XIV
夢を見た。
曖昧な光景しか記憶に残らないが、後悔に塗れたものだった。
夢の中は焼け爛れた地平が広がっており、男性と思しき影が2つ揺らめいている。
片方は恐らく膝をついて俯き、一方は立った状態で空を見上げている体勢に見えた。
前者が大きく拳を振り上げて地面へ自暴自棄に叩きつけていく。
『俺が、俺達ができていれば済んだ────んだ』
『────、やめろ。お前達の責任じゃない。これは私の────』
『だが────が──になる必要はなかった! なかったんだ……』
どうすることもできなかった辛さの籠った声は、嫌に私の心へと響いていく。
争いの場に身を置いている以上、過剰に同情をするのは避けるべき行為だと理解している。
だというのに、やけに引っ張られてしまう自分がいた。
『俺達は────の為に──を賜った。それができずに何が────だ』
『違う。お前達がいたからこそできたことだ。自分を責めるな』
『一番責めているのは、悲しんでいるのはお前だろう! だから、俺はっ……!』
声が明瞭になっていく代わりに、見ている光景は徐々に薄くなっていく。
朧げになる中で、上を向き続けていた人物が静かに首を下げたのが見えた。
『私は沢山の犠牲を生み出した。その責任をとるべき者が、自分の感情に囚われている訳にはいかないんだ』
表情は見えないというのに、悲しく笑う顔が見えた気がした。
意識が現実へと戻っていき、完全に目を覚ますべく何度か瞬きをする。
椅子に座って寝ていた為、凝り固まった体を解すべく静かに立ち上がった。
この小さな室内は私とベッドで就寝されているカテリーネ様だけだ。
周辺に兵達が警備している気配を感じるものの、鳥の鳴き声だけが響く静かな朝を迎えていた。
軽く関節を回して心身の澱みを晴らし、目の周辺を揉みほぐしていく。
──あの夢は、一体何なのだろうか。
カテリーネ様と同じ場所で眠った初日から見た夢だ。
別々で眠った時には見ず、再び共にしてから再度見始めた。
カテリーネ様が魘されていた原因が私へ移動をし、夢を見せているのだろうか?
夢の内容は全く身に覚えがなく、その場についても手掛かりとなるものはなにもない。
……強いて言えば、理解できるのは『感情』だけだった。
そして、カテリーネ様が見ていた夢とは違う内容であることは確かだ。
近辺で待機しているはずのゲオフやカールから何も言われていない以上、私が魘されている声を上げていないと思われる。
現状は特に害という害もない為、カテリーネ様が魘されてしまわれるよりも、私が不可思議な夢を見ていた方がいい。
穏やかに眠るカテリーネ様を見る。
魘されることなく、健康的な顔色で静かに呼吸を繰り返すカテリーネ様に安堵の気持ちが湧き上がってきた。
私が護るべきお方。私が護りたいお方。
日頃から私のことを気遣い、励ましてくれることに幸せを感じている。
その眩い笑顔が力になっている。
恥じらいながらも懸命に伝えようとするお姿が、愛らしいと思っている。
だからこそ、私はカテリーネ様に幸せであってほしいのだ。
しばし見つめていると、カテリーネ様の口の端にご自身の髪の毛がついてしまっているのに気がついた。
思わず取ろうと顔へ手が伸びてしまったが、意識のない状態のカテリーネ様にすべきことではなく、急いで手を引っ込め自分を戒める。
近頃の行き過ぎた自身の行為を反省しながら椅子に座りなおし、カテリーネ様が起きられるのを待つ。
……静かだ。
もう間もなくすれば、この村の住人達に侍女と大半の兵達が起きて活動をし始める。
今は静かな空間も、侍女達によって華やかなものになっていくはずだ。
私も部屋から出て行き、兵達に指示をしながら多少は落ち着いてきたラハイアーと話をしていくことになる。
道中にあった、不自然に焼き払った者に対しても警戒を進めなければならない。
そしてオプファン村に到着するまで残り僅かであり、帰還する日にちを考慮しても、この時間を過ごせる日々は多くない状態だ。
ゲンブルク滞在時も似たようなことをしたが、様々な意味合いで気が気でなく落ち着く暇もなかった。
ただ穏やかに時が流れていくこの空間に、安らぎを覚えている。
今後も柔らかな時間が過ごせるように努めていかなければならない。
改めてカテリーネ様の前で一層気を引き締めつつ、間もなくカテリーネ様が起きる気配を感じて立ち上がる。
カテリーネ様は瞼をおもむろに開いたが、夢うつつといった状態だった。
あどけなさを感じる表情に心を揺さぶられながらも、頭に響かないよう小声で挨拶をする。
「おはようございます、カテリーネ様」
「……おはよう、ござい、ます」
緩やかにカテリーネ様が体を起こしていったが、髪の毛はまだ口元についたままだった。
気が付かれていないご様子だったので、片膝をつき目線を合わせてから指摘をしようとした……のだが、直前になって指摘をするのは失礼にあたるのではと思い留まる。
カール辺りに、女性に直接指摘をするのはよろしくない行為だと言われた記憶が蘇ってきたのだ。
このままなにもしないというのも手ではあるが、突然片膝をついた行為を不自然に思われてしまうだろう。
後々侍女に指摘をされて恥ずかしい思いをされてしまうかもしれない。
そう考えると、今の私にできることは一つ。
髪の毛のついている口元へ右手を伸ばし、顎に手を添えて親指で髪の毛を拭った。
カテリーネ様が私の行為に驚かれて目を見開いているが、髪の毛を拭ったことは気が付かれていないようだ。
「ヴァ、ヴァルムント様……!?」
「夢は見られましたか?」
「え、……い、いえ。特に何も見ておりません」
「そうでしたか、良かった」
笑みを返してから立ち上がる。
そろそろ行かなければ進行に支障が出てしまうはずだ。
「ではカテリーネ様、また後程」
「え、ええ」
何故かカテリーネ様からぎこちない笑みを返されながらも、私は部屋をでていくのであった。




