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十二話


「ナッハ」

「あ? んだよセベ」


 帝都への進軍をするには緑翼将軍が構える砦を攻略しなきゃなんねえ。

 この大きな障害に対して不意をつくのに、凶悪な魔物が巣くって放置されてる洞窟を攻略することとなった。

 この洞窟の先は砦横の森へと繋がっているらしい。

 近くの村人が「かつて通路として使っていた」という言い伝えだけが証拠だから、本当かどうか怪しいところがある。

 もし繋がっていなくとも、魔物に脅かされているこの村から協力を得られるという『得』があるからとセベが推し進め、ヘルトも村を救えるならと賛同をした。


 洞窟に入る前に準備をすべく、俺は村中の適当なところに座って剣の点検をしていたところにセベが話しかけてくる。

 さっきまでヘルトとルチェッテに、色々あって今回一緒に行く事になったゴクトー出身らしい記憶喪失の自称ニンジャのイットー、魔術研究者を名乗る男ブレンと話していた場所から歩いてきたようだ。


「……聞いてる?」

「何がだよ」

「ああよかった、聞いてないならいいんだ〜」


 ヘラっと笑って誤魔化してくる面にイラっときたが、いつものことだと舌打ちをしつつも気持ちを抑える。


「毎度のことだがやめろよ、それ」

「ええ〜いいじゃんオレとナッハの仲なんだしさ!」

「臭え」

「ひどいなぁナッハってば。あ〜はいはい、分かった分かった。怒んないで」


 俺の手が拳を作ったのを見て、セベは両手を軽く上げてからその手を腰に当てて話を進めた。


「ヘルト達に聞かれるのはまずいから、ちょっとあっちに行こう」


 剣を持ったまま立ち上がり村を囲う柵あたりまで歩くと、セベは辺りに人がいないことを確認してから口を開く。


「ちゃんと情報統制が効いてるんだなってさ。拠点にさ〜、暗殺者が来たんだよね。ま、拠点にいる人が侵入に気がついてくれたおかげで迅速に対処できたんだけど。気付かれなくてもラドさんに殴り殺されてただろうね!」

「ハァ!?」


 そんなことは全く聞いていない。

 どういうことだとセベに詰め寄ると、セベは落ち着いて落ち着いてと言いながら続きを話した。


「ヘルトには今こっちの事に集中してもらいたいからさ、秘密にしてるんだよ」

「てめえの言いたいことは分かるが、それじゃあ本人が警戒もなにもできねえだろ」

「ああ、ごめん違う違う。暗殺者の対象はヘルトじゃないんだ。カテリーネちゃんの方」

「……ああ?」


 カテリーネ。

 ヘルトとラドさんが住んでいた村にいた巫女さんで、悲劇がお似合いになってしまった少女だ。

 嬢ちゃんが目覚めたはいいものの、死ぬまでが儀式の完遂だの言い出してヘルトやラドさんを絶望させたんだよな。

 それからヘルトはなんとか立ち直ったし、ラドさんは嬢ちゃんの意識を改善させようとつきっきりで側にいるようになった。

 嬢ちゃんはそこそこ回復はして医務室じゃない普通の個室に移ったんだが、体が弱ったままで大半が寝たきりで医者が定期的に見るようになってる。

 飯についてはちゃんと食べるのが幸いってところだ。

 いつもぼーっとして話しかけても上の空でいることが多く、ヘルトもラドさんもルチェッテも困り果てている。

 境遇を考えると仕方ねーんだろうけど、ヘルトやラドさん達の気力が下がっちまうから早いとこ回復して欲しいんだが……。

 気の毒には思うが俺は何もできねえし、こればっかりは本人と仲良いやつらでどうにかしてもらうしかねえ。


 しかし、なんでそんな嬢ちゃん相手に暗殺者なんて仕向けられてんだ?

 言い方は悪いが、嬢ちゃんはいつでも死にそうな風貌になっちまってるし、まともな体じゃねえのに気が付いたらフラッとどっか行ってて探されたりしてる。そんなんだからほっといたら死にに行きそうまであるってのに。


「おかしいだろ? どーして嬢ちゃんにそんなのが来るんだよ。黒龍は死んでるし、こっちも黒龍について言い回ってる訳でもねえのに」


 当初の目的の1つであった黒龍については取りやめになった。

 黒龍は死んだ上に、殺したのはヴァルムントの野郎だ。

 こんな結果じゃ帝国側を追い詰める為のモノになんねえってことで、表面上は何もなかったことになってる。

 だからわざわざ嬢ちゃんを殺す必要はねえし、黒龍についての事実を口封じするには俺らも狙われてねえとおかしい。

 ……ってなると、嬢ちゃんになんかあんのか?


「う〜ん。まだハッキリとは分かってないんだよね〜。これかなって候補はなくはないんだけど」

「ハッキリしろ」

「調べ中だからさ〜。確定してないのをオレ、言いたくないんだよねえ」


 またこれか……。秘密主義も大概にしろよな。

 顔を顰めて睨むが、セベは飄々顔で受け流してきた。


「あとラドさんは知ってるよ。そもそも暗殺者を対処した1人だし。多分カテリーネちゃん寝てたとはいえ、個室前でやり合っちゃったからすんごい気にしてて、警護に人一倍力を入れるって。そもそも侵入されてること自体やばいからこっちの方でも力は入れるさ、勿論」

「そりゃあ当たり前だろ。それに、今はラドさんが嬢ちゃんの保護者みてえなもんだ。心配して力むのも当然だ」

「そういう訳だからさ〜、ナッハの方でできるだけカテリーネちゃんを狙うのが何なのかさりげな〜く探るのと、ヘルト達には知られないように頑張って欲しいんだよね〜」

「無茶言うな」


 俺はそんな器用な真似はできねえ。

 できないことを分かってるくせに、なんでコイツは毎回毎回こう言ってくんだ。


「オレはナッハの事をいっちばん信頼してるからさ〜、頼むよ〜」

「気色悪い声で言うんじゃねえよ……」


 そもそも俺を一番信頼してるとか言うこと自体が怪しすぎる。

 コイツの腕も、コイツが帝国を崩してやりたいって気持ちも嘘じゃねえし信用してるが、こういうところは気に食わねえんだよな……。

 まどろっこしい仮面被って言いやがって。相変わらずかったるい野郎だ。


「あ〜分かった分かった。なんかあったらお前に言うし、やばそうならどうにかする。それでいいんだろ」


 ヘルトに余計なことを考えさせたくねえからな。


「うんうんそれでいい! 流石ナッハ、頼りになる!」


 クソみてえな笑顔を浮かべて、じゃあよろしくねと言いながらセベは指示出ししようと村の中へと戻っていった。

 アイツと出会った当初はずっと帝国への憎しみで燃えてた顔だったから、それよりはマシだ。

 だがな、これはこれで苛つくんだよ。処世術ってやつなんだろうけどよ、加減ってもんがあんだろ。


 俺はため息をつきながら、村に入って適当な場所に座りさっきの続きを始めた。


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