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噂について、おれとヴァルムントのことを知っている人は誤解していないとは聞いた。
それでも噂ってのは放置しておくと面倒なことになる。
おれだけの噂が一人歩きするのはなんかもう別にいいんだけどさ。
ヴァルムントくんも実質含まれてる噂を放置するのは違うと思うんだよな……。
「カテリーネ様は、ツィールのことが本当は好きなのかも……」って思われてるの嫌だよ。
また変な噂が加速するんでしょこれ!?
お、おっ、おれが好きなのはヴァルムントくんだし!
間違えないでほしいなぁ!?
だっ、だ、だから、……だから今このタイミングで訂正するしかないと思う。
おれに勇気……勇気……、出力を100%に……! うおおおおおおお! 突撃ぃ!
「……よろしいでしょうか?」
みんなに届くよう声を張りながら椅子から立ち上がって、手摺りギリギリの場所まで歩く。
め、め、めっちゃ注目されてて冷汗なんですけれども〜っ!
お兄様がどうした? って顔をしながらも少し下がってくれたのを見てから、全員に向かって喋り出す。
「わたくしもお兄様と同じく、国を盛り立ててくださる方を歓迎いたします。そして、ずっと国の為に働いて下さっている方にも御礼を申し上げます。……本当に、ありがとうございます」
兵士さんが途中からおれの声まで拡声の魔術をかけてくれていて、会場全体に声が響き渡る。
今から盛り立てはそりゃ必要だけどさ、ここまで持ってきてくれた人にも感謝を言っておかないと。
……本当はおれが遅くてごめんなさいって言わなきゃ駄目かもって思ったんだけど、今更蒸し返すのもあれだし言わないでおいた。
考えすぎたらいけないし解決しない問題だとは分かっているのに、ちょっと効いてきたんだよね……。
痛む気持ちを無視しながら、次に言わなきゃいけないことに対してブルブルしつつ思うがままに言葉にする。
「次の試合は決勝戦となります。今の勝敗は……ええと、」
「まぁどう見てもヘルトだな」
ヘルトくんが審判止めたから勝敗つけられてなかったのを、お兄様がきっちりジャッジしてくれた。
分かっちゃいたけどね! 勝手におれが決める訳にはいかないから!
「お兄様、ありがとうございます。……次の試合はヘルトさんとヴァルムント将軍との試合となります。両者共に国を想い、ここまで上がってきた方々です。国の為に戦い抜いた方々です。どうか皆様の目で彼らの姿を覚えてください。国の危機に先頭となって戦ってくださる御二方を!」
歓声と拍手が観客席から巻き起こってちょっと安心した。
まともなこと言えてた? おれ言えてた??
でもまだ言わなきゃなんねーことがあるんだよぉ!
あーーーーー、あーーーーーー!!
言わないと一生の後悔になるから、ここで頑張るんだおれ!! おらぁ!
「……そ、そして、ここからは私事となりますが、御報告させて下さい。先に掲示でお知らせしていた通り、わ、わたくしはヴァルムント将軍と婚約をしております」
ざわざわっとした声と雰囲気に会場が変わっていくのを感じる。
お、おれだってなぁ! わざわざ公衆の面前でこんなこと言いたくないんだよ!
噂するお前らのせいなんだからな!! 変な誤解は今ここで砕く!
恥で消滅しそうになっているおれの後ろで、お兄様が楽しそうな感じになっているのが何となく分かった。お兄様……。
「一部の方に誤解されているようですので言わせてください。わ、わたくしとヴァルムント将軍は、利益などの関係で婚約を結んだのではございません。わたくしが、わたくしが将軍を好きで、将軍もわたくしを好きだと仰っていただいたから成立したものになります。で、ですので! わたくしの気持ちはヴァルムント将軍だけに向けられております! 決して誤解なさらないようにお願いいたします!」
今のおれは体の熱さと羞恥心だけで消滅できる自信しかないぞ!!!
言い切って逆に清々してきた気持ちになっていると、観客はぽかーんとした雰囲気からパラパラと拍手が始まていき、次第に大きなものへと変化していった。
ヘルトくんは微笑みながら拍手してくれてるが、ツィールは何これ……って顔をしていた。すまん。
と、とにかく、これで噂してた君達分かってくれた!? ねえ!? おれの羞恥心と引きかえに分かってくれたよね!?
「皇女は言わされてる」とか言われたら引っ叩きにいくぞ!!
気持ち半泣きでいると、お兄様がすごく笑いたいのを我慢しながら前に出てきて、片腕でおれの肩を抱いた。
「ごめんな皆、ありもしない噂をたてられて我慢ならなかったみたいなんだ。皆も好き勝手な推測だらけの噂は立てないようにな〜。それじゃ、この試合は終わりだ。次は決勝戦だ! 皆、開始時間に遅れるなよ!」
いい具合にお兄様が閉めてくれて、この場は解散となった。
……はー、はー。本当は言うべき場じゃなかったのは分かってたけど、言ってよかった……。




