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TS生贄娘は役割を遂行したい!  作者: 雲間
TS元生贄娘は誤解を解きたい!
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 片方にはヘルトくん、片方にはツィールがいる会場をおれは観客席から見下ろしている。

 両者共に準備は完了していて、後は開始の合図を待っている状態だ。


 主人公対決……、主人公対決かぁ。

 ゲームではいざこざはあったりしたけど、直接戦うことはなかったなー。

 とはいえなぁ。ヘルトくんが本編終了後なのに対して、ツィールは本編を経ていない。

 それまでツィールが何してたか分からないとはいえ、経験値はヘルトくんのが上だと思うんだよねえ。

 だってトラシク2が始まるのって数年後だし、その間の成長がないってなるとさ。

 おれがツィールが2主人公だって分からなかったのも、微妙にツィールが幼かったのと緑マント付けてたってのもあるし……。

 でも対決が楽しみな部分があるのは否めない。

 なんてったって、魔法剣士同士によって巻き起こされる炎と風が舞う直接対決なんだからさ……!


 ……ん? あれ?

 そういえばツィール、魔法剣使ってないな?

 2主人公がいたことにビックリした部分が大きすぎて、使ってないのに気が付かなかったわ。

 なんかのキッカケがあって魔法が使えるようになったんだっけ……?

 いや、素質は元からありはしたのに、問題があって使えなかったとかそんなようなのがあったような、なかったような。

 普通は素質があると分かってから訓練するものなので魔法を使うのに手間取ったし、言葉の足りない師匠に悩まされたとかあった……よね?

 アイアム記憶ボロボロマン……。

 なんて頭を捏ねくり回していたら、審判が開始の合図を告げていた。


「……始めっ!」


 ヘルトくんは様子見なのか、動かずに剣を構える程度に留めている。

 一方のツィールはガンガンいく作戦っぽく、ヘルトくんへと直進していった。


「すげー勢いだな。感情的すぎる」


 お兄様の言う通り、猪突猛進がすぎている。

 前の試合でも感情任せではあったっぽいけど、今はおれでも分かるほどになりふり構わない突進に見えた。

 だって顔が鬼気迫る顔になってるんだもん!

 トラシク2だともっと冷静な性格だったと思うんだけど!?

 なんでこんなに……、あっ。

 冷静に考えなくとも、今のツィールって実質父親のグスタフを亡くしてそんなに経ってない頃じゃん。

 んでヘルトくんってグスタフの仇じゃんか!!

 ヘルトくんが解放軍の頭だったことは誰かに聞いたらすぐ分かることだし、あっ、あっ、あー……。

 おれが頭を抱えたいと思っているところで、ついにヘルトくんとツィールが衝突をする。

 ツィールが鋭い突き攻撃を繰り出すと、ヘルトくんは剣の腹で突きを受けてから押し返して後退していく。

 その後退を許さないと言わんばかりにツィールは足を前へ前へと出し、連続で素早い突きを繰り返す。

 激しい攻撃にヘルトくんは焦ることなく冷静にひとつひとつの攻撃をいなしていった。


「今までそこそこ冷静な部分はあったのになぁ。このままだったらヘルトの勝ちだな」


 腕を組みながらそう言ったお兄様の言葉は本当にその通りだと思う。

 ヘルトくんは明確な反撃はしないものの、全てを綺麗に受け流している。

 攻撃に転じたら一気にツィールが崩れてしまうのがおれでも予測できた。

 それでもヘルトくんは攻撃する気がないみたいで、ずっと攻撃をいなし続けている。


「どうしてヘルトくんは反撃をせずに受け続けているのでしょうか」

「ん~……。憶測でしかないし、お前にはあまり聞かせたくない話なんだが……。それでもいいのか?」

「聞かせてください」


 おれの即答を聞いて、きお兄様は顎に指を当てながら言葉を続けていく。


「分かった。……あ~、そのだな。ヘルトのところにはたまにな、恨みを持っているヤツがくることがあってだな……。アイツもそんな感じがするんだよ」

「そのようなことが……!?」


 ヘルトくんに襲撃してくるだって!?

 ゆ、許せね~~~!!

 ……でも、来るのは分かるよ。

 トラシク2でその辺描かれてたのもあったし。

 没落した貴族の人がヘルトくんに当たったりとかはまだ納得できたんだけど、変革を望んだ側がヘルトくんに責任を押し付けることもあった。

 思っていたのと違う! って。

 お前らが変革を望んだんやろがい! って思ったね。

 ま、人間ってそんなもんよ……。


「そういった人間をヘルトは無下にせず、相手の怒りを受け止めてから話を聞こうとする。ほんと、できた人間だな~ヘルトってやつは」


 そう言ってカラッと笑うお兄様だけれど、お兄様も大概似たようなものなのでは……?

 会議とか話し合いとかで、直接戦いはしなくても色々言われてるでしょ。

 兵士さん達に止められててるだけで、他にもいたりしたんじゃないの?

 あ~やだやだ。立場のある者として頑張っている人に、ただあれこれ言えばいいってもんじゃないだからな!

 おれがぷんぷんしていると、お兄様は笑顔を苦笑いに変えてからヘルトくんを見つめる。


「ただな、それが上に立つ者の責務ってやつだ。それを受け止められなきゃ上に立つ資格なんてない。だから今、ヘルトもアイツの気持ちを受け止めようと頑張っているんだ」


 お兄様とヘルトくんが人格者だから出来てることであって、全員が全員やってるとは思わないけどなぁ。

 ただでさえ大変なのに、もっと心労深まることしてたら心配すぎるよ。


「そうであったとしても、ヘルトくんやお兄様が全て背負う必要はございません……」

「俺のことも心配してくれるのか、ありがとな。一番分かりやすい不満の当て先のは俺達だから仕方ないさ。でもな、俺やヘルトにはお前や仲間がいる。お前達がいてくれるから、俺達は頑張れるんだ」


 なんだか誤魔化された気がする……。

 どうにかしにくい問題だっての理解してはいるよ、勿論。

 それでも怒らずにはいられないっていうか。

 なんだかなーと思いつつも、佳境に入っていった試合へと意識を戻したのだった。


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