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侍女は見ている

カテリーネの侍女さん達の一人であるシアナ視点。

※なお本編では変わらず名前は出ません


 今日もカテリーネ様はカーテン越しに差す陽の光の如く、控えめな輝きを放っている。

 色の異なる双眼も一本一本煌めく髪の毛も薄く透き通った肌も小さく艶やかな唇も、何もかもがお美しい。

 私の平凡な茶髪に茶色の目とは大違いだ。

 朝から侍女総出で椅子に座っているカテリーネ様のお支度をしながら、しみじみと私はそう思った。


 本日のカテリーネ様は午前中から慰問として城下町の病院に向かわれる。

 部屋へ入ってきた護衛と共にカテリーネ様が部屋から出ていき、お付きの侍女としてリージーさんとユッタ、実は女騎士であるグネルも出て行って私達3人だけの空間となった。

 私はお見送りの為に下げていた顔を上げて、先程の光景を噛み締めながら息をつく。


「はぁ……。今日もカテリーネ様はお美しい……」


 頬に片手を添えて恍惚としていると、完全にカテリーネ様達が去ったと判断して、引っ詰めた紫髪をしているイーリッカが機敏に動き始めた。


「シアナ、いいから体を動かして。レニャ! 貴女は服をいじらないで先に片付け!」

「はぁい」


 緩やかな返事をしたのはレニャだ。

 蜂蜜色の緩やかな髪の毛を持った彼女は、真っ先に衣服へと向かって行こうとしていたのをイーリッカに止められ部屋の外へと掃除用具を取りに行く。

 一方の私はカテリーネ様の美しさの余韻に浸りたくて思わず愚痴を溢した。


「イーリッカ、どうしてわかってくれないの。カテリーネ様のお美しさは堪らないものでしょう? 素晴らしさに酔いしれる時間は必要なのよ」

「カテリーネ様がお美しくて優しいのは当たり前でしょう! 私だって分かっているわ! 貴女が慣れていないだけよ!」

「日々カテリーネ様のお美しさは変わっていくというのに……?」

「……本当に貴女のそういうところ、訳が分からないわ」


 こちらとしては何故分かってくれないのか分からない。


「リージーさんは分かって下さるのに……」


 肩を落として嘆いていると、いつの間にか戻ってきたレニャが自分が使用する用具以外を端においてからこっちを見てきた。


「シアナって結構リージーさんに似てきたよね〜。カテリーネ様がお幸せであればいいっていうか」

「だってカテリーネ様は素晴らしいんですもの。このお方にお仕えできて幸せでないとは言えないわ」


 お優しいのは勿論のこと、美術品だと見紛う美しさをお持ちだ。

 しかし美術品とは違い生きていらっしゃるからこそ、その美しさは磨きがかかっていっている。

 陛下やヴァルムント様、私達や市井の者に対しても慈悲の心を持って接していただけているこの幸運を今噛み締めないでいつ噛み締めるというのか。

 両手を擦り合わせて幸せに浸っていると、イーリッカが洗濯に持っていく布を渡してきた。


「私だって部屋も汚さない大人しいカテリーネ様にお仕えできているのは、大変な幸運だと思っているわ。……自ら料理されるのだけは控えていただきたいけれど」


 イーリッカは頭がおかしいと言われる程に綺麗好きで、貴族に仕える者としては正しい行動をし重宝もされていた。

 とはいえ同僚となる人からは煙たがられていて、かなり生きにくかったらしい。

 皇族たるカテリーネ様にお仕えすることが決まって、イーリッカ基準が常に求められる場所となり生きやすくなったと語っていた。


「料理についてはわたしも賛成〜。いくら最近はお着替えされるとはいえ、お洋服に臭いがついちゃうし……。カテリーネ様にはいつでも素敵でいてもらいたいし〜」


 レニャは主にカテリーネ様を着飾る担当をしている。

 カテリーネ様を最も美しくすることを信条とし、文字通り心血を注いでいた。

 全員が全員カテリーネ様を綺麗にすると心から思ってるが、レニャには人一倍の想いがある。

 だからこそリージーさんのお眼鏡に適ってカテリーネ様の下で働いていた。

 でも、今の発言はいただけない。


「ちょっと、料理はカテリーネ様と陛下がなさる数少ない我儘よ? そのまま対応するのが私達の役目でしょう」

「レニャも私も分かっているわ。カテリーネ様方には絶対に言わないし、それはそれとしての話をしただけ。そもそも他のお貴族様と比べたら全然問題ないわよ」


 言っていた通りレニャも同じなのか、箒を持ちながら「そうそう〜」と言っている。

 ……理解しているなら問題ない。

 私は首を縦に揺らしてから、他の洗濯物の回収に入っていった。


 それぞれ色々と思うところはあれども、皆カテリーネ様が常に快適で過ごせる環境を保つ為に仕事を一生懸命こなしている。

 そんな私達には実質特等席での観覧ができる楽しみが存在していた。

 今日の夕方にも、必死で顔のにやけを抑えなければならないその楽しみがやってきたのである……。



 ◆



 日が沈む頃合いに慰問が終了し、帰ってこられたカテリーネ様に入浴していただき夕食に向けての支度をする。

 お風呂の中でも基本目を瞑られており可愛くて仕方がない。

 終わって風呂場を出ても体温が上昇したままで、熱った頬がとても愛らしかった。

 ソファに座ったカテリーネ様の髪の毛を風魔法で乾かし、身体中にクリームを塗りたくり、カテリーネ様を万全の状態に仕上げていく。

 我々の邪魔をしまいと、目を瞑り動かないのを心掛けていらっしゃるのも可愛くて仕方がない。

 毎回同じ反応をされているが何度でも見られる。

 カテリーネ様の健気さに心の中で微笑んでいたら、扉をノックする音が室内に響いた。

 ユッタが対応に向かい扉の先と会話をすると、振り返ってカテリーネ様に確認の声を上げる。


「カテリーネ様、ヴァルムント様がいらっしゃいました」

「ヴァルムント様……!?」


 瞬く間にカテリーネ様の頬が、暖かさからくるものではない体温の上昇変化をしていく。

 完全に恋する可愛らしい乙女となられ、私のときめきが止まらくなってくる。

 絶対にお会いになると分かっていた私達侍女は、すぐさま丁寧に丁寧にしていた対応を手早く綺麗に終わらせていく。

 そうしてリージーさんが「終わりましたので大丈夫ですよ」と声をかけると、カテリーネ様は両手を絡ませた後ユッタにゆっくりと頷きを返した。


 私達が部屋の端に移動していくと、入り口からヴァルムント様が入室してくる。

 元帥になられることが決まり、元々お忙しい身が更に忙しくなられたというのに、城に来るたび必ずカテリーネ様に会いに来られていた。

 カテリーネ様も最初こそ忙しいのだからと遠慮されていたのだけれど、ヴァルムント様の押しに負けて素直に応じている。

 ……そう、最近のヴァルムント様はとても押しが強くなっていた。

 今まではどちらかというとカテリーネ様がいじらしい頑張りを見せていらしたのに、ここに来てヴァルムント様の追い上げが激しくなっている。

 ここまで細やかな変化を見られるのは私達侍女くらいのはずなので、特等席であると言っても過言ではないはず。

 純粋すぎてよく状況を理解していないユッタ以外の全員はうっすら微笑みつつ、侍女全員ヴァルムント様と入れ替わりで退出をしていく。


「あ、あの、ヴァルムント様……!」

「駄目、でしょうか」


 後ろでヴァルムント様がカテリーネ様の近くに座り、カテリーネ様に何かをしていらっしゃるのが聞こえる。

 振り返りたい、振り返りたい!!

 体の衝動を懸命に抑えながらひたすらに体を動かす。

 そうして扉をくぐり部屋の外へと扉が閉まる瞬間、カテリーネ様の恥じらいつつもしっかりと伝えようと張った声が聞こえた。


「い、いえ。駄目ではございません……」


 見たいと主張する激しい感情を、二人の邪魔をしてはいけないという気持ちで抑え込み扉を閉める。

 一仕事をしたと息を吐くと、皆と目合わせをしてから廊下の端により会話を始めた。


「カテリーネ様可愛すぎますっ……!」

「ヴァルムント様を見た瞬間のお顔を見ましたか!?」

「微笑ましすぎてどうにかなりそう……」


 困り顔のユッタと護衛を他所に、ヴァルムント様が出てくるまで私達は興奮して話し合いを続けるのだった。


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