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XXII


 これ、どういう状況?


 ど〜も、似非ヴァルムント将軍と呼ばれているアルウィンです。

 将軍とは剣捌きも雰囲気も顔も全然違うから、やっぱ似てないんですけどね〜、あはは。

 おれはまぬけ顔ってやつですけど、将軍は凄まじい美男子ってやつですから〜。本人は美形なところ好きじゃなさそうだけど。

 あっ、ディートリッヒ様も負けてないですよ! おれ不敬罪犯してない犯してない。


 将軍がボーガードに呼ばれて入り口の方へ行ってからちょっとした後、おれも追いかけてヴァルムント様の助けになろうって思って向かったんですよ。

 ここに残ってる全員、ディートリッヒ様と将軍のことが大好き……じゃなかった、慕ってますからねえ〜。

 勝ち目があろうとなかろうと、おれ達はついていくって決めてたんで〜。

 ……本当は、生き延びて欲しいのが一番なんですけど。

 2人とも、頑固なんですよねえ〜。


 早速、将軍と反乱軍の中心を担ってるっぽい人物達が戦いを始めてた。

 剣の腕前で言ったら将軍のが上だけど、反乱軍の連中も圧倒的に腕が劣ってるわけじゃない。

 数の不利があるから、そのうち将軍は負けてしまうのが見えてる。

 多分将軍が手を出すな〜的なことを言ってたからみんな待機してるんだろうけど、顔を見てみるといつでも行くぞ〜ってギラギラしてた。


 だよね〜! おれもそうだもん。

 黙って将軍が殺されるのを見ていられるほど、おれらは甘くないし〜。

 将軍には怒られるだろうけど、将軍に死なれるよりいいからね〜。

 卑怯? なんとでも言ってくれてもいいよ〜。

 おれたちは、ここまでおれらを立派に引っ張ってきてくれた人たちを死なすような恩知らずじゃないから。


 みんなでそれぞれ目配せをして、乱入すべき時を計る。

 将軍はまだ余裕そうな顔をしているけど、何がどうなるかは分からない。

 入り口付近にいる反乱軍すら、いつ入ってきてもおかしくない状況だ。

 膝を軽く曲げ、すぐに飛び出して対応ができるようにしておく。

 将軍が戦っている音が大きく響きつつも、張り詰めた空気がただよっている。

 そんな雰囲気が崩れていったのは、入り口からするどよめいた声だった。

 なんだか困ったような、どうしようか〜みたいな感じがしている入り口を窺っていると、美少女が1人飛び込んできた。


 その美少女はきらきらした金色の髪の毛を靡かせながら、青い瞳と時折前髪から現れる赤い瞳を潤ませていて、一生懸命に華奢な体を動かして走ってきている。

 好みは置いておいて、道端にいる人に「この人は美しいですか?」って聞いたら、10人中10人「美しいです!」って答えるだろうってくらいの美人さんだ。

 ……な〜んか誰かに似てる気がするな〜。誰だろ。


 それはそれとして、間違ってもこんな戦場にいていい人じゃないし、戦える人だったとしても着てる服が戦場向きじゃなさすぎる。

 美少女の後を追ってなのか、何かの任務についていたはずのカールとゲオフが走ってきて、美少女を追い抜いてから周囲に彼女を止めるなと言い放っていた。

 え? なに? 何が始まってるの?

 中心で戦っていた全員が乱入してきた美少女に気がついて、ものすっごく驚いている。


「り、リーネ姉さん!?」

「……カテリーネ様!?」


 反乱軍の頭をしているヘルトという少年と、将軍が美少女の名前を叫んだ。

 え~っと、どっちも知ってる人なの?しかも将軍が敬称つけてるって何者なんだろ。

 その美少女……カテリーネさん? は、胸元から赤い光を灯していて、そこからまっすぐと光が伸びて将軍に向かって行った。

 将軍は赤い光には気がついたはずなのに避ける仕草すらなかったし、そのまま光を受けている。

 明らかに危険そうな光なのに、なんで避けすらしなかったんです……?

 反乱軍を無視して、光が繋がっているカテリーネさんの目の前まで将軍は駆け寄った。


「何故ここにいらっしゃるのですか! 私以外に当たったら、貴方は簡単に死んでしまうかもしれないというのに……!」


 カール達に止められたのもあるけど、状況が全然分からなくておれたちは見守るしかないし、戦ってた連中も何がなんだかって感じで武器を下ろして2人を見ている。

 カテリーネさんは全力で走ったせいで乱れた呼吸を整える為に激しく呼吸をしつつも、ほろほろと涙を流しながら言葉をこぼした。


「……ヴァルムント様は、ずるいお人です。わたくしの人生を壊しておきながら、どこかへ行ってしまうなど……」


 「えっ」とおれを含めて周囲がどよめいた。

 筋肉隆々なおじいさんが先頭になって反乱軍の兵達も入っていていたんだけど、その兵達も「え?」って顔をしている。

 そのおじいさんは腕組みをして、真剣な表情で二人を見てた。


「わたくしは、ヴァルムント様に人生を壊され、どうしていいのか、分からなくなってしまいました……。わたくしの人生の責任を、とっていただきたいのです……!」


 カテリーネさんは目元を押さえながらさめざめと泣いている。

 将軍は完全に混乱していて、「いえ、あの」と、ちゃんとした言葉を言えない状態になっていた。

 わ〜、これがどんな美人さんに言い寄られても無表情で無下にしまくってた将軍の姿……?


 けど、え? 将軍まさか……、え?

 いやいやあの死ぬほど真面目な将軍に限ってそんなこと、そんなこと……!?


 ……美少女をおいしく頂いておいて、放置したの!? あの将軍が!?


 で、でも人は見かけによらないっていうし〜……?

 裏では実は……ってこともあったりするから? いやでもそんな?


 事情を知ってそうなゲオフは神妙な顔して頷いてるし、呆然としてその光景を眺めているボーガードやアデルモにカールが何かを耳打ちしている。

 それをうんうんと頷きながら聞いたアデルモは、ニヤリと笑ってから大声で叫び出した。


「将軍! 責任とれぇー!!」

「……将軍あのなりで美少女誑かしてたのかよぉ!!」

「美少女ほっとくとか男らしくねーぞ!」

「ちゃんと責任もてーっ!!」


 アデルモが叫んでから次々と伝染するように、帝国兵達から将軍へ言葉がぶん投げられていく。

 挙げ句の果てには先頭にいた反乱軍のおじいさんが、活を入れるように声を張ってこう言った。


「ヴァルムント! カテリーネの責任を取るのだ! お前はヴィルヘルムの子であり、男だろう!! ……お前らも責任を取るべきだと思うだろう?」


 そうしておじいさんは、すごい眼力で反乱軍側の兵士に『圧』をかけ始めた。

 状況がつかめていなかった兵士も、その圧に負けて小刻みに首を縦に振っている。

 反乱軍の軍師がそそくさと入り口の反乱軍に近寄って、圧に負けなかった兵士にごにょごにょと長く何かを言っていた。

 軍師の話を聞き終えた兵達は悲しそうな顔をしてから、何故か他の帝国兵達と同じように叫び出す。


「死んで終わらすなー! 責任とれー!」

「女の子を1人にするんじゃない!!」

「ちゃんと責任とってその子を幸せにしろー!」


 ……これが、混沌ってやつかぁ〜。

 おれは考えるのをやめた。


 戦っていたヘルトや他の男はまだ状況が理解できてないのか、目を何度も瞬かせている。

 ……あっ、赤髪の男は囃し立てに加わった。

 女の子達はきゃーって言いながら興奮して互いの体を叩き合ってる。


 将軍は周囲からの野次に困惑しているが、それよりもカテリーネさんが泣いていることが気掛かりなようで、片膝をついて窺っているようだ。

 様子見している帝国兵に声かけをしていたカールが、おれに近づいてきて声を上げる。


「ヴァルムント様とディートリッヒ様に生きてもらう為や。死ぬよりええやろ? お前もやったれ」

「ええ~? えーっと……、しょうぐ~ん! 無責任ですよ~、ちゃんと責任とってくださ~い!」


 まあカールの言うことは分からないでもないような〜……?

 将軍はカテリーネさんのことが大事だから、あんな風に片膝ついてまで様子を見てるし、ここまでこうなったら責任放棄しないだろうし……?

 反乱軍側もおじいさんと軍師によって巻き込まれて、なんだか呑まれちゃってるし。

 このままさっきの続きをするにも、雰囲気も状況もぶち壊れちゃってる。

 いいんだけど。いいんだけど! いいのかな〜、これ。


「ね~ね~、カールは知ってるんでしょ~? どうしてこうなってるのか」

「ボクはカテリーネ様に乗らせてもろただけです〜。こんな風にカテリーネ様がするとは知らんかったし」

「ところでカテリーネさんって、どういう人なの……?」


 カールも敬称つけてるし、そもそも一緒にいたっぽいし、普通の人じゃないことだけは確かなんだけどな〜。

 カールは一度うーんと唸ってから口を開いた。


「まーもうええか。あっちの軍師がバラしてそうやし。カテリーネ様はディートリッヒ様の妹やで。正真正銘、血が繋がっとる」

「……あ、ああ〜! 誰かになんか似てるな〜って思ったら、ディートリッヒ様かあ!!」


 髪色とか、赤い目の色とか、顔立ちとか、なんか色々既視感あるな〜って思ったのはそれかぁ〜!

 あ〜あ〜なるほどなぁ〜!

 将軍、密かに親友の妹に手を出すだなんてやるぅ……。

 確かにそれなら将軍の態度にも納得ができるし、ディートリッヒ様も説得できそうな気がしてきた!

 分かんないことはあるけど、今は探ってる場合じゃない!


「おれ、もっと囃し立てる〜!」

「お〜お〜やったれやったれ。ほなボクは次いくわ」


 そう言ってカールは困惑してる兵に近寄っていき、おれは将軍に言葉を続けていった。


「将軍〜! カテリーネ様を幸せにしないとダメですよぉ〜!」


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