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「我々は付近で警備をいたします。何かございましたら必ず大きな声で叫んでください。瞬時に駆けつけて阻止します」
小屋の中の安全を確認された後にいざ滝行をするってなったら、ヴァルムントくんはそう言いながら兵士さん達に配置の指示を始めた。
滝からほどほどの距離に兵士さんを配置させて、尚且つおれを見ないように背を向けさせるようだ。
おれの護衛3人は一番滝近くに配置されるものの、ラドおじさま以外は背を向けるみたいだった。
リージーさんにユッタ、ルチェッテは普通に近くで待機してくれる。
ヴァルムントくんは護衛と兵士さん達の中間で背を向けながら様子を窺うっぽい。
まー、滝行の時のスケスケ服とか考えたら警備体制もそうなるし、すんごい渋られたのも分かる。
おれとしては別に見られても気にしないとはいえ、身分だったりなんなり考えると罰せられるのっておれじゃなくて見た当人だし。
ラドおじさまはおれの父親みたいな存在だから許されていて、おれの滝行姿を見るのは本意ではないけれど護衛の為に見てくれる。
これで万事オッケー、小屋へ着替えてからいざ滝行! ……ではない。
いるではないか、おれをそのまま見てても問題ない人がさぁ!
ヴァルムントくんがそれぞれへの指示を終えて、自身も配置につこうとするのを呼び止めた。
「お待ちください、ヴァルムント様」
「どうかなさいましたか?」
純粋な目でこちらを見てくるのに、おれは邪な心を微笑みで隠しながら近寄ってその右手を両手で掴んだ。
に〜が〜さ〜な〜ぁい!
「ヴァルムント様もラドおじさまと同じく隣にいては駄目なのでしょうか?」
「はい、それは……、…………っ!? かっ、カネリーネ様っ!? なりません!」
いつも通りに答えようとしたのに、予想外の問いかけがされて心底パニクったらしい。
言葉を咀嚼するのに固まった後、理解してから目を白黒させて大声で否定してきた。
こんなんでおれは止まらないぜ!
「何故でしょうか? わたくしとヴァルムント様は婚約を結んだ間柄です。……それで家族というのは過言なのでしょうか……」
ヴァルムントくんから視線を逸らして斜め下へと向ける。
しゅんとした顔で! いかにも悲しいですという表情で!
手をギュッと掴んで訴えるように!
婚約状態は家族じゃねーだろって突っ込まれそうだけれど、今のヴァルムントくんは冷静さを欠いている。
周りの人達もどうせ誤解してんだし、これくらいもうどうってことないぜ!
目の端に見えるラドおじさまも頷いてくれてて、護衛2人も「いいから頷いたらどうですか」って雰囲気だ。
このまま攻めればいけるいける〜!
おれが腹の中でそんなことを思っていると、ヴァルムントくんは滅茶苦茶悩んでいるらしく、すんごい眉間に皺寄せつつ何か言おうとして止めるを繰り返していた。
陥落しろ、ほら! ほら!
まだ足らんか? しょうがないなぁ……。
「過ぎたことを申しました、ごめんなさい……」
「っ、……いえ!」
おれが手を放してそのまま離れようとしたのを、ヴァルムントくんが逆に手を掴んで引き留めてきた。
掴んできた手は若干震えてはいるものの、ヴァルムントくんは決意を固めたみたいでハッキリとした口調で言葉を伝えてくる。
「私は、……私は貴女の伴侶の座を誰かに譲る気はございません。その座は私だけのものです。ですので、……ですので、私も近くにおります」
「ヴァルムント様……!」
か、揶揄うつもりだったのに、どーしてそんな情熱的な告白までセットで言ってくるのかなぁ!?
て、て、照れるに決まってるでしょうが!!
おれは照れ隠しにえへえへしながら「嬉しいです」と呟いた。
まっ、まぁ!? ヴァルムントくんにとっての本番はこれからだし!?
まだまだおれが揶揄う余地はあるし!?
おれはまだ負けてないもん!!
しっかし割と積極的になってきたなとか思ってたのに、こういう場面で消極的だったりするのは相変わらずなんだよなぁ……。
最近猛攻がすぎてビビってたから助かるとはいえ、正直よく分からん。
内心で首を捻りながらも、リージーさんとユッタを連れてそそくさと小屋へと入っていく。
おれが滝行にあたって着替えたりしてた小屋は、村の人達が維持してくれていて綺麗なままだった。
しまっていた禊用の服もしっかり天日干しされていたのだ。
……すごい大切にしてもらってたんだな〜ってのを感じる。
道具の融通とか、行商とか村に来てもらいやすいようにできないかな。お兄様に相談してみよ。
小屋内そんなことを考えながら、リージーさんとユッタの手によっておれの着替えが始まっていく。
あ〜久しぶりだな〜、この服。
おれは慣れてるとはいえ、ユッタがめっちゃ薄さや材質にビックリして目をギョッとさせている。
普段のおれじゃ着ない服だからねえ。
一方のリージーさんはやっぱり通常運転だった。流石です……。
着替え終わって外に出ると、ヴァルムントくんとラドおじさまとルチェッテ以外は全員滝に背を向けていた。
おれのこの姿を見てラドおじさまは懐かしそうにしており、ヴァルムントくんは真剣な表情をしながら徐々に徐々に肌を赤く染め上げていっている。
このまま全身茹で上がりそうだな〜、まだ終わった後もあるのにな〜なんて思いつつ、勢いよく流れ落ちていく滝の中へと入っていったのだった。




