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方針が決まったところで、ようやくヴァルムントは本来会っちゃダメなおれがいるのにビックリしていた。
本当に冷静じゃなかったんだなぁ……。
どうしておれがここにきたのか説明をし、二人で一緒にお兄様へお礼を言おうねと言いつつ名目上の確認を始める。
「ヴァルムント様、決勝戦ではヘルトくんと戦うことになります」
「……ヘルトと戦うであろうとは思っておりました」
「はい。そしてヴァルムント様が優勝された場合は元帥に任命されますが、元帥となる覚悟はありますか?」
最初こそ立場を考えて辞退しようと思っていたヴァルムントだ。
ここでやめておきますって言われるのも不思議ではない。
おれが見つめていると、ヴァルムントは一呼吸置いてから口を開いた。
「ございます。国の盾として身を粉にし努める所存です。ディートリッヒ様の国を、あなたの居場所を私は誰よりも一番護りたいのです」
そうやっておれをときめかせてくるんじゃありません! もう!
折角おさまった熱がぶり返してきたのをなんとか押し戻し、頷きを返した。
「ありがとうございます。決勝戦を楽しみにしております」
ヴァルムントが礼をしたところで、おれは先に戻ろうと背を向けたら思い出したことがあった。
そういえば! おれツィールとの噂についてヴァルムントくんに説明してないじゃん!!
それのせいで会いたいって最初は思ってたのに!
慌てて体を反転させてヴァルムントに詰め寄っていく。
「ヴァルムント様っ! わたくしはあなたが一番好きです! 誰よりも好きです! 参加者とわたくしの不可解な噂が出回っておりますが、一切そのような関係ではございません!」
「か、カテリーネ様、お、落ち着いて下さい……! 噂については私も耳にしましたが、信じておりません。この先も似たような話があったとしても同様に信じません!」
ヴァルムントは少し恥ずかしそうにしながらも、がっちりとおれの肩を掴んで主張してくる。
互いに互いの主張をぶつけ合う謎の構図になってしまった……。
ヴァルムントが信じないと言ってくるのに嘘偽りは見えなかったし、そもそもお兄様から信じる訳ないって言われたのも思い出して、一人暴走する形になったのを反省する。
「申し訳ございません。つい、気持ちが先走ってしまい……」
「……いえ、私はカテリーネ様からそのようなお言葉をいただけて嬉しかったです」
おれただの弁解しかしてないよ?
頭にはてなマークを浮かべながらも、今度こそおれはテントから立ち去って行ったのだった。
◆
休憩室前にはお兄様の護衛の人が立っていたので、先にお兄様が戻っていたみたいだ。
護衛を部屋の外に残してリージーさんと一緒に入っていくと、護衛の人が端に立っていてお兄様は休憩室の椅子に座って寛いでいた。
「おー、おかえりカテリーネ。……大丈夫だったか?」
「はい、ひとまずは問題なさそうです」
後々確認やら考えることやらはあるが、大会を乗り切る分には問題ないだろう。
はっきりとした返事をするとお兄様は深い息をついた。
「そうか、よかった……。あんなヴァルは見たことなかったからな〜」
「お兄様、本当にありがとうございます」
「ん〜? なんのことだろうな? 俺もお前も、しなきゃいけないことをしただけだからな〜」
ちょっとは自慢げにしてもバチは当たらないと思うんですけど!
まったくもうと思いながら、おれはお兄様に近づいていく。
どうした? とおれを見上げるお兄様の右頬に片手を添えて、左頬にキスを送ってあげた。
送ってあげたんだけど……。
「お兄様……? お、お兄様……!」
離れてから見たお兄様は見事に固まってしまっていた。
おれが目の前で手を振っても石像みたいにびくともしない。
実はキス駄目だったりした……?
不安になってお兄様の護衛に顔を向けたら、口元に手を当てて茫然としている。
そ、そんなに駄目!? 実は文化的になんかやっちゃいけないことしてたりした!?
あわあわして今度リージーさんを見ると、リージーさんは相変わらずな笑顔をしているだけだった。
な、何!? マジでこれどういう状況!?
困惑してあたふたしていると、ようやくお兄様は硬直が解けて勢いよく立ち上がった。
「カテリーネ」
「はっ、はい! お兄様!」
「カーテーリーネぇええええええええええ!!」
強く抱きしめられたかと思うと、そのまますごい速さでぐるんぐるん回り始めた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはぁ! お兄ちゃんは……! くううう!! お兄ちゃんは! お兄ちゃんは憧れてて……! 家族……! これが!」
何が言いたいかサッパリ分からなかったが、お兄様がちゃんと喜んでくれたことだけはよく分かった。
め、目が回るし気持ち悪くなるから、そろそろ勘弁してくれお兄様……。
結局何十回か回転した後に解放され、ぐわんぐわんとする感覚に苛まれながら椅子に座り。
そろそろ決勝戦が始まると声がかかるまで、お兄様から喜びの声を聞かされ続けるのであった。




