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おれって、いつになったらヴァルムントくんに翻弄されなくなんの?
そうやって魂抜けた状態のまま、ベッドの上でぼやけてた。
あ、あっ、あんなの!
ああああああ、あんなの、普通キスされるかと思っちゃうじゃん!
顎に手を添えてきて唇の端を親指で、触ってきて……。
ゆ、指の、親指の、かっ、感触が、そのっ、あ、あ、あの……。
……そっ、そんなことされたら、み、みみみ、身構えちゃうに決まってるじゃんかぁ!!
ああああああ〜〜〜〜くっそ〜〜〜〜! 許せなくなってきた!
このおれを弄びやがって〜〜〜〜っ!
も~やられっぱなしなのは嫌だ!!
なんでおればっかり弄ばれてんの? 今までおれが揶揄っていたヴァルムントくんはどこ!?
ぜ~~~~ったい揶揄ってやる! 徹底的におれが優位をとっていく!
あ、寝る時に攻めていくのはなし。
ヴァルムントは気を張ってるし疲れてるのに、余計な負担はかけられない。
戦う人って基本は何か異変を感じ取ったら起きるようにしてるらしいんだけど、旅中はもっと感覚を研ぎ澄ませてるんだってカールさんから聞いた。
だから村に行ったら覚えてろよ〜! お前にアレが効くことは分かってるんだからな!
今までおれが弄ばれた分をそっくりそのまま返してやる!
慌てさせて顔真っ赤にさせて、しどろもどろにさせてやるんだからな~っ! 見てろ!!
「カテリーネ様、よろしいでしょうか?」
「は、はい」
そうやっておれが気合を入れ直していたら扉の外からノックと共に声がかかり、朝の支度をしにきた侍女さん達が入ってくる。
興奮していた精神を息を吐くことで整え、さっさとベッドから抜け出していった。
◆
よっこらよっこらと馬車で移動する日がやっと区切りを迎える。
今日の夕方頃にはオプファン村に到着すると、朝の出発前に伝えられた。
おれが魘されたり不審な焼け野原があって迂回や警戒があったとはいえ、大体予想通りの日程だ。
みんな元気にしてるかな〜。
ベアニーおばさまは相変わらずそう。レンケさん、また怪我してないかなぁ。
デルマさんは腰痛めてないよね? シュードさんは相変わらず奥さんとラブラブしてるはず。
あれこれ考えると止まらなくなって、早く村にい行きたいな〜って気持ちがいっぱい出てきた。
婆様がアレだったからか村の人達には本当に良くしてもらったのもあるし、ちゃんとお礼を言いたい。
今のおれが帰る場所はお兄様のいる場所であり、……ヴァルムントがいる場所だからさ。
しっかり言うことは言わないとね!
そうやって村のことを考えていたら、おれの向かい側に座っているルチェッテが恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
「あの……、カテリーネさん」
「どうされましたか?」
「気分は大丈夫かなって思って」
考え事をしていてぼーっとしたせいか、心配をかけてしまったっぽい。
ルチェッテの隣にいるユッタもしょぼんとした顔をしていた。
ごめんごめん違う違う! 黒龍関連で心悩ませてるとかじゃないから!
安心させる為に、笑顔で本当に思っていたことを口にしていく。
「村の方々が怪我をなさっていないか、お元気かどうかと考えていたのです。ですからわたくしは大丈夫ですよ、心配をかけてごめんなさい」
「そ、そんな謝らないでください! 村の人たちがどうなっているのかは知りたいですもんね。わたしも街の皆はどうしてるのかなーって思うんで分かります!」
ルチェッテの街は燃やされて多数の犠牲が発生してしまうものの、後に少しずつ復興していく様がゲームで描かれていた。
多分おれの村は誰も死んでないし、そことおれの村を比べるのは違うのでは!?
ジジババ多いけど元気な人が多いんだよね~。
とはいえ共感しようとしてくれているのには違いないので、気持ちはちゃんと受け取っておく。
「理解してくださりありがとうございます。……そういえば、ユッタさんに伺いたいことがあります」
「は、はい! なんでしょうか……?」
ユッタはおれから突然話が振られて、ちょっと体をびくっとさせながら返事をした。
これ以上同じ内容で話ができないと思って、急に話を転換させてごめんよ。
聞きたいことがあるのは本当だからさぁ!
「お兄さんのご様子はどうでしょうか? ヴァルムント様は『それなりに話せるようにはなった』と仰っていたのですが……」
ぶっちゃけ疑問だ。
外から見てる限りは、多少なりともラハイアーがヴァルムントに慣れてきたんじゃないかなって感じ。
ただ『そう見えている』だけで実際は……ってことあるからね。
ヴァルムントくんの認識的には進んでるっぽいけどさ、どうやっても齟齬がでたりする。
こういうのは身内から聞くのが一番!
「……兄さんは、ええっと……、その……」
ゆっくり目線が下がっていき、超気まずそうな様子に変わった。あっ……。
ヴァルムントくん認識ずれてるよ! ずれてますよ~!
「困ってい……じゃなくて! その、今まで元帥のような人と一緒にいるのは少なかったので、どうしたらいいのか分からなくなっているみたいなんです!」
「そうでしたか。ヴァルムント様は誠実なお方ですので、そうであると分かっていただければ良いのですが……」
困ってんじゃねーか。
まー、ラハイアーみたいなタイプはそもそもヴァルムントくんみたいな人の前に出されないもんな……。
これどうしてあげるのが正解なんだろ。
そうしているうちに休憩で馬車が止まったので、一旦馬車から降りることにした。
ずっと座りっぱだから体が凝り固まってやべーのよ。
おれがリラックスできるよう侍女さん達が動きだし、荷物を取りにかユッタが結構離れていく。
いいタイミングかもと思って、ヴァルムントくんをよく理解してそうなカールさんとゲオフさんに軽く状況を説明して聞いてみることにした。
ちなみにラドおじさまは、村付近を理解している人間ということで今は先頭集団に混ざってる。
「どうしたらいい……、ですか?」
妙にゲオフさんの顔が硬い。
逆にどうしたってなってたら、カールさんが取り繕うように声を出した。
「あ~、……あ~。ヴァルムント様にもああいう経験が必要やと思います~。ほっとくのが一番です~」
それでいいのかカールさん。
納得いってなさそうなゲオフさんが眉間に皺を超超寄せて苦言を呈した。
「ヴァルムント様は一番の簡単な解決方法を忘れています。例えお立場があると言えども、これに勝るものはありません。なによりもヴァルムント様自身が、」
「こ~~~~らゲオフ! ちょっとこっちきいや!」
カールさんがゲオフさんの肩をがっちり掴んで足早に離れていってしまった。
マジで何……。あんな風に主張するゲオフさん見たことないんだけど。
カールさんは何度かゲオフさんを小突きながらの言い聞かせをしているっぽい。
それが終わった後にすすすっと二人ともおれの下へ戻ってきた。
「失礼しました~。大丈夫です、どうにかなります~」
「……はい、大丈夫です」
ゲオフさんは微妙に納得いってなさそうな雰囲気はあるものの、おれの前だからか表面上は納得している感じできた。
多分おれに聞かせたくないから止めたんだろうな~、超聞きたいなぁ~!?
内心しくしくしながらも、どう頑張っても聞けないことを悟って誤魔化されておくのであった……。




