩かけりゃいいってもんじゃなかったんだよ。
作っても作っても、微妙なのしか出来上がらなかった。
なんでだろうな、食材が微妙に日本のものと違ってたりしたのかな。
原因は分からんまま、いい塩梅の塩クッキーは出来上がった。
そ、そもそもさ、アイツ辛いの好きならさ、絶対きんぴらごぼうのが好きなはずなのにさ、な〜んでおれがディートリッヒ好みに作った生姜焼きを選んだの?
一概に辛いもの全部好き、ってもんじゃないのは分かってるけども。
ディートリッヒから「ヴァルを試してやろうぜ!」という悪ノリの提案で、おれとディートリッヒがそれぞれ作った料理を、どっちが作ったか言わないでアイツに食べさせたんだよ。
そんでどっちが美味かったか選ばせたんだけど、絶対選ばれるって思ってなかったから、おれなんだか恥ずかしくなっちゃったし!
おほほー! お前が選んだのはお兄ちゃまの料理よ!
お兄様の料理が美味しいのは当然ですが、わたくしのを選んでくれないなんて……って揶揄うつもりだったのに!!
アイツ、まじ、アイツ……。
……違うし! 違う! おれは違うからな!
別に誰かがいるでもないのに言い訳しながら、おれは心臓と繋がりを保っている『線』を意識し始める。
なんとな〜くある気がする線を、自分の方へ引っ張るイメージをした。
引っ張りすぎてヤバいことになって欲しくないから、釣りで魚を誘う感じでちょいちょいっと。……釣りやったことないけど。
てかヴァルムントくんが気がついてくれるか分からん!
分からんけどやるっきゃない!
ヘルプミー! ヴァルムントくーん!!
気がついたら、聞こえないだろうけど返事なさ〜い!




