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27話


 このディートリッヒという人、死ぬほど忙しいはずなのに絶対毎日俺に会いに来ている。


 いくら上同士で和解したっていっても、全員が納得した話じゃないから滅茶苦茶もめてるんだよね。

 だから連日会議会議話し合い会議会議打合せ会議……、となってしまっているらしい。

 幸いというべきか、国の維持として必要なシステムとかはちゃんと動くようにはなったっぽいので、やっぱりトラシク2にはならなそう。

 ともかく予定が詰まりに詰まっているし、気軽にどっかいくこともできないはずなんだけど、この人はどうやっても来る。

 俺は体よわよわマンなので日中寝ている時があるのに、寝ていても構わないようだ。

 というか完全に寝ている夜中でも来ている。一応こっちは家族とはいえ、うら若き乙女なんだぞ!

 なんで来てるのが分かるかっていうと、来るたびに何かしら俺にプレゼントを渡すか置いてるんだよな……。

 そのせいで護衛の2人に聞かなくても分かっちゃうんだよ。


 何を持ってきているかって?

 なんつーか、対応に困るものばっかりで……。


 アクセサリーとかを渡してくるのは分かる。

 俺自身はあんまり身につけないけど、女性に贈るのは不思議ではないし。

 あんまり外にも出ないし、出ても城の外に出ないし……つけてもな。

 とはいえ着けないのもディートリッヒに悪いし、軽めのものは着けるようにしてる。

 そもそも俺のお付きになったという侍女のリージーさんが「今日はこれにしましょうか〜」と着けてくるんだよな。

 棚の中に収納されていってるけど、いつか納まらなくなるんじゃないかこれ。


 ぬいぐるみや人形……も、おかしくはない。

 うんうん。うさぎさんかわいいね、トラシク制作会社のマスコットぶたさんかわいいね。

 ちょっと怖いけど女児が遊ぶ用のお人形さん精巧な造りしてるね、すごいね。

 こうして持ち込まれたものがズラーっと棚の上に並び始めている。

 真っ直ぐ向けたはずの人形が、起きたらベッドに顔が向いてたことがあったのは多分気のせいだ。……気のせいだ。

 ちゃ、ちゃんとゲオフさんにただの人形で何もないことを確認してもらったし!?

 そのうち物が置ける場所は全部、ぬいぐるみや人形の居場所になるかもしれない。


 だがな! すっごい丸い石とか、馬の蹄鉄とか、銀色の兜とか、何かに使っていたであろう工具とか、お前それ喜ぶの小学生男児だからなってものを持ってくるのはどうかと思うぜ!?

 ……い、いや、小学生でなくても喜ぶけど。

 ていうか、こっちのが嬉しいまであるけども……。

 多分、俺が弟だったら下ネタ関連のも持ってきそうな勢いだった。

 実際にやるかどうかは分からん。


 ディートリッヒの護衛や周りの人がこのプレゼント波状攻撃を止めたりしないんだろうか。

 とか思ってたら、ある日ディートリッヒの護衛をしていた銀髪の人から「ディートリッヒ様が大変お喜びになられているので、こちらでは止められないんですよ〜。カテリーネ様ごめんなさい〜。そのまま受け取っていただけると……」とこっそり言われた。

 

 ……妹ができて舞い上がってる少年か? って感じ。

 そもそもディートリッヒってこんなに明るいキャラだったっけ?

 かっこいいけど、どこか諦観してて悲壮感漂うキャラだと覚えてたんだけどなあ。おかしいな。

 俺の記憶も信用ならねーけども、なんか違うってことくらいは分かるぞ。

 死ぬ運命がなくなったからってここまで変わるか?

 物語の歯車がボロッボロになっている以上、どっかおかしいところが増えてもおかしくないんだけどさ〜。



 ──そして現在に戻るんだが、お昼時に来たディートリッヒは今までの中で一番おかしかった。


 俺はベッドに腰掛けて本を読んでいたんだけど、出迎えの為に本を置いて立ち上がり近くまで行こうとしたらストップをかけられ、テーブルとセットにしてある椅子に座ってくれと指示される。

 大人しく従って座りつつも、俺はすごく気になることを尋ねた。


「……ええっと、お兄様。それは……?」


 ディートリッヒの後ろには、ディートリッヒの護衛の人が食事を運ぶ為のカートを微妙な表情で取っ手を握っている。

 扉前で門番してたゲオフさんもリージーさんも「うーん」って顔だ。

 護衛なのに配膳カートを運ばされてるんじゃ、そうなるよな……。

 レストランとかで見かける銀色の丸いアレ(クローシュ)がカートの上に載ってる。


「俺が作った粥だぞ! ちゃんとブラッツ先生には許可をもらったし、内容も見てもらったし味見もしてもらった! お前の口に合うといいんだが……」


 すすすーっと護衛の人が部屋の中へカートを運んで、俺の前にランチョンマットをしいてからスプーンを置き、銀のアレを開けてお粥の入った皿をマットの真ん中に置いた。


 ……皇子が料理作るなよ!!

 厨房大混乱だっただろうし、周りも押し切られてそのまやらせてるんじゃない!!

 ブラッツ先生もめっちゃ困ったんじゃないか……? ダメですとも言いにくいだろうし。

 いや、ブラッツ先生は言うかも。あの人ダメなものはダメってスッパリ言う人だもん。

 てかお前死ぬほど忙しいはずなのに、まーじで何やってんの。

 その時間を睡眠や休憩にでも当てろ! うっすら隈あるの知ってるんだからな!


「お兄様が、料理されたのですか……?」

「俺はな、料理するのが好きなんだ。ここでは中々できないんだが、軍営ではよくやったりしててな〜」


 ちらっと護衛の人を見ると、遠い目をしながら「そうなんですよ、よくやってるんですよ」って顔をしている。

 苦労してるんだな……。でも止めないんだな……。


「俺は、ご飯を食べておいしいって笑顔になる瞬間が好きなんだ。俺が皇子としてやっていることは、すぐに民や皆を笑顔にすることはできない。必ず笑顔ができる内容だとも限らない。だが料理は手間暇愛情をこめて作れば、笑顔にできる可能性が高いだろ? だから好きでな〜」

「美味しいものは笑顔になりますから、お兄様が好きになるのも分かります」


 ……胸張って言ってきた理由が重い! そら止められんわ!

 俺は微笑みながら目の前のお粥を見る。

 ここでの病人食ってチキンスープとか、麦の粥っぽいものとかなんだけど、目の前にあるお粥は違う。

 鼻に届いてくる、かぐわしいこの匂い……。白くてとろっとしているお米……。

 こっ、これっ! にににににににに日本の、ゴクトーのお粥では!? 細かい鶏肉にお野菜も入ってる〜!


「お兄様、こちらは……?」

「ライモンドにお前が好きそうなものを聞いてみたんだよ。その粥はな、献上されたはいいけど使われてないやつで作ってみたやつなんだ。ゴクトーの料理を食べてみたかったんだろう? 俺も食べてみて味は大丈夫ではあったんだが、カテリーネの好みの味かは分からなくてな……」


 絶対好きですけどぉ!?

 口の中で涎が生成されてってるのがよく分かるくらいには、お腹空いてきた。

 いつもの食前の祈り……そういやこれって皇族に対しての感謝のやつだから、俺がやるのも変な話になってくるな?

 まあ習慣を今更消すのもと思って、しっかりと祈りを捧げてからスプーンを手に取って粥を掬い、口の中に含んだ。


「……美味しい! 美味しいです、お兄様」

「そうか。……そうか! よかった……」


 う、う、うめぇ……。うめえよぉ……。

 シンプルな塩味なんだけど、オートミールや麦とは違うこの絶妙なお米の味よ。これだよこれ。

 鶏肉も味が染みててうまいし、ほろほろとしてる。野菜もおいし〜。

 やっぱお粥はこうでなくちゃ!! 最高! お米最高!! お兄ちゃん最高!!


 ……できればこのプレゼントが続いてくれるのが嬉しいけど、無理を通してそうなのは間違いないだろうから、その辺は諌めてやらないとな。

 もっと食べたいから気は進まないが! 周りにもディートリッヒにも悪いし!


「作っていただきありがとうございます、お兄様。わたくし、とても嬉しいです。ずっと食べていたいくらい……。ですが、お兄様もお時間のない中で大変ではないでしょうか? お兄様が幾分か落ち着かれた時に、またお願いしたく」

「……カテリーネ、よく聞いてくれ。お兄ちゃんは今、お前と過ごす時間が一番の癒しであり楽しみなんだ。俺に幸せでいてほしいとお前が思ってくれているなら、そのまま受け入れてくれないか?」


 こ、断りにくい言い方しやがってぇ……!!

 訴えかけてくる顔は、無自覚だろうけど美形の暴力を存分に使ってきている。

 くそう……、了承するしかねえじゃねえか……。

 俺が困り果てながら頷くと、満面の笑顔でディートリッヒは喜んだのだった。



 ◆



 ディートリッヒが帰っていき、俺はベッドにある本を再度手に取ってから座る。


 そうそう。ヴァルムントとの関係についてなんだけど、誤解に誤解が重なってるし噂との悪魔合体がされまくっててもう噂が止まらなくなっていると、カールさんから世間話で聞いた。

 俺についての発表をどうするか、そもそも皇族をどう扱うかの結論がついてないから浮いちゃってる。

 国をどう先導していくかとかもごちゃってるらしいし。

 一応ディートリッヒの本当の妹であることは『上部だけ』知らされてるとも。

 そんなんだから噂が更におかしくなっていくんじゃんかー!!

 ヴァルムントと帝都に来てから一度も会ってないっていうのに、鎮火しねーの酷くない!?

 つーか、アイツが会いにこないのもそれはそれで癪なんだが……。

 勝手に命共有されて勝手にあれこれ言われてんだから、文句の一つや二つ言いにくるもんじゃないのか?

 今でも「ちゃんと責任取ったのか?」とかヴァルムントは周りに言われまくってるって聞く。

 しかも俺には会いに来ないのにヘルトくんと決闘という名の訓練はしているのだと、よく来てくれるルチェッテから聞いた。何してんの。

 別に会いたいって思ってないから、ヴァルムントを呼び出すのはなし!

 俺はお清楚だから、はしたない真似はせんのだ。


 カールさんが話題として教えてくれた噂は以下だ。

 実はヴァルムントと許嫁だったとか、皇帝から引き裂かれていた2人だったとか、前世から思い合っていたのだとか、よく分からんのまで増えている。

 他にも俺はヘルトくんの実の姉だとか、戦争を止める為に黒龍が擬人化したのが俺だとか、戦争に憂いた精霊が舞い降りたのだとか、変な噂があると聞いた。

 乾いた笑いしか出てこない。想像力が豊かすぎる……。

 下品なものや最低な噂もあるっぽいんだけど、その辺は配慮されてなのか教えてくれない。一番知っておきたいのなんですけど!?

 そんなんじゃねーよ、誰か助けて……。俺が誤解させたことだけどさ〜!!

 お前が始めたんだろとか言わないで、お願い。


 あ、ディートリッヒや周りの人にはちゃんと、ヴァルムントに儀式が止められたから責任とって欲しかっただけだと説明したら納得してくれた。

 ディートリッヒは頭に血がのぼってたからヴァルムントを責め立てたけど、いざ冷静になったらアイツはやらないな……となったっぽい。

 「ヴァルムントに頼らなくても俺が養ってやるからな……!」と力強く宣言されたけど、これ以上はさあ……うん……。



 ディートリッヒの妹への愛情が、重すぎる。

 それが今、一番俺を悩ませている問題だ。



 俺はカテリーネだけど、カテリーネとはいえない存在で。

 気が引けて仕方がないのだ。



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