II
カテリーネ様の部屋は雪で埋もれておらず、カテリーネ様はいらっしゃらない。
摩訶不思議としか言えない現象に、一同は困惑するしかなかった。
一通りの場の処理が終了し、これからどうするかを考える為に必要な人物だけ会議室へと移っていった。
ヘルトは長時間全力を出しており限界に達していたので、部屋で休んでもらっている。
魔力を吸い取って体力が削られたとはいえ、まだ私は動くことができるのだ。
何としてでもカテリーネ様を探し出さねばならない私は、会議へ参加を望んでここにいる。
……今すぐ外へと飛び出して、カテリーネ様の元へ行きたい気持ちを押し込めながら。
私は焦る想いから座っていられずに、ディートリッヒ様から程近い場所で立ったまま待機をしていた。
深く、長い溜息が耳に届いてくる。
会議室の中心に座り、テーブルに肩肘をついて頭を抱え俯いているディートリッヒ様から発せられたものだ。
「……精霊なんだろうが、何故このようなことを」
ディートリッヒ様が仰っていることは、もっともな疑問だと私も思っている。
精霊とは、基本的にいつ何処で現れるか分からない自然災害と等しい存在だ。
戦争による魔力の渦巻きから発生した説や、破壊された自然の積み重なった怒りから発生したなど、様々な説が提唱されているが真相は定かではない。
精霊について判明しているのは、突如現れて自然界で見られる災害をまき散らしていく恐ろしい存在で、遠ざけるには災害に耐えながら精霊が満足するまで魔力を捧げなければならないということ。
精霊が現れた場所が戦場であっても、敵味方関係なく対応をする。
放っておけば全員、付近に存在する者全てが死ぬからだ。
意思疎通は可能とされているが、実際のところどのように疎通を図っていたかは記載されておらず不明のままだ。
ただ、本当にできていたであろうことは『精霊祭』が証明している。
『精霊祭』とは、帝都の背後にある雪山に存在している精霊を祀るものだ。
5年に一度開催され、帝都では精霊が雪山に留まってくれていることへの感謝の祭を、皇帝と選りすぐりの魔導士達は雪山を登り魔力を奉納する。
かつての二代目皇帝が、我が国に雪の精霊が現れた時に『対話』をし、帝都背後の山にいてもらう代わりとして5年毎に魔力を捧げると約束したという。
これは精霊祭に参加する国民ならば全員が知っている歴史だ。
しかしながら、その対話について克明に記された記録は残っていない。
城内の閲覧禁止となっている場所に記録が残っているかもしれないが……。
「あ〜〜〜〜、ほんっと最悪! ここまで狂ってるとは思ってなかった!!」
会議室の扉を乱暴に開け苦い顔して入ってきたのは、解放軍で軍師として活躍していたセベリアノだった。
現在は主に帝国側への目付け役として動いているが、解放軍の者が大体帝国側が不利な条件を進めがちなのに対して、セベリアノはどちらも公平にと動くことが多い。
意外な行動に思えたが、ディートリッヒ様との会話で何かを得たようだ。
……カテリーネ様に真実を教えた点に関しては、結果的に幸せな結末を招いたとはいえ許せていない人物ではある。
現在もカテリーネ様は、セベリアノを見かける度に怯えていらっしゃるのだ。
一度何故そうも公平に動くのか聞いたことがあり、その時の答えは「オレがすべきことを思い出しただけだよ」だった。
答えてはいるが、答えになっていない。
ディートリッヒ様もセベリアノに対して複雑な心境を抱いていらっしゃるようだが、表面上は他の者と同様に接することを決めたようだ。
そのセベリアノが何をしていたかというと、城内にある精霊関連の書物や書類を探して確認する作業を担当していた。
手がかりを掴んで会議室へ来たと思われるが、喜ばしい報告とはいかないのが様子から一目瞭然だ。
「精霊祭! 前皇帝も魔術師も魔力を捧げに行ってなかったんだよ!! しかも皇帝に就いてから3回も行ってない! そりゃ精霊も怒るよ!」
「あんの野郎……」
ディートリッヒ様の口から積年の恨みがこもった声が漏れ出した。
この国の者ならば怒りを抱くのは当然のことだ。
安寧が崩される危険を見過ごす者が何処にいようか。
……前皇帝ウベルは恐らく、あえて危険を狙って行かない選択をしたのだろう。
国を破滅に導きたいとしか思えない行動ばかりであったのだから。
「で、精霊が怒った原因は分かったけど、な〜んでカテリーネちゃ……様がいなくなってたんだろうね? そもそも、カテリーネ様のところに出たってのがおかしな話じゃない?」
精霊が人間の営みを脅かすことはあっても、一個人に対して何かをした話は聞いたことも読んだ覚えもない。
『全滅したから分からないだけ』、ではないと信じたいが。
「ディートリッヒ様、以前仰っていた皇帝のみが入れる場所に精霊に関する書物はなかったのですか?」
皇帝が秘密裏に担っていた対応、ひいてはカテリーネ様に関しての情報を手に入れた場所ならば、精霊について書かれているものがあるかもしれない。
尋ねてみたもののディートリッヒ様が口を真一文字にして黙り、何故かセベリアノの空気まで固くなった気がした。
「……どうかされましたか?」
「いや、えーっと、あ〜、俺らってさ、生きて帰れるか分からなかっただろ? カテリーネには普通に暮らして欲しいからさ、その辺の事情知られるのはまずいって思ってさ……」
ディートリッヒ様の声が小さくなっていき、目まで泳いでいる。
言いたくないと雰囲気で訴えているが、続きを聞かなければ進まないので無言でこちらも続きを訴えると、完全に私を視界に入れないでこう言った。
「……も、燃やすよう指示した」
「は?」
ディートリッヒ様相手に出してはいけない声が出てしまったが、知った事実が激怒するほどの内容だったからだ。
帝都に帰還してから城内の一部区画が壊されていたり燃えていたりしたのを知ったが、皇帝討伐の影響でのモノだと勝手に思い込んでいた。
まさか燃やされたのが、皇帝の書物が保管されていた場所だとは思ってもいなかったのだ。
「貴重な書物に何をなさっているのですか!!」
「あーもー! 歴史大好きなお前が絶対怒るだろうから言わなかったんだよ!! めんどくせー! だってどれがカテリーネに関係していない本か調べる時間なかったんだぜ!?」
「それは……、……カテリーネ様のことを想うと、そうですが……。で、ですが現にその書物がない故に、解決の糸口が掴めていないのですよ!?」
ディートリッヒ様の苦悩も理解できる。
慎重に慎重を重ねて忍び込んだと伺っており、大した時間も取れないまま調べ上げたのだ。
限られた時間の中で、カテリーネ様について記されている本だけ抜き取れだなんて荒唐無稽でしかない。
しかしながら誰も知り得なかった真実が記されている書物を失うなど、歴史を探究する者ならば許されざる行為である。
相反する二つの気持ちに苦しみながらも言葉を捻り出していると、セベリアノが割り込んできた。
「まーまーまーまー! 喧嘩しないで〜! 詳細はわからないかもしれないけど、オレ達には生き字引がいるじゃん?」
「……エルフか」
あのエルフが素直に話してくれるのか甚だ疑問ではあるが、現状とれる手としては最善な手段なのは間違いない。
近くの者に指示をしようとしたら、セベリアノが先に指示を飛ばした。
「そこの人、ヘルトのとこ行って一緒にアンゲリカ呼んで〜」
「何故ヘルトを?」
「ヘルトがいると簡単に丸く収まるの。分かると思うけど、アンゲリカってめんどくさいんだよねぇ……。多分ヘルトは休憩してても起きてはいるだろうし、問題ないよ〜」
あのエルフと話をするだけで、多大な労力を要するのは想像に難くない。
ヘルトによって安易に事が運ぶならばそれが最善だと思うが、ヘルトの負担が大きい問題が発生する。
やってもらわねばならないがあまり良い対応だと思えず、出そうになった言葉を抑えようと腕組みをした。
セベリアノの指示を受けた者は部屋から出ていき、ヘルトとエルフを呼びに行く。
扉の閉まる音が響いた室内で、ディートリッヒ様が椅子から立ち上がったかと思うと、数秒してから再度座り直しをしていらした。
「……何をなさっているのですか?」
「ここにいたら話進まねーんじゃないかと思ってな。俺、エルフ基準で臭いんだろ……? でも、俺は話を聞いていたいから出るのは無理だなって」
片手を頭に置き指を立てて軽く掻く仕草をされた。
エルフに対して怒りがわいてくるが怒ったところで何にもならない。
目元を指先で解し気持ちを切り替えてから、ディートリッヒ様に声をかけた。
「あのエルフにも何らかの目的があるはずです。でなければ戦争が終了したにもかかわらず、態々ここに留まる理由が存在しません。恐らくここで取引をするのが良いかと」
「あ。同じ仲間ではあったけれど、オレも知らないから〜」
エルフは会議に参加してくる割に、茶々を入れてくるだけで口を挟んでくることが殆どない。
恐らく森に関連した議題が出てきたら口出しはあっただろうが、エルフがいる時は森について議題に出さない暗黙の了解があった。
エルフがセベリアノに話すかどうかはともかく、他の解放軍の者も把握していない以上、一体目的は何なのか掴めないまま時ばかりが過ぎていたのだ。
「皆が揃っているでもないこの場で決めたくはないんだが、精霊のことを解決するのが最優先だからな……」
精霊の意図が不明な以上、いつ国に脅威として襲いかかってくるのか分からない。
何をおいても解決を図らねばならない問題であり、ひいてはカテリーネ様を救うことに繋がる。
そう信じて、我々は対応していくしかなかった。
ヘルトとエルフが来るまでの間、今も続いている雪の処理について話し合いを続けて数十分。
扉をノックする音が聞こえ、呼びに行った者とヘルト、そしてエルフがこの部屋へと入ってきた。
「なんじゃなんじゃ、この我をこのようなところに呼びおって。あ〜、凄まじい異臭がしておるわ」
「アンゲリカ……。そういうこと言っちゃ駄目だよ」
「臭いものを臭いと言うてなにが悪いのじゃ」
エルフは自分の鼻を摘み、ヘルトから視線を逸らす。
再びディートリッヒ様の口から溜息が漏れ、「やっぱりいなかった方が良かったか?」という小さなぼやきが聞こえた。
「アンゲリカ!」
「わ、わかっておる! ……おっほん。精霊のことについて聞きたいんじゃろう? じゃが、我に利がないとのう。話してやる義理はないぞ?」
「それはこちらも理解している。何が望みだ」
ディートリッヒ様の問いに満足げな顔をしたエルフは、近くの椅子を引いて腰を下ろした。
足を組み、見定めをする瞳で我々を見ている。
「分かっておるくせに。我らの偉大なる森への伐採をやめてくれんとな〜」
一気に私もディートリッヒ様も、その場にいる者全員が渋い顔になった。
木というものは、人間の生活から切り離せない代物だ。
主にエルフがいると思われる森からの伐採を避けていたというのに、それ以外の場所まで禁止されたら生活が成り立たなくなるところが出てしまう。
「我々はエルフの森を避けていたはずだが、それでは不満か? こちらにも生活がある。それは無理だ」
「ほほう! それでは教えなくても良いと?」
「精霊について解決しなければならないのは、そちらも同じはずだ。対応しなければ、森にも被害が及ぶだろう。今まで我々は雪の精霊に、かの山に留まってもらう活動をしてきた。それを継続して行う為にも、我々は協力すべきだ」
木にも雪に対応できる種とそうでない種が存在している。
そこに住むエルフ達もただでは済まないはずだ。
過去に雪の精霊へ働きかけたのは人間である以上、道理であると思うのだが……。
「よう言うわ、お主らが対処方法を共有をせんかったのが悪いのだろう?」
それを言われてしまうと頭が痛くなってくるが、まずは解決をするのが先のはずだ。
始まった駆け引きに、アンゲリカの後ろで話を聞いてきたヘルトが困り顔で前に出てきた。
「アンゲリカ、君がしたかったことはそれじゃないよね?」
エルフは言い聞かせるようなヘルトの声に機嫌を損ねたのか、口をひん曲げて顔で抗議をしていたが、数秒後には腕組みをして発言をした。
「よいよい、ヘルトに免じて許してやろう。……お主らは、樹木に対する礼儀というものがなっておらぬ。お主らが樹木に対してすべきことを成すのであれば、我は精霊について教えてやっても良いぞ?」
「……すべきこと、とはなんだ」
「お主らは何も考えずに樹木を傷つけ過ぎだ、と言っておる。我らが正しき作法というものを教えてやろうと言っているのが分からぬか?」
伐採を生業としている者達には、その者達なりの流儀や伝統を持っている。
ましてや、伐採の邪魔をした挙句に殺してくるやもしれないエルフ達を好意的には見れず、エルフの言うことを素直に聞くのも難しいのではないか。
ディートリッヒ様は少し考えた後に口を開く。
「……分かった。お前達エルフの作法に沿うよう、こちらは最大限努力をする。だが全てを受け入れられるとは約束できない。こちらにもこちらのやり方というものがある。それはお前達も同じだろう?」
「小賢しい言い方をしおって。しかし、短い生の中でそのようなものが培われているとはのう」
「こっちは短いなりに精一杯生きているんでな。飲んでくれるなら、細かい詰めは後日にして精霊のことを教えてくれないか」
ディートリッヒ様からの言葉を聞き、エルフは一度天井を見たかと思うとヘルトに視線を移す。
見られたことに気がついたヘルトはエルフに対して頷きを返した。
「よかろう、後日にしっかりとやるのだぞ? 人間の記憶はすぐに消えるからのう、心配じゃな〜」
「国民の命が、俺の妹の命がかかってるんだ。決して無下にはしない」
「……それなら良い。では、あの悪食な精霊について少しだけ教えてやろうではないか」
得意げなエルフから語られた内容は、要約すると以下の通りだった。
精霊にも好む者がいるらしく、顕著なのが「魔力が特出している者」を好むのだという。
二代目皇帝が精霊と対話をして魔力を奉納する形に収まったのも、魔力に惹かれたからではないか。
今回のことも『ちょっとの間』魔力が奉納されなかったから、『少し』怒った精霊が自分好みの者を攫ったのではないか、という見解だった。
魔力を糧としている故に魔力が強い者を好むのは道理であるが、それだけが理由とはとても思えない。
現在の帝都には一線級の魔術師が集っている。
カテリーネ様のお力は確かに強力であるが、他にもいる以上カテリーネ様が選ばれる理由がない。
エルフがわざと隠しているのか、本当に知らないのか不明だが、他に理由が──それこそ皇族の力か何かが関係しているのではないだろうか。
ディートリッヒ様はカテリーネ様ほど魔術を得意としていない為、カテリーネ様が選ばれたのだと私は考えている。
ディートリッヒ様はテーブルを指先で数回叩いてから、エルフに質問をされた。
「……本当に『少し』怒っただけなのか?」
「少しじゃ。お主らの感覚と一緒にするでない」
「少しでこれか……」
あ〜と唸りながら、ディートリッヒ様は天井を見上げられた。
少しの癇癪でこれだけの被害を受けたのだ、こちらとしてはたまったものではない。
セベリアノが雰囲気を変えようと、両手を合わせ音を鳴らしてから喋り始めた。
「じゃ、目的は決まったんじゃない? 雪山に行って沢山の魔力を奉納し直す。これで解決になるんでしょ、アンゲリカ?」
「そうじゃが、そう簡単にいくのかの〜?」
エルフはおかしそうにせせら笑いをした後、立ち上がって部屋から出て行った。
目標が決まったところで協議をし、ディートリッヒ様と私、そして魔力に自信のある魔術師を集めて雪山へと出発が決まった。
魔術師が集まるまでの時間で仮眠をとろうと各々部屋から出て行こうとした時、ヘルトの必死な声が部屋に響く。
「お願いです! 僕も、同行させて下さい!」
「いや、駄目だ。お前の気持ちは分かるけどな? 体力も魔力もないやつを連れてくと足手纏いになる。それに、あの野郎の尻拭いしなきゃなんねえのは俺達だ。……ヘルト。お前にはカテリーネが戻った時に、暖かい炎で寒くなった体を温めて欲しいんだ」
ディートリッヒ様が頭を掻いてから、真っ直ぐにヘルトを見直してそう発言された。
カテリーネ様を救いたいという気持ちは言わずともあるが、皇帝の不始末で起こったものだからこそ、自身が始末をつけなければならないと思われているのだろう。
そんなディートリッヒ様のお気持ちを察したのか、ヘルトは迷いながらも頷いた。そのまま立ち去るかと思いきや、私へと目線を移した。
「……将軍、僕は……。僕が、リーネ姉さんを救いたかった。でも貴方に託します。……お願いします」
ヘルトはきっちりとした礼をしてから、今度こそ去っていった。
──本来ならば、この少年が行くに相応しいと思っている。
私のような人間が行くよりも、きっと明るく親しい人間であるヘルトが行った方が、カテリーネ様はお喜びになるはずだ。
卑屈な考えの私が出てくると同時に、誰よりも何よりも真っ先にカテリーネ様をお救いしたいと思っている自分も存在していた。
何故なら、私にとってカテリーネ様は──
「ヴァル、どうした?」
「……いえ、何でもありません」
かぶりを振って、会議室から出て歩いていった。
日が昇り、もはや朝と言って差し支えのない時間に全員の準備が整った。
防寒具を装備し精鋭と共に雪山へと向かっていったのだが、私達はどうにもならない問題に直面することとなる。
真っ先に気がついた1人の魔術師が、口を開いて確認してきた。
「あの……、ディートリッヒ様。我々、元の場所に戻っていませんか……?」
「……信じたくねえが、そうだな」
精霊へ魔力を捧げる為に、ないよりはいい程度に整備された道が存在している。
所々に目印としてかなりの高さがある石柱が置かれており、大まかにどこまで登ったのかが刻まれていた。
この場にいる全員が、石柱の目印を視認していたのだから間違いない。
我々は、先程の場所に戻っている。
「あ〜畜生! なんだこれは!!」
「う〜ん、これは古の魔術による迷いの術じゃないかな? うわぁ、こんなところで出会えるだなんて興奮するなぁ!?」
青く長い髪が特徴の男が興奮した様子で喋り始めた。
この男は解放軍に参加していた者で、炎の扱いに長けている。しかし魔術に関して熱狂的に打ち込んでいるが故に、迷惑をかけることが多いブレンという男だ。
ブレンは魔術師が研究をしている棟にて爆発を引き起こし、近くにいた私が消火に回って叱った時に覚えてしまった。
「迷いの術……?」
「そーですよ! 特定の場所に抜け道があって、連続して抜け道を選ばないと永遠に進むことができないっていう術です! 実際に体験ができるだなんて……!?」
ブレンの言うことが本当ならば、途方もない日数をかけても精霊とカテリーネ様の元へと辿り着けるか分からないことになる。
「この術をかけた意図は……、意図は分かる。精霊がいると分かっていても侵入しようとする不届者を、入れない為にしたんだろう。ああ分かるさ、分かるとも! ……ぐ、」
ディートリッヒ様が唇を噛み締め、様々な感情を抑える為にかしゃがみ込んだ。
私も普段ならばディートリッヒ様と同じ反応をしていたはずだ。
しかし、そうはならなかった。
『何か』が私に呼び掛けてきている。
気を引くかのように、妙な感覚が徐々に押し寄せてきていたのだ。




