17
早朝、おれは村にいた頃と同じ時間──5時に目覚めた。
今は7時に起きてたから体内時計リセットされたかなーって思ってたのに、案外身に付いてるもんだなぁ。
当たり前ながらヴァルムントくんはおれより先に起きてベッドに座っていた。
「カテリーネ様、おはようございます」
「おはようございます」
ちゃんとした寝顔見せてくれたっていいじゃん、狸寝入りしか見たことないぞ!
ぷんすこする気持ちを抑えてから、ヴァルムントが一度部屋を出ていくのを見送ったのだった。
こんな時間に起きたのも、ヴァルムントくんを揶揄う目的も兼ねた『村でしかできないこと』をする為だ。
ぶっちゃけるとヴァルムントくんを揶揄うのは二の次である。
そのやりたいことは事前に相談したものの、かなりの難色を示された。
けどなんとか粘って押し切って了承を得たってワケ。
そりゃおれだって、現状であんまりやっていいことじゃないよなーってのは分かってる。
でもおれだけの問題じゃなくなってるから、実際にやって解決するならやりたいんだよ。
軽めの服装へ着替えて諸々の準備を済ませて、ヴァルムントとラドおじさまに護衛2人、ルチェッテとリージーさんとユッタ、他にラハイアーを含めた数人の兵士さんを連れて家から祠のある方向へ出発をする。
先頭にラドおじさまと兵士さん、ついでヴァルムントとおれ達、そのまた後ろに残りの兵士さんといった隊列だ。
ラハイアーはヴァルムントくんの近くにいることになり、ヴァルムントに対してチラチラと目線をやっていて気まずそうだった。
やっぱダメそうじゃんか!
なんかおれから探れねーかなーと思い、ラハイアーに話しかけてみた。
「貴方がユッタさんのお兄さんでしょうか?」
「へっ、あっ、ぇ、はっ、はいっ!」
突然おれに話しかけられたからか、ラハイアーはすっとんきょうな声で返事をし、その光景を見たユッタとルチェッテがまずいという表情をしている。
大丈夫大丈夫、そんな心配しなくていいから。
おれはコイツのことちゃんと知ってるし!
「わたくし、明るく健気なユッタさんにいつも助けられています。素敵な妹君をお持ちでラハイアーさんは幸せですね」
「あ、はっ、はいっ! 俺、あ、わ、私にはもったいない妹で!」
「か、カテリーネ様に兄さんまで突然何を……!」
誉められだしたのにびっくりしたのか、ユッタが顔を赤くしながら慌てて近づいてくる。
おれは本心を言っただけなのにな~?
ラハイアーも嘘は言ってなさそうだしさ。
「本当のことをお話ししただけですよ。ユッタさんは自信を持ってください」
「カテリーネ様っ、で、でも、あたし……!」
のぼせた時のような様子でもじもじとし始めたユッタを可愛いなぁと見守っていたら、ラハイアーはいつの間にか少し思い詰めた表情をしていた。
おん? どうしたんだ?
「ラハイアーさん? どうかされましたか?」
「いっ、いえ! お、わ、私は! 問題ございません!!」
ラハイアーはひっくり返った声のまま、静かにこちらを見守っていたヴァルムントくんを再びチラチラと見始めた。
う、う〜ん……。完全にヴァルムントくんに暴露か何かされないか恐れてる……。
そんな人じゃないんだけどなぁと内心苦笑いしつつ、話しかけるのを継続した。
「ヴァルムント様とはどのようなお話をされているのでしょうか?」
「えっ、あ、あ……、つ、強さ……ですね」
「強さ、ですか」
それ一辺倒しか話してないんじゃないんだろうな?
疑問に思ってチラッとヴァルムントくんを見るが、特に変だと思っていなさそうだった。
う〜ん? と思いつつも、ラハイアーへと問いかけていく。
「わたくしはヴァルムント様が一番強い方だと思っております。ラハイアーさんは何が一番強いと思っていらっしゃるのですか?」
「……ヴァルムント様が? ええと、お、俺は……」
何故かラハイアーは意外なことを言われたと言わんばかりの反応を返した。
ヴァルムントくんは強いじゃろがい! コラッ!!
別に贔屓目とかでもなんでもなく本心で言ってるんだからな!
ヴァルムントくんより詐欺師の方が一番強いと思ってんのか、あぁん!?
と、謎に喧嘩腰になっていたら、朝一の目的地に到着したらしい。
澄み渡る冷たい空気が強くなっており、激しく流れていく水の音が辺りに響き渡っている。
そう、いつもおれが滝行をしていた場所に着いたのだ。
了承したとはいえ微妙に納得はいっていないのか、ヴァルムントが僅かに目を細めながらおれに問いかけてくる。
「……カテリーネ様、本当にされるのでしょうか?」
「はい。わたくしの心が乱れているが故に魘されていたのかもしれません。心身の穢れを祓い、精神統一を図る為にも滝行を行いたいのです」
そりゃ滝行なんて意味ねーなーって思ってはいた。
けど今ヴァルムントに負担をかけている以上、試せることは試したかったんだ。
こういうのってその時の気の持ちようだったりするじゃん?
だから今なら効いたりするんじゃないかって思ってさ。
最後まで揺るがないおれの意思に、ヴァルムントは渋々ながらも頷いてくれたのだった。
……おれがついでに揶揄うつもりだとも知らずに。




