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大半の兵士さん達は外でテントを張っての寝泊りになる一方で、おれやヴァルムントは元々おれが住んでた家で寝泊りすることになった。
婆様の部屋と客用の部屋は駐在の兵士さんが使っていたけど、おれの部屋は使われずに村の女性陣が掃除して保持してくれていたらしい。
気にしなくてよかったのにな~、難しいなぁ。
気持ち的に使いにくいのは分かるよ、うん。
おれの部屋に入ってみると、マジでおれが出ていった当初のままだった。
そこそこの広さがある割にあんまり物のない部屋だ。
料理が趣味と化してたから台所に物が多くて、こっちはほぼほぼ寝るだけの場所だったんだよな〜。
そしておれの部屋に荷物が置かれていくと同時に、ヴァルムントが使うベッドも兵士さん達によって運び込まれてくる。
「あの……」
「どうされましたか、カテリーネ様」
「……いえ、なんでもないです」
……村のみんなにこのこと話さないよね? ね、ね!?
って確認したかったけど口を噤んだ。
わ、わざわざ聞くのもどうかなーって思っちゃったんだ……。
とにかく、絶対に知られたら「あらあらまぁまぁお熱いことで」って揶揄われるのが目に見えている。
一人でも知られたら全員に知られる村の拡散力舐めんなよ!!
あんまり知らない人達ならまだしも、村のみんなに知られるのは本当に嫌すぎる……。
おれはお清楚なんだぞ! お清楚で村でも通ってたんだぞ!! うわーん!
それはそれとして、村に滞在するのは大体三日くらいの予定だ。
祠の調査に加えて周辺も見て回ることになっている。
要するにおれが行ったことのある場所には行く感じ。
もうこれ以上見る場所がないな〜ってなったら終わりになる。
まー、おれ次第になるから『村にもうちょっといたいってのもあり』ってさり気なくお兄様から示されたりはした。
でも一人でここまで来た訳じゃないから、おれの都合で延長するのもな。
今のおれはオプファン村にいた巫女のカテリーネじゃない。
お兄様の妹であり、皇女であるカテリーネだ。
だからちゃんとみんなのことを考えて行動するのを心掛けないといけないんだよね。
ある程度部屋で休憩だったり準備だったりが終わって夕食の時間になると、みんなで外へと出ていく。
おれとラドおじさまが帰ってきたということで、村の全員が広場に集まっての食事会となったのだ。
護衛とか食事とか色々兵士さんや侍女さん達に負担をかけてしまうけれども、こうして村に帰れるのは最後かもしれないので無理を言う形になった。
みんないい人たちだから大丈夫って言ってくれたけども、言った通り迷惑かけちゃうのがな〜。
そこのバランス難しいわ……。
外に出された椅子やら木箱やらに各々座り、テーブルやデカい箱に料理を置いて各々食べていく。
おれとヴァルムントは椅子に座って、兵士さんか侍女さんが確認をしてから持ってくる料理を口にする。
あっ、これはハーンさん作の鳥のハーブ焼きだ!
程よい柔らかさに香辛料が効いててたまらないんだよな〜! あ〜懐かし懐かし、幸せ〜!
この味はここにしかないんだよ〜!
ちなみにヴァルムントくんは静かに食事をしている。
いつでもお行儀が良い……。
「カテリーネちゃん! 久々の俺の料理はどうだい?」
「ハーンおじさま! とっても美味しいです! ハーブ焼きはハーンおじさまの料理が一番です!」
「ははっ、相変わらず嬉しいことを言ってくれるねぇ〜!」
こんな感じで入れ替わり立ち替わりの会話が起こり、おれは村の人達と楽しく会話をした。
時折だるい親戚みたいなからかいもあったけれど、それもまぁご愛敬ってことで。
美味しく楽しく食事を済ませた後は、早々に風呂へと入って就寝の準備をしていく。
流石に一旦旅が終わりってことでドッと疲れが来ちゃったんだわ。
慣れ親しんだ場所だから気が抜けたってのもありそう。
侍女さん達によるおれへのケア諸々が終わって寝る準備ができ、侍女さん達と入れ替わりでヴァルムントくんが部屋に入ってくる。
明かりを消してさぁ寝ようって時に、ヴァルムントくんが少し戸惑ったような面持ちで話しかけてきた。
「……あの、カテリーネ様」
「はい、なんでしょうか?」
「……カテリーネ様はこちらが一番、……いえ、なんでもございません。ご放念ください」
そのままヴァルムントくんはベッドへ歩いて行って寝ようとする。
コラコラ待ちなさい待ちなさい! 流石に今のは分かるわ!
おれがすっごい楽しそうにしてたから、「ここにずっといたいのかなぁ」みたいなことを思ったんでしょ!
ちゃんと城に帰るって決めてるのにどうしてそんな勘違いを……、ってアレか。
言葉にして伝えてなかったような……。
おれはヴァルムントのベッドへ歩いていき、ヴァルムントが寝る為にベッドへ潜り込もうとするのを抱き着いて阻止をした。
「カテリーネ様!?」
「ここはわたくしの故郷です。こうして村の人達と久々にお話ができて、とても嬉しかったのも事実です。ですが、今のわたくしが帰るべき場所はお兄様の下であり、ヴァルムント様がいる場所です。心配なさらないでください」
ヴァルムントくんが食事の時に静かなのはいつも通りだけれど、今回は不安にだったからなんだな。
気づいてあげられなくてごめんよ~。
ヴァルムントくんの身体を手でとんとんとすると、ゆるやかにヴァルムントの手が伸びて抱きしめ返される。
おれに気を遣った加減ではあるものの、抱きしめる力は結構な力が入っていた。
「……私は、貴女の幸せが一番です。なのに私は愚かにも、貴女へ笑顔をもたらしている村の人々に嫉妬を抱きました」
「嫉妬してくださったのですか? ふふふ、嬉しいです」
ヴァルムントくんが嫉妬!? 嫉妬するんだ……!?
村にいるのが一番いいのでは……とか考えたんじゃなくて、嫉妬!!
へ、へへ、なんかすごく嬉しいな~。へへへへ。
まぁ〜ったくもうしょうがないな〜!!
おれは抱きつくのをやめて少し離れ、ヴァルムントくんの顔を見つめる。
自分が情けない……ってしょんぼりしている顔だった。
「わたくしが恋人として愛しているのはヴァルムント様だけですのに」
ふふっと笑いながら、おれはヴァルムントくんの頬にチュッとしてあげた。
……あ〜、流石にこれ以上は恥ずかしくなってきたので退散退散!!
笑顔で誤魔化しながら退き、「おやすみなさい」と言いながら自分のベッドへと潜り込む。
離れた時のヴァルムントくんの顔は、目を見開きながら頬を赤く染めていたのだった。




