一緒に歩み続けるということ
大会の日が終わった翌日。
夕方におれの部屋にて、改めて状況の整理と相談をすることにした。
ヴァルムントにはエイデクゥの処理対応などで忙しい合間を縫って来てもらい、二人っきりの状況でソファに座りながら話をしていく。
「まず私の体についてですが、ディートリッヒ様にはお話いたします。原因を究明するには、状況を説明しないと煩雑なことになります」
「はい、勿論です」
謎を解き明かす為に融通を利かせてもらわなきゃならないし、お兄様に話すのは当然ではある。
おれが頷いていると、若干言いにくそうにヴァルムントが言葉を続けた。
「それにディートリッヒ様は私の友であり、……義兄となられるのですから」
それお兄様に直接言ってあげたらめっちゃ喜ぶと思うんだけど、ヴァルムントは顔を斜め上に向けていて言う気がなさそうだった。
今更照れくさかったり……?
まあ気持ちは分からんでもないので突っ込まないであげた。
おれもちょっと恥ずかしい……。
そしてヴァルムントは咳払いをしてから意外なことを言い始める。
「ヘルトにも話をしておきたいのです」
「……ヘルトくんにも?」
なんでまたヘルトくんに? と首を傾げていたら、納得できる理由を話してくれた。
一緒に戦っていたので明らかに怪我の割に普通に動けていておかしいと気がついていたこと、本人から頼って欲しいと言われていたからだそうだ。
そりゃあヴァルムントがどういう怪我をしたのか見ていたら、怪我の具合は分かるし隠し通せないよね……。
……後者についてはさ、なんかすごい友情深まってない?
男と男で分かり合ってるの極まってるじゃん!
アイツになら俺の背中を任せられる……的な!
いいなぁ。おれだって、おれだってぇ……。
とまぁ、どうでもいいおれの気持ちは置いておいて。
結局、今のところ状況を話すのはお兄様とヘルトくんだけに決まった。
ゲンブルクの時みたいにカールさん達には話さないのは、知っておく人は最低限にしておきたいからだ。
あの時はおれ達だけじゃどうしようもなかったし、今回話さなかったとしても無理に聞いてこないはず。
その辺弁えてくれている人達だからね。
本当にどうしようもなくなったり、今後の予定次第では話すつもりではある。
どうやって謎を解き明かしていくかについてだけど、まず婆様について聞く。
それでいて、おれの故郷であるオプファン村になにかしら残っていないかとかの調査をお願いするつもりだ。
……お兄様や闇深軍師の方で、先に何かしらしてそうではある。
おれもヴァルムントも村まわりについて聞いてはいないので、色々確認してからかなぁ。
どの道、今の状況が落ち着いてから動く予定だ。
話し合いが終わり、そろそろ戻らなきゃいけないヴァルムントが席を立つ。
「では、カテリーネ様。この方針でよろしくお願いいたします」
「はい。……ヴァルムント様、お忙しいとは思いますがお気をつけて」
「無論です」
概ねの方針が決まってヴァルムントが部屋から出ていくと、リージーさん達が部屋へと戻ってくる。
その中にいるユッタは朝から浮かない顔をしたままだった。
「ユッタさん」
「……あっ、ご、ごめんなさいカテリーネ様! 私、な、何かしちゃいましたか!?」
「いいえ。ただユッタさんが気になって……。お兄さんのことが心配なのでしょう? 明日休んでも……」
「ダメです! いつ兄さんが元に戻るかも分からないですし、お仕事には関係ありませんから」
軽く事情を聴いたところ、昨日ラハイアーのいるところに辿り着いたはいいものの、どうしてそうなったのか事情は話してくれなかったらしい。
オシフさんから何か魔術をかけられたのかと聞いてはみたものの、それは否定されたという。
……ヴァルムントも魔術であることは否定しても何を言われたのかは濁してたから、プライドに引っかかる何かを言われた?
だからあんまり口にしたくなくって黙っているのかも。
オシフさんはここの兵士であり、特に悪いことをした訳じゃないし、精神攻撃だって戦術の一つではあるから咎めることはできない。
あんまり良い印象を持っていなくても、『何もしていない』人に対してできることは何もない以上、おれができるのはカールさん達にちょっと調べるのをお願いしますと言うことだけだった。
あー、あとそうそう。
後日ヘルトくん伝てで聞いたんだけど、ツィールは早々にイブラント国へと出発したらしい。
本人が言っていた通り、師匠の下で修行を成してから戻ってくるのだと。
大分お兄様がツィールにイライラしてたから、まさしく主人公! って人間になって戻ってきてほしい。
イブラント国で沢山の経験をしたからこそ、トラシク2時点で主人公たる人間になったんだろうなって今は思う。
すごい修行元で苦労してた描写があった……はず。うん。
おれは信じてるから! 信じてるからなツィール!
◆
大会から数日後。
快晴となった日に決勝戦の代わりとして、二人が討伐をした大型魔物であるエイデクゥを闘技場に展示することとなった。
何故展示をするのかというと、危険性の周知を徹底させる為、エイデクゥについての研究を進める為だ。
こういう大型魔物が現れたら逃げて国に報告してくださいね〜、というのを分かりやすくするのである。
どこから出現するかとかの情報も把握するのは重要なポイントだからね。
見られない人用に絵を描いて掲示も決まっていて、各地方にも掲示が決定していた。
でも実物見た方がすっごい記憶に残るじゃん? 脅威性だって滅茶苦茶伝わる。
帝国としては秘匿した方がよかったりする側面もあるとはいえ、それでも公開に踏み切ったのは「民の安全を守りますよ〜」というアピールでもあったり。
勿論展示だけでは終わらない。
大型魔物を討伐した功労者であるヴァルムントとヘルトくんに、本来大会で優勝した場合に贈られるものを贈呈する式がこれから行われるのだ。
討伐した成果がすぐ側にあり、尚且つそれを討伐したのは国のこの二人です! という分かりやすい図にもなる。
すごい盛り上がりになるし、これなら決勝戦が行われていないことに対しての不満の解消にもつながるって訳。
これを認めないって相当やばい人扱いになるしさ。
「カテリーネ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですお兄様」
午後イチにお兄様に連れられて再びきた闘技場は、大会の時と変わらず大盛況になっている。
下手したら大会の時よりも盛り上がってるかも……?
一階の待機場の窓からちらっと見えた客席は満員を超えていた。
危なくないか? 大丈夫か?
そのステージ上には頑張ってある程度解体して運んだらしいエイデクゥが運び込まれ、見学している客にその大きさをダイレクトに伝えている。
肉の部分は、ヴァルムントが内側から張ったという氷がついたままになっていた。
保存の為に氷の魔術師を動員させて維持させてるんだとか。
今も近くに魔術師の人が複数人待機していた。
展示が終わり次第、解凍して研究に回される。
ステージとなっている4分の3をエイデクゥが占めており、これでもかとデカさが伝わってきていた。
ゲンブルクで見たエイデクゥよりも黒いし大きいしで、ヤバすぎない……?
え? これヴァルムントとヘルトくんで討伐したの? マジ?
おれがあわあわしていたら時間となり、お兄様の後ろを歩いてステージへと向かう。
エイデクゥで占められていない面積部分で、ヴァルムントとヘルトくんに送る表彰式みたいなものが開始となった。
真ん中にお兄様とおれ、その真正面にヴァルムントとヘルトくんが待機している。
ちなみにおれ達の後ろにはヘルトくんに贈られる例の鎧が置かれていた。
……真っ赤でさぁ、ちょっと気味悪く見えるんだわ。
でもヘルトくんが着たらカッコよく見えそうなものだった。
近くにいる兵士さんが拡散の魔法をかけると同時に、お兄様が声を張り上げる。
「皆の者! 此度は集まってくれて礼を言う! 見て分かる通り、これが大型魔物エイデクゥだ。今後はこれに似た魔物は見つけ次第、速やかに報告をしてくれ。我々が対応をする!」
ざわざわとした声が観客から聞こえてくる。
こんなデカいのを目の前にしたら、絶対戸惑う自信あるわ〜。
でもこうやってお兄様が宣言したので、見つけたら報告が上がってくるはず。
誰だってこんなの相手したくないからさー。
「そして、このエイデクゥの討伐をしてくれた二人の英雄が、今ここにいる! 我々のいる国を守護してくれた二人へ賞賛を送ってくれ!」
巻き起こったスタンディングオベーションは、てっきりなにか爆発したかと思うくらいの音だった。耳やべー。
ビリビリする鼓膜を我慢しながら、笑顔のままで前を見続ける。
おれは皇女としてしっかりするの!
ヴァルムントもお兄様も平気そうだけど、ヘルトくんはちょっとびっくりしてた。可愛い。
「大会は残念ながら中止となった。しかしながら中断したからこそ、国はこの二人を筆頭とした兵によって護られた! 目覚ましい活躍をした二人を讃え、優勝時に贈呈予定だったものを二人に贈ろうと思う!」
おれは後ろの方で待機していた兵士さんから、ひっそりとヘルトくんへ渡す書状を受け取った。
お兄様から各々に贈られるものを記したもので、権利書とか細々としたものは後で当人に渡されることになっている。
今回のはアピール用……、賞状みたいなものだ。
「民の希望たる英雄ヘルトよ、前へ!」
緊張した面持ちのヘルトくんが前に出たので、おれもまたヘルトくんの前に立ち声をあげる。
「英雄ヘルトよ。その功績を讃え、受け継がれし四代皇帝の鎧と、我が国の一部である土地を治める権利を贈呈いたします。……良き領主となり、国を護り豊かにする礎となってください」
「謹んでお受けいたします。……僕は、みんなと共に平和を築き上げていきます! それが僕の夢だから!」
な、泣きそ〜〜〜〜!! 本当に立派になってさぁ……。
だってあんなに小さくて可愛いヘルトくんだったんだよ?
ねーちゃ、ねーちゃってついてきたりしてたヘルトくんだったんだよ!?
あ〜〜〜〜月日ってすぎるのが早いし成長も早いし、でも感慨深いっていうか……。
じ〜んとする心を整えながら、ヘルトくんに領主として任命する書状を手渡す。
ヘルトくんは書状を受け取ってからしっかりと綺麗な礼をした。
……実は堂々としたものをやりたいからと、ヴァルムントに改めて礼の仕方を教わって練習したらしい。
元からできてはいたのに、改めて学んで綺麗にしてくるのは流石だよぉ。
内心でうんうん頷きをしつつ、後ろに控えていた兵士さんからヴァルムントへ贈る書状を受け取る。
その間にヘルトくんは下がっていき、今度はヴァルムントがおれの前へとやってきた。
「英雄ヴァルムントよ。その功績を讃え、我らが国の守護神となる元帥に任命をいたします。今回のように、決して壊れることのない盾としての活躍を期待しております」
壊れることのない盾ってのは、ヴァルムントくんに起こってる勝手に回復を活かして〜とかじゃないからな!
ただの建前なんだからな!
そんなことを思いながら次の言葉を待っていると、ヴァルムントは目が点になることを言い始めた。
「謹んでお受けいたします。我が命は国の為、敬愛する陛下の為、……そして私が愛する貴方の為に」
「ヴァルムント様っ!?」
なっ、なんでおれのことまで言ったの!?
しれーっと言ったヴァルムントくんは堂々としている。
これじゃ名実共にバカップルになるんですけど!?
普通なら国の為だけで終わらせるし、いつもなら公の場でそんなこと言わなかったよね!?
おれが顔を真っ赤にさせると同じくして、歓声にまじったヒューヒューという揶揄いの声まで上がっていった。
お兄様やヘルトくんまで「微笑ましい……」みたいな顔しちゃってさ!!
なっ、なん、なんなの、どうしたのヴァルムントくん!
真面目な顔してぶっ飛んだ発言しちゃってさぁ!!
さっさと終わらせようと、書状を渡してそそくさと後ろに下がる。
なお書状を受け取ったヴァルムントくんは、礼をした後ほんのり微笑んでいた。
君余裕ありすぎでは!?
ていうかなんか……、なんか吹っ切れた感じしてないか?
ただのおれの気のせい?
この先タジタジになりそうな予感を感じながら、その日はトラブルもなく無事に式は終了したのであった。
これでこの章は終了です。
感想やリアクション、評価などしていただき誠にありがとうございました!
再び幕間など単発話挟みつつ次の章にとりかかりたいと思います。
お話がよかったと思っていただけましたら、感想やリアクション、評価などしていただけると大変励みになります!
読んでもらっているんだなぁという実感がすごく湧きます!




